49話、この街でしかつくれない
地獄迷宮からひとまず帰宅。
バリちゃんはひとまず二層班に配属した。
時刻は夕方頃。晩御飯の匂いがしてきたので、調理班の様子を見に行こうと思う。
この前も言ったが、いまこの街では様々なパンがつくられている。
そして、パンの材料には、ゴールデンホルスタインのミルクや、この地で育った巨大鶏の卵などが使われている。
小麦も、最高の環境で最強に育った最高品質のものだし、水も前までは魔法使いが生み出していたが、今朝からは黒龍の降らす恵みの雨を濾過して使っている。
何が言いたいかというと、このパン、他所では物凄く高価なのだ。値付けが出来ないと言われるほどに。王族ですら食べられるものではないと、ヒナさんがしみじみとつぶやいていた。
誰が言いはじめたのか、金色に光る稲穂の小麦、ゴールデンホルスタインの金のミルク、巨大鶏の卵の輝く黄身をあわせた、『黄金のパン』と呼ばれる事が多い。色もそうだし、価値もそうだよな、ということらしい。
パンだけでなく、この地で育った野菜や、迷宮で狩猟した肉などを使ったものは、全てこの街でしか味わえないものと言って過言ではない。
この街の特産品は何だ?と問われれば、食べ物関連を挙げる住民がほとんどだろう。
だが、この街でしか作れないものは他にもある。
まずひとつが、深海鋼をつかった武具。国宝級のそれは、今やこの街の標準的な武具となっている。エルフたちの腰のショートソードやナイフも全て深海鋼製だ。
そして、魔導鋼、ミスリル、オリハルコン、アダマンチウムの武具もそう。
七層から運び込まれたゴーレムの残骸は、魔導鋼とミスリルはドワーフの工房へ、オリハルコンとアダマンチウムはハヤトの元へ運ばれる。
それぞれ、武器防具や、住民向けの魔道具などに加工される。庭仕事のスケルトン達の農具も、いずれはこれら希少鉱石製になるかもしれない。もはや、普通の鉄や銅などのほうが希少ですらある。
そして、これが一番大変な事なのだが、私含め、この街の主要な歩兵戦力には、聖剣か魔剣が与えられることになった。
これはハヤトが毎日つくってくれる。
一日一本、聖剣か魔剣がつくられる街……さすがにとんでもなさすぎて、他所にはバレないようにしないといけないと思う。ほんとに。
ところで、晩御飯はシチューだった。
これもこの街特有なんだよな、多分。私が前世のものが食べたくて口を出しまくったので、この大陸で馴染みのあるものとは全く違うものになった。
小麦とミルク、バター、チーズ、タマネギでルウをつくり、コーン、鶏肉、いもを主に、たまにカボチャやベーコン、魚などを入れる。今日はベーコンの日だ。お肉ゴロゴロで嬉しい。硬めのパンに浸して、ゆっくり食べた。
ご飯を食べ終わってティータイムを楽しんでいたところ。
ドガン!
と、爆発音が響いた。
「……誰だろ、ドワーフかな?」
ひとまず、外を見に行こう。多分荒野側だ。
荒野側の少し離れたところは、ドワーフやハヤトの実験場になっている。多分そこで誰かがなにかをしているのだろう。もう日が沈む頃なのにな。研究熱心だなぁ。
向かうと、やはりハヤトとドワーフがいた。
「なにしてんですか」
ドワーフとはしゃいでいたハヤトが、少しだけバツが悪そうにこちらをみた。
「ああ、その、タキナさん、うるさくしてごめんね?さっき完成した兵器の試し打ちがしたくてさ……」
「兵器ですか……?」
どうやら、ドワーフと共に、兵器開発を行っていたようだ。知らなかった。
見せてもらったのは、筒。筒だ。私も使わせて貰うことにした。
持ち手があり、肩に担ぐ形になる。
持ち手についているトリガーを引く。
パシュ……ドガン!
構えた方向にある岩に向かって、弾が飛んでいき、爆発。岩は砕けた。結構な威力だな……
「昔ならこんなのパッと生み出せたんだけどね。今回のコレは、魔導鋼のボディに魔導回路を組み込んで、火薬の代わりに魔力で推進力を生むようにした弾を打ち出すようになってるんだ。弾頭自体も魔導鋼のコーティングをしていて、打ち出されたタイミングで内部の魔力回路が暴走、ターゲットにぶつかったタイミングで魔力爆発を起こすようなものにしてみた。火薬でつくっても良かったんだけど、この世界風にアレンジしてみたくてね。これなら魔力の込める量次第で威力も変えられるし、面白いかなって。たとえばコレにリッチが全力をこめれば……ふふ、いずれお願いしようかなあ。兵器開発は楽しいね。他にもいろいろあるんだけど、見ていくかい?」
「あ、遠慮しときますね」
ま、まあ、いろいろ楽しんでるようだ。
私はもういいやって事で、日が沈んだら実験終了のルールを新たに設け、寝ることにした。
だが、そうだな、剣を持たせても弱いだろうスケルトンでも、銃やグレネードランチャーを持たせることができれば、大変な戦力になるだろう。さすがにチートがすぎるが。……ハヤトさん転生チーターだったわ。仕方ないか。
アレコレ言ってもなるようになるだろうし、戦力が増える分には問題ない。これからも楽しんで兵器開発を進めてもらおう。
さて、明日に備えて今日も早く寝よう。
明日も街が平和でありますように、と願いながら、ケルちゃん枕で眠りについた。
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