3話、私じゃなかったら死んでた



異世界追放生活、二日目。

朝から残りの果物を食べ、森へ向かう。

果物は大当たりだった。甘くて瑞々しい。水分の事も考えてなかったが、これならこの実だけである程度はなんとかなりそうだ。肉も食いたいが。


ロックドラゴンには、荒野の側で勝手に飯を食ってこいと言っておいた。嬉しそうに地面を鳴らしながら走っていった。ワニみたいな走り方でかわいい。





さて、森だ。迷子になると詰むので、森の入口がわかる程度の深さまでしか潜らないことにした。

昨日蜘蛛に出会った地点まで向かう。

果物がまだまだ大量に生えている。メロンくらい大ぶりなため、ひとつだけでも結構腹にたまる。


「蜘蛛さん蜘蛛さん……いないなー」


ちいさめのサルみたいな魔物は結構いるのだが。それらは私には目もくれず、どちらかというと避けるように果物を回収して去っていく。

そういえば、昨日蜘蛛に刺されていたのもあのサルみたいなやつだったな……


そうぼんやり考えていた。

ザンッ!


「!?」


急に視界がぐるぐるまわり、止まった時には自分が空を向いているのがわかった。

奇襲だ。それも、首に。

すこーしだけちりっとする首元を抑え、まわりを見渡す。

近くの木の上に、それはいた。


「蜘蛛さん……奇襲されたのか。昨日の私なら死んでたよね。ロックドラゴン、ありがと」


気を取り直して、蜘蛛に向き合う。

こちらを伺っているのがわかる。そうだろう、普通なら首と胴体で分かれているものだ。不思議に思っても仕方ない。


しかし、その隙は私の前では命取りだ。命はとらんけど。


「蜘蛛さん! テイム!」


パッと蜘蛛が震えた。……伺うような姿勢では無くなった。カラカラと鳴き声を上げている。どういう意味かは知らないが、もう敵対心はなさそうだ。心が繋がった感じがする。テイム成功だ。


「今日の分もおしまいかー。さてさて、おいで!」


蜘蛛はカサカサと木をおり、瀧奈に向かってくる。

するどい腕をのばし、私の目の前に差し出した。


「ん? よしよし。いい子だねぇ。かわいいねえ! 甘えてるの?」


キュルル、キュルルと、蜘蛛が喉を鳴らす。

まるで猫のようだ。甘えんぼうなのかもしれない。




アサシンスパイダー。

隠密に長けた、二メートルほどの巨大蜘蛛。糸は出さないし、毒もない。

とにかくするどい腕で獲物を刺し殺す。主食は肉。たまに果物も吸う。

体の表面は細かい毛に覆われていて、撥水性が高い。ふわふわ。

視界の悪い場所ではめっぽう強いが、開けた場所では差程でもない。するどい腕が通用しない相手にも無力だ。とにかく隠密で暗殺するタイプの魔物だ。




「さて、この子にはお肉の調達を任せようかなー。大丈夫かな? できる?」


キュルル!と一声鳴くと、カサカサと立ち去った。どうやら狩りに出てくれたようだ。

私は果物を集めながら、森の出口に向かう事にする。


「夜ご飯にはお肉と果物……ああ、火が使いたいなぁ。火起こしは無理だろうし、火を起こせる魔物を……さすがにご都合主義すぎるなぁ。森だしな……」


いまさらだが、肉は生で食べれるのかと心配になってきた。

まあ、お腹壊しても体力はあるし……食べてから考えるか。

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