34話、殲滅。



「今代魔王の名は『レギオン』って言うっす。そのまんま軍勢って意味っすね」


「ああ、アイツか……おかしいな?アイツは戦争なんぞやるタマじゃなかったぞ?」


「気が狂ったらしいすよ」


「……そりゃあなんとも」


魔王軍が街に攻めてくる。大変だ、どうしよう。

レギオン……軍勢。どういう能力なのだろう。

ゼストとヒナさんが知っていることを粗方教えてもらう。


「レギオンは、魔物に自身の欠片を植え付けて支配するんす。で、それをけしかけてくるんすよ。前に防衛戦に参加した時は、魔物だけで一万くらいいたっす。数だけで、中身は雑兵だったすけど」


いちまん……いちまんってどれくらいだ?

守れるのかな……不安が……


「レギオンなら、ゲートの魔法が使える。おそらくそれを使って砂漠に出てきたのだろう。街に来るまであと……三時間くらいか?」


三時間!?

バンちゃんに乗り、高空へ飛ぶ。

周りを見渡す……私が帰ってきたところとは少しそれた荒野の向こう、砂漠の側に、それらがいた。

一面の魔物。あれが襲ってくる、のか。


「あれ、でも……」


見えるところにはいるが、動きはゆっくりだ。大群の移動は遅くなるという。……まだ、三時間あるのだ。

それに……


「ゴブリン、スケルトン、オーク、あれはゾンビかな?大きいのでもサイクロプスが数体と、スケルトンドラゴンが三体。……あれ、弱い?ほんとに数だけ?」


全然、勝てるんじゃない?





「というわけで、私はトロちゃんでぶっころしにいきます。スラちゃんを筆頭に残りの魔物たちで、街を守っておいてください。ゼストさんが指揮官、ヒナさんが人側の将、ゴブちゃんが魔物の将ね。というわけで、あとはよろしく!」


「あっ、おいタキナ!軍には魔族がいるはずだから気をつけろよ!できれば捕らえてこい!」


「了解です!いくよ、トロちゃん。……全部潰して」


さて、蹂躙だ。





「あはははは!いっけートロちゃん!!ぶっとばせー!」


トロちゃんの上で、私はとても気分が良かった。

足元で、敵が潰れていく。はね飛ばされ、巻き込まれ、踏み潰され、軍勢が割れていく。


「え、なにしてるのトロちゃん、息いっぱい吸って……えー!ブレスできたの!?すごーい!!あはははは!」


ロックドラゴンの切り札、ソニックブレスで軍勢に一直線の隙間ができる。

敵はさほど頭のいい軍ではないらしく、空いた隙間を埋めるだけ埋めて、トロちゃんに向かってくる。

どうやら、そういう風に支配されているようだ。……狩り残しが無くなりそうで助かる。


「前線から削っていこう、よし!トロちゃん、ダッシュ!楽しーねー!」





街まで1時間ほどの距離。

瞬く間に、魔物の軍勢が削り取られていく。

数万は居た魔物が、もう残り数百程度だ。殲滅である。


「さて……生き残りの中で強そうなのは……?トロちゃん、あそこ、大きいのがいる所にブレスできる?……ありがと。アイツ強いね」


大物に守られた位置、トロちゃんのブレスを耐えた魔物がいる。

真っ黒な骨の魔物。リッチかな?……他には生きてる魔物は居ない。あれが今回の指揮官だろうか。


「魔族がいるとも限らないのか……アレはテイムできるかな?てい……あ、今日分使ったんだったわ……トロちゃん、もういいよ」


黒いリッチ、欲しかったな。

戦闘終了。





無事、何事もなく、トロちゃんのみで数万の魔王軍……?を殲滅した。

相手がただの雑魚魔物の寄せ集めだったのが大きかったか。


「魔物しかいなかったのか。……魔族はどうしたんだ?普通はこういう行軍には一人は幹部が着くだろう。それに、雑魚しかいなかったんだよな。……本当に、魔王軍なのか?」


「レギオンの欠片は確認出来てるっすから、魔王の軍勢で間違いは無いっすよ。まあ、言いたいことはわかるんすけど、普通の人間の街ならこれでも十分脅威っすからね?勝てはしますけど」


どうやらなにか引っかかるところがあるらしい。

が、とにもかくにもひとまずは、防衛戦大勝利ではある。なので。


「祝勝会!しますよ!ほら!話はあとで!」


「酒をもてい!肉を焼けい!宴じゃぞー!」


「……まぁ、話は後でいいか」


「そっすね。飲むぞー!」


被害ひとつなく街が無事だったのだ。その幸運を祝わねば。

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