50話、天上人


38日目。

今日は地獄迷宮の三層目をクリアしにいこうかな、と思っていたのだが。


「大変だぞタキナ。はやくこい」


ゼストから呼び出しをくらった。

寝起きだが、すぐに外に向かう。





「なんじゃこりゃ」


岩?山の破片?のようなものが、街の外れに転がっていた。


「ついさっき、ちょうどこの上をハイランドが通ってな。そこから落ちてきやがったんだ。幸い、俺ら側には被害は無かったが……」


ハイランドとは、浮遊している島だそうだ。

世界を飛び回り、たまに気紛れに地上に降りて街や村となにかしらの取引をする、という不思議な島。

それの航行ルートがアグニの街の上だったようだが。


「それで……これも落ちてきたと?」


「ああ……天使族、わかるか?」


「いえ全く」


天使族。

地上にいる、人族、エルフ族、ドワーフ族、魔族、獣人族、魚人族など……それらは、教義の差などがあれど、創造神ユリスを信仰している。

が、天使族は、ユリスを信仰していない。彼らは、ユリスの目であり、声であり、ユリスの一部であるからだ。

天使族は、ユリスが地上へと干渉する際の子機といってもいい。


「ハイランドに天使はいなかったはずだが。何故か降ってきたわけだ。しかも、黒い羽根。堕天使だな……」


堕天使とは、ユリスの子機としての役割を果たせなくなった個体のこと。堕ちる理由はいろいろとあるが、一番多いのは『古くなったから』らしい。


しかし目の前の堕天使は、古そうではない。

他の理由だと、単純に活動停止したとか、呪いにのまれたとか。

あとは、感情が芽生えてしまった、とか。


「ひとまず目ぇ覚ますまでは、うちの城で預かっといていいか?」


「ああ、ええ。助かります。起きたらまた呼んでください」


ということで、堕天使を保護した。ゼストが保護すると言うからには、まあ危険はないのだろう。多分。





改めて、朝ごはんを食べる。

今朝はベーコンエッグマフィンだ。飲み物はいちごミルク。

先日、いちごも植えられていた。季節とかなにも関係なく全てがちゃんと育つな、うちの畑……


「ハンバーガー、食べたくなったな」


午前のうちに、調理班のところに行こう。





昼過ぎ、ハンバーガーの試作が出来上がったので、そろそろ地獄迷宮に向かおうと思う。

ハンバーガー、ひとまずは初期段階の物が出来たので、ここからソースやら味付けやら変えていろいろつくってもらう。調理班が優秀で私は嬉しいよ。

と、その前にオールゴーレムを作り出す。これはドワーフへの貸し出し用だ。便利すぎるのと、研究用だ。


「マリア、いこっか」


「はいです!」





というわけで、地獄迷宮なう。

三層の草原は、今のところまだ平和だ。


しばらく進むと、やはりヘルキャバリーの軍団が襲ってきた。三層はこれとトカゲだけなのだろうか。


「おつかれさま。マリアも強いねぇ」


「まだまだなのです!ママみたいに強くなるのです」


マリアのママは、やはり前代のヴァンパイアロードだった。もしかして、襲撃を予知でもして、娘を他所にやってたのかな。

そしてマリアより強いヴァンパイアロードを倒した魔王軍、やっぱり油断はできないな。


四層を目指し、まっすぐ進む。

ヘルキャバリーとデカいトカゲを倒し続けていると、また新しい魔物を発見した。


「金色だ」


「ごーじゃすなのです」


宝飾品をふんだんに散りばめた、黄金の鎧のヘルキャバリーがいた。しかも単騎だ。


「え、テイムしようかな……きになるけど強くなさそう……」


「キラキラなのです!欲しいのです」


マリアはキラキラが好きだなぁ。よし、この子はプレゼントしよう。


「よし、テイム!マリア、この子は好きにしていいからね。プレゼントよ」


「わぁ!キラキラなのです!嬉しいのです!」


さて、魔物情報を見てみよう。



ゴージャス・キャバリー。

ヘルキャバリーの特殊上位種。ゴージャス。

魔力をゴージャスに使えるため、全ての属性の魔法をゴージャスに使える。特に得意なのは光魔法。実は鎧をうっすら光らせている。そうすれば更にゴージャスに見えるので。

突進力や耐久もヘルキャバリーより数段ゴージャス。指揮力もゴージャスなので、重騎兵隊の隊長としての運用が一番ゴージャスだろう。



うん、なるほどね。強かったわ。


さて、この子はボスじゃなかったみたいだけど、マリアがゴージャス・キャバリーに乗って気分がゴージャスになったので一旦帰ろうと思う。

明日こそは三層クリアしよう。急がなくてもいいのだが、キリのいいところまではサクサク進めておきたいなあ。


晩御飯はゴージャスに焼肉パーティーだった。

住民全員が、ゴージャス・キャバリーの騎手の前に乗せてもらっているマリアをとても微笑ましく眺めていた。可愛いよね、わかる。

お姫様にでもなったようだ。……いや、もともとお姫様だったわ、マリアは。

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