第19話 ご飯のお供は雑談

 俺たち一行は戦闘が続いて神経がすり減っているのを癒すため、そして空腹を満たすために、ブルームが用意してくれた食事を取っていた。


 食事の8割程度を済ませた頃、リークが俺に話しかけてきた。

「シーク。お前、能力アビリティはなんだ?戦闘中、頑なに見せないから非戦闘向けのものか?」

 能力アビリティ――俺にはまだ無縁のもの。どうやら一定以上の覚悟が必要らしい。


 心の中で何かを絶対に成し遂げると決意を固めた時に能力アビリティは覚醒するのだ。

「俺はまだ能力アビリティに目覚めてないよ」そう答えると、ゴルドは「まぁ、そう珍しいことでもないからな。気にすることはない」とモグモグしながら励ましてくれた。

 ブルームが「そういえば、シークってどこかの防衛団とかに入ってたの?戦いにとても慣れてるように見えるけど」と尋ねてきた。


「いや、防衛団には所属してないんだ。でも、師匠に恵まれてね。その人から戦い方を学んだんだ」と俺は答えた。

 そして、カルバーさんの修行について軽く話した。

 話をしながらカルバーさんのことを思い出した時、ふと気づく。そういえば、魔物を倒した時に吸収する魔力は完全に馴染まないから、なじませなきゃいけないんだっけ。


「まだみんなご飯食べてるしいいか」と俺は呟き、座禅を組んで精神集中する。吸収した魔力と自身の魔力を同じ川に流すようなイメージを持って体内の魔力を調整する。

 戦いで、魔力を使い慣れてきたこともあってか、以前とは段違いのスピードで調整を終えることができた。


 魔力の調整を終えた俺は、ほっと一息ついた。体の中を流れる魔力が、より自然に、より滑らかになったのを感じる。この感覚は、まるで体の一部が強化されたかのようだ。「よし、これで次の戦いにも備えができたな」と、自分に言い聞かせる。


 食事を終えた一行は、互いに顔を見合わせた。リークが立ち上がり、「よし、みんな。休憩は十分取れただろう。これから森の調査を再開するぞ」と宣言した。


 ゴルドは武器を確認しながら、「えっと、どの方向を探索する?」と尋ねた。ブルームは地図を広げ、「そうね、このまま森の奥を調査するのがいいと思うわ」と提案した。


 リーフは立ち上がり、体を軽く伸ばした。「了解。みんな、警戒を怠らないようにしよう」


 パーティーのメンバーは頷き、装備を整えながら森の奥深くへと向かう準備を始めた。


 パーティーは慎重に森の奥へと進んでいった。木々が密集し、日光が地面まで届かない薄暗い環境の中、五感を研ぎ澄ませながら周囲を警戒する。落ち葉を踏む音、枝がこすれ合う音、そして時折聞こえる小動物の気配に耳を傾けながら、一歩一歩進んでいく。


 リークが先頭に立ち、地形を確認しながら安全なルートを選んでいく。ゴルドは後方から全体を見渡し、不意の襲撃に備えている。ブルームは地図を確認しつつ、時折周囲の植物を観察し、何か有用な情報がないか探っている。リーフは木々の間を軽やかに動き回り、周囲の状況を細かくチェックしている。


 しかし、時間が経つにつれ、森の中に特に変わった様子は見られなかった。魔物の気配も感じられず、不自然な痕跡も見当たらない。ただ、深い森の静けさだけが彼らを包み込んでいた。


「何か変だな」とリークが呟いた。「こんなに何もないのも逆に不自然じゃないか?」


 ゴルドも同意するように頷く。「確かに。普通なら、この辺りで何か手がかりが見つかってもおかしくないはずだ」


 ブルームは周囲を見回しながら、「でも、逆に言えば、何か重要なものが隠されているのかもしれないわね。だからこそ、周囲が異常なほど静かなのかも」と推測を述べた。


 リーフは木の上から降りてきて、「俺も周囲を探ってみたけど、特に変わったところは見つからなかったよ。でも、この静けさは確かに不自然だ」と報告した。


 調査を始めてから数時間が経過していた。日が傾き始め、森の中はさらに暗さを増していく。それでも、彼らは諦めることなく探索を続けた。時折休憩を取りながら、互いに情報を共有し、次の行動を決めていく。


「もう少し先まで行ってみよう」とリークが提案した。「何か見つからなければ、今日はここまでにして引き返すことにしよう」


 全員が同意し、さらに奥へと進んでいく。しかし、状況は変わらなかった。深い森の中、彼らの足音だけが響いていた。


 日が完全に沈み始めたころ、リークは立ち止まった。「今日はここまでだ。ギルドに依頼と森の様子がおかしいことを報告しに戻るぞ」と指示を出す。


 全員が疲れた表情を浮かべながらも、納得の様子で頷いた。何も見つからなかったことへの失望はあったものの、それ以上に、この不自然な静けさが何を意味するのか、という疑問が彼らの心に残った。


 俺は考えていた。「何もないということは、何かあるということなのかもしれない」

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