第6話 茂登子からの電話

時より茂登子から電話が入った。ほとんどが旦那への愚痴の類だったが、時より茂登子の本音が 顔を覗かせる時があった。

「さすがに花はもう枯れちゃったけど、先生がくれた指輪まだ持ってるよ。」

「銀の指輪か。」

「ねえ どこ行かない。」

「どこかってどこに行きたいんだ。

茂登子は結婚を機に退職したらしい。まだ子供のできない 今は暇を持て余しているらしかった。

「塾の先生も世間が言うほど暇でもないんだけどなぁ。」

「暇なんでしょ。」

「ドライブでもするか?」

「うん」

「とりあえず 藤が丘にでも行ってみるか。」

「いいよ。」

藤が丘にはいろんな子とよく出かけた。藤が丘の駅周辺にはいろんなものがあった。しゃれた喫茶店からバー、フレンチレストラン イタリアンレストランいろんな種類の店が集まっていた。

「なんだかんだ言っても旦那さんは優しいんだろう。」

「まあね。私のこと好きだから。」

「いい気になってるとやられるぞ。」

「やられるって何を?」

「もっといい女が現れて旦那を取られるとか。」

「ありえない。」

「あの人 真面目 だし。」

「それは良かった。」

「ほんと 私のこと好きだから。」

「それはそれは結構なことで。」

「でしょう。」

「つまんないのよ。」

「何が。」

「何もかも。」

「20代で何もかもつまらないなんて、それは大変だ。」

「どうしたらいいと思う?」

「普通そういうことは 友達に相談しないか。」

「いいじゃない 暇なんだし。」

「だから世間が思ってるほど暇じゃないって。」

「早く何か考えてよ。」

「何か趣味でも持てば。」

「趣味?」

「絵でも書くとか。洋服でも作るとかさ」

「洋服ねぇ。」

「リフォームするとか。」

「マンション だから無理。」

「ニコルンみたいにアパレルの会社作っちゃうとか。」

「…服とか作ったことないし。」

「だいたい私が会社の経営 なんかできると思う。」

「暇を持て余した主婦はだいたい、男に走るか 会社でも作るかどっちかだと思ったけどな。」

「それしかないの。」

「まあ今思いつくのは」

「子供でもできればいいんだろうな。」

「ママになるのが一番だよ。ままは忙しいらしいぞ。」」

「またどこかに勤めに出るとか。」

「いいかもね。」

「だろ。」

「暇ならそうするべきだよ。」

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