第20話 異世界でもキャンプの知識は有用です

 全員が疲れた状態だったので、今日中に帰るより、今日は一旦寝て明日帰った方が安全だということになり、俺たちはキャンプの準備をしている。


 リークが周囲を見回しながら、「よし、ここにしよう。木々が密集していて風をしのげそうだ」と言った。ゴルドは早速荷物を下ろし、「じゃあ、俺らは薪を集めてくる」と申し出て、さっそく準備に取り掛かった。


 リーフは「シーク、少しクロムと一緒にここで待っていてくれ。簡単な木の実とかを取ってくるよ」といい木の上に上り、木々を軽やかにに移動していった。ブルームは地図を広げ、「私たちの現在地を確認して、明日の帰路を計画しておきましょう」と提案した。俺はキャンプの設営を手伝いながら、森での一夜を過ごす準備を整えた。


 テントの設営などは元の世界で、キャンプを叔父さんとしていたからそれなりに慣れている。


 俺は手慣れた様子でテントを広げ始めた。まず、平らな地面を選び、小石や枝を取り除いてテントの設置場所を整えた。次に、ポールを組み立て、テントの骨組みを作る。ポールをテントの生地に通し、しっかりと固定していく。


 ペグを使って四隅をしっかりと地面に固定し、テントが風で飛ばされないようにする。最後に、フライシートを被せて雨や露から守る。作業を終えると、コンパクトだが安定感のあるテントが完成した。


「よし、これで雨が降っても大丈夫だな」と、満足げに出来上がったテントを見つめた。


 クロムがうしろで「すごい!すごい!」と手をたたきながら喜ぶ。

 その様子はまるで幼稚園児のそれにも見える。


 俺が「ありがとう」と答えると、「わっ」っと言いながら俺が今設営したばかりのテントの中に入っていた。


 しばらくすると、リーフが木々の間から軽やかに降り立った。手には様々な色と形の木の実が入った小さな袋を持っている。


「みんな、こんなのが見つかったよ」とリーフは笑顔で言った。「食べられる木の実を人数分集めてきたんだ。少し甘いのもあるから、デザート代わりになると思う」


 リーフは集めた木の実を皆に分け始めた。赤や紫、黄色など、色とりどりの実が手のひらに乗せられていく。「これは栄養価も高いし、疲れも取れると思うよ」と説明を加えながら、リーフは木の実を配っていった。


 しばらくすると、リークとゴルドが戻ってきた。二人は大量の薪を抱えていた。


「これで今夜は十分だろう」とリークが言った。ゴルドも頷きながら、「寒くなる夜に備えて、少し多めに集めてきたぜ」と付け加えた。


 二人は薪を地面に置き、キャンプファイアの準備を始めた。リークが薪を組み、ゴルドが火打ち石で火を起こす。すぐに小さな炎が立ち上がり、周囲を温かな光で包み込んだ。


 ブルームは火が安定するのを待って、リーフが集めてきた木の実と自身が持参していた保存肉を取り出した。「みんな、お腹が空いているでしょう。簡単な煮込み料理を作りましょう」と言いながら、小さな鍋を火にかけた。


 彼女は手際よく木の実を洗い、保存肉を適当な大きさに切り分けた。鍋に水を注ぎ、まず肉を入れて煮込み始める。「木の実はそれぞれ煮込む時間が違うから、順番に入れていくわ」とブルームは説明しながら、慎重に調理を進めた。


 程なくして、鍋から香ばしい匂いが立ち昇り始めた。「良い匂いだな」とゴルドが言うと、他のメンバーも同意するように頷いた。ブルームは時々鍋をかき混ぜながら、「もう少しで出来上がるわ。みんな、お椀を用意してね」と声をかけた。


 鍋から立ち上る香りに誘われ、俺は料理の味を想像し始めた。「まず、肉の旨みが口いっぱいに広がるんだろうな。それに続いて、木の実の自然な甘みと酸味が調和して……」


「きっと、保存肉の塩味が全体をまとめ上げて、複雑な味わいを作り出しているはずだ。そして、最後に残る木の実の食感が、料理に奥行きを与えているんだろう」


 ブルームが「はい、できあがり!」と言って、みんなにお椀を配り始めた。俺は温かいお椀を受け取り、一口すすった。


 想像以上の味わいが口の中に広がった。肉の旨みと木の実の甘みが絶妙なバランスで調和し、舌の上で踊るような感覚だった。保存肉の塩味が全体をまとめ上げ、複雑な味わいを生み出している。そして、木の実の食感が最後に残り、料理に深みを与えていた。


「うまい!」思わず声に出してしまった。他のみんなも同じように感動した表情を浮かべている。疲れた体に染み渡る温かさと栄養。この一杯で、今日の苦労が報われた気がした。


 食事を終え、キャンプファイアの周りで軽く談笑した後、俺はテントに向かった。中に入り、寝袋に横たわりながら、今日一日の出来事を頭の中で整理し始めた。


 てリーフたちとの出会い。森を歩き危険な状況を乗り越えてきた。


 新しい仲間たちのことを考える。リーフの機敏さと優しさ、ブルームの知識と冷静さ、ゴルドの力強さ、リークの頼もしさ、そしてクロムの純粋さ。それぞれの個性が、この短い間に俺の中に深く刻み込まれていた。


 そして、テントの設営や夕食の準備。普段の生活では経験できないようなサバイバル的な状況に、少し誇らしさも感じる。叔父さんとのキャンプの思い出が、こんなところで役に立つとは思わなかった。


 最後に、美味しかった夕食のことを思い出す。ブルームの料理の腕前に感心しつつ、みんなで食事を共にした温かな雰囲気が心地よかった。


「明日はどんな冒険が待っているんだろう」そんなことを考えながら、俺は徐々に眠りに落ちていった。異世界での初めての夜、不安と期待が入り混じる中、疲れた体を休める。

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