弱ったドラゴンを助けたら、恩返しをしてくれた話〜契約成されて強くなった〜

藤本敏之

ミーノ村のカル

アルクィード王国の辺境地にあるミーノ村。ここは兎に角なにもない。名産、特産、観光、全てがない。広大な畑と田があり、年貢として本国に食料を送る手立ては充分にある…ただそれだけの村…それがアルクィード王国におけるミーノ村だった。名産、特産が無いとは言ったが、珍しい野菜や果物が無いだけで、作れるものは山ほどある。気候が充実しており、暖かい地方、寒い地方が関係ない…植えれば育ってくれる…そう言われているからこそ、目立った食品が無いのである。観光が無いのも、この世界の人々は自然のものを愛でる習慣が無いためで、時期において様々な花が咲き誇り、とても綺麗なのだが…


さて、そんなミーノ村には子供が少ない。その中の1人、この物語の主人公カルについて説明しよう。カルは今年8歳になったばかりの子供。ミーノ村の農民、キックスとカーラの一人息子だ。兎に角身体が他の子供よりも大きく、キックスと共に朝から畑仕事や新しい防柵作りに精を出しているから力は強い。しかしそれを誇示することなく、隣近所の人達の手伝いもよくしている為、皆から好かれている少年だ。今も、キックスと共に村の防柵作りの為に木を鉄斧で斬っていた。ガンガンと音をたてて斬っていき、

「倒れます!」

そう叫ぶと他の皆は大木のそばから離れて避難する。父親や他の村人より大きな大木を、短時間で斬り倒す事ができる、カルの能力だ。


この世界にはステータスと呼ばれるものがあり、普通の人でも自分の能力を観ることができる。その中で重要になるのが職業だ。例えば多くいるのは農民、漁師、狩人、兵士、商人等の職業。この世に産まれて直ぐに判別されるのではなく、物心ついたときにステータスを確認して初めて解るものだ。その上で能力値に補正がされる。例えば農民ならば体力、漁師なら敏捷、狩人なら直感などだ。その項目は力、敏捷、体力、直感、知性の5項目に別れる。兵士になると力と体力に補正がつく。2つ以上補正がされる職業は優遇され、1つしか補正がされないのは一般職と呼ばれたりもする。


さて、軽い説明はそれだけなのだが、カルの職業は…「?」である。冗談ではなく、本当に「?」としか書かれていない。自分以外にもステータスを開示することは出来るが、カルが誰に見せても「?」と書かれているという。一度だけキックスに連れられて王都へ行き、教会で神官長に高いお布施を払って見てもらったが、やはり「?」だった。アルクィード王国ではカルの職業について調べる調査隊が組まれたりしているのだが、そんな事は関係ない。日々の生活の為には仕事をしなければならない。そんなわけでカルは父親の仕事の手伝いを、3歳から行っている。先程言ったとおり、他の村民の為にも働いている。本当は同じ年頃の子供達と遊んでいて欲しいのだが、寧ろカルに負けないように自分達の出来ることを率先して子供達も行っているので、文句は言えない。今日も防柵の木をしっかりと必要数斬った所で夕方になり、続きは翌日となった。カルとキックスは鉄斧を肩に掛けて家路を急ぐ。家ではカーラが食事を作ってくれていた。

「カーラ、帰ったぞ!」

「ただいま。」

「おかえりなさい。あなた、カル。」

そう話して鉄斧を置き、手を洗ってカーラの手伝いをする。食事を始めて直ぐに、カーラがカルに聞く。

「カル、明日はアティアちゃん達と遊ぶ日よね?」

「そうです。」

「気をつけてね。危ないことしちゃ駄目ですよ?」

「解っています、母さん。」

翌日は子供達全員で集まる日だった。普段家族の手伝いをしている子供達が、全員で仲良く遊ぶ日を決められており、その日は子供は仕事をしないと村長が話し、村民全員納得の上で決まったことだ。その話にカル達も納得していた。そしてその夜は早めに寝て、翌日のためにゆっくりと眠った。

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