第13話 囚人たち

 「ってえ〜……」


 「おいジェシー! 何してやがんだ!」


 「…………」


 「二人とも静かに! 看守にバレてしまうだろう!」


 突如として現れた四人にレイは呆気に取られるもすぐに正気に帰り叫ぶ。


 「そこを動くな!」


 空間の歪みのようなものを展開すると、そこから得物である刀を取り出し構えるレイ。

 これも《生命の樹セフィロト》の能力の一つ《罪科天獄マルクト・サンダルフォン》。異空間を生み出し、そこから物の出し入れなどを可能にする『異端力』だ。


 リサもレイに倣い武器を構える。

 ここでようやく二人に気が付いた四人は動きを止めると敵対の意思がないと示すように両手を上げた。


 この四人は一体何者なのか。

 レイは静かに観察を始めた。


 構成は男三人の女一人。

 統一感のない四人組だとレイは感じた。

 年、格好、ここへ来た直後の反応までバラバラ。

 まるで寄せ集めの傭兵団のような集まりだった。


 だが、気になることがないわけじゃない。

 これだけの大人数での移動となればコミュニケーションによる連携は必須のはず。

 レイはこの数日間、《天眼千里コクマー・ラジエル》を使い監獄内を盗聴していた。

 四人が四六時中一緒に行動しているわけではないにせよ、その監視網に一切引っかからなかったのは不可解でしかない。


 そう怪訝に思っていると、近づいてきたリサが耳打ちした。


 「レイ様、私の見間違いでなければあの四人、天井からすり抜けるように現れたように見えたのですが」


 「何?」


 四人の現れた瞬間を目撃したリサの言葉にレイは軽く目を見張った。

 物体をすり抜けるなど魔法を用いたとしても出来るとは思えない。

 リサの勘違いという可能性も捨て切れないが、この監獄のこと考えるとあの四人の誰かの『異端力』だと仮定した方が自然だ。


 そして、次に浮かぶ疑問はこの四人は何をしているのかということ。

 最も考えられるのはやはり脱獄だろう。連中の反応を見るにその過程でレイの牢屋に迷い込んだと思われる。 


 いや、こうしてあれこれ考える必要はないかとレイは思考を中断した。

 当事者たちが目の前にいるのだ。直接聞いた方が話が早い。


 「これから俺が問うことに全て答えろ。答えなければお前たちを全員殺す」


 刀の切先と殺気を向け、質問に答えろと強く脅しをかけると三者三様ならぬ四者四様の反応を見せる。


 「ひぃっ!?」


 「…………」


 「落ち着いてくれ。私たちは君に危害を加えるつもりはない。だから武器を下ろして欲しい」


 そんな中、反抗的な態度を見せたのは黒い肌が特徴の筋骨隆々とした体格の青年だった。


 「あ? 何だとテメエ? そっちがそのつもりならオレだってやってやるよ!」


 青年は突き付けられた殺意に臆するどころかそのまま殴りかかりそうな勢いで距離を詰めてくる。


 (こいつを大人しくさせないことには話は始まりそうにないな。悪いが見せしめとして少し痛い目を見てもらおう)


 そう決めたレイは刀を水平にしたまま引き戻し中腰になると軸足に力をかけ、刺突を繰り出す構えを取る。

 ここまでの動作を終えて、青年が近づけた距離はたったの一歩。

 レイの洗練された流れるような動きによって為される達人技に青年は抵抗することさえ出来ず、体へ刀先をめり込ませ突き飛ばされる。

 背後から見守っていたリサはそう確信した。しかし――、


 「アイザック!」


 それを止める声が割って入った。囁き声ではあるが緊迫感を伴った強い声に青年――アイザックは足を止め、声の方を振り返る。

 声の主は四人の中では唯一レイとの対話試みていた、二人レイとリサと然程年の変わらない黒髪の青年だった。


 「いきなり現れた私たちを彼が警戒するのは当然だ。ならばまずは警戒を解くため、こちらから話すべきだ。だから落ち着いてくれ。騒げば看守がやってくるかもしれない」


 そのよわいに似合わない落ち着いた物腰でアイザックを諭す青年。

 青年の身長は同年代男子の平均より高くはあるが、対するアイザックはそれよりも一回り大きい恵体で目つきの悪さも相まって目を逸らしたくなるような威圧感を纏っていた。

 だが、青年は物怖じすることなく、その視線を真っ向から受け止めてみせる。

 ここでやり合おうものならレイは二人を殺してでも黙らせるつもりであったが、やがてアイザックが諦めたようにため息を吐いた。


 「……わーったよ。大人しくすればいいんだろ」


 そう答えるとアイザックは振り返ったまま体を青年の方へ向け、元いた位置に戻っていった。

 アイザックの性格上、あっさり引き下がらないと思っていただけに意外だったがこれは好都合。

 レイは刺突の構えを解き、刀を下ろした。


 「まずお前達は一体何をしている? 何のために俺の独房にやってきた?」


 しかし、殺気は緩めないまま問いを投げかける。


 「それに関しては私から説明させてもらおう。私はミカ。彼ら共に脱獄を目的として動いているここの囚人だ」


 「……何? ミカ……だと?」


 ミカ。そう名乗った黒髪の青年にレイは思わず目を見開いた。

 その目に宿る感情は驚愕と怒り。いや、割合で言えば怒りの感情の方が大きいだろう。

 それを示すかのように放っていた殺気が鋭さを増したのをミカは感じ取っていた。


 「――どうしたんだ? そんな顔をして。何か私が気に障ることをしたなら――」


 「……いや、何でもない。続けてくれ」


 レイは煩わしげに首を振り、釈明の再開を催促した。

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