第34話 賑やかな出産

 華やかで賑やかな年越しを終え、雪に凍える日も過ぎて、暖かさが花々を花開かせる頃。


 アリシアのお腹は、はちきれんばかりに膨らんでいた。


「もう、なんなのコレ。三つ子でも出てくるのかしら?」


 アリシアはフーフー言いながら、椅子から立ち上がった。


「さすがの「金の魔法」も、そこまで大きくなったお腹は、軽くしてはくれないか?」

「当たり前でしょ、お父さま」


 少しむくれて言うアリシアの姿に、その場にいた他の者は思わず噴き出した。


 両親とアリシア、そしてレアン。


 朝食を四人で摂ることにも慣れてきた。


 後は新しい家族の登場を待つばかりである。


 そして、その時は突然、訪れた。


「ウッ……」


 アリシアは椅子の背もたれを掴んで、苦しげに顔をゆがめた。


「アリシア⁉」


 隣に座っていたレアンが、驚いて立ち上がる。


 父であるリチャードも、気遣わしげな表情を浮かべて立ち上がった。


「ふふ。そろそろかしらね」


 母であるニアは、にっこりと笑みを浮かべた。


 そこからの展開は早かった。


 ダナン侯爵家に常駐していた医師が呼ばれ、メイドたちは沢山の湯を沸かし、慌ただしく使用人たちが動き回るなか、男たちは意味もなくいったり来たりを繰り返し、ニアだけが椅子に腰を下ろして静かにその時を待った。


「痛ーいっ!」

「若奥さま、もう少しの辛抱です。耐えてください……。今ですっ! いきんでっ!」

「んんーっ」


 アリシアはベッドの上で唸っていた。

 その部屋にいるのは、医師と看護士だ。

 その傍らを、メイドたちが忙しく出入りしている。


「大丈夫でしょうか?」


 アリシアが戦う部屋から追い出されたレアンが、ドアの方を心配げに見つめる。


「だっ、大丈夫だよっ。アリシアは強い子だっ」


 廊下を熊のように行ったり来たりしているリチャードが答えた。


「二人とも落ち着いて? 慌てたって、子どもが早く生まれるわけじゃあるまいし」


 ニアは椅子に座ったまま、ニコニコして男性ふたりをたしなめた。


「義母上は、落ち着いてますね」

「ん、ニア。キミは、落ち着き過ぎでは?」


 レアンとリチャードに突っ込まれても、ニアが動じることはない。


「ふふ。経験者ですからね。大丈夫ですよ。それにアリシアには「金の魔法」がかかっているんですから。そこにいるレアンに何事もなければ、無事に赤ちゃんは生まれます」

「それは分かっているが……あぁ、落ち着かないっ」


 リチャードは苛立ちを解消するかのように、自分の髪を乱した。


「頭では分かっていますが……不安ですよ」


 レアンはドアの方を見つめた。

 部屋の中からは、アリシアの唸り声と叫び声が交互に聞こえてくる。

 レアンは心配げに眉をひそめた。


「産まれましたー!」


 医師の叫びが響き、男性陣を呆れながら見ていたニアの表情が輝く。


「あぁ、やっと会えるっ!」


 スックと立ち上がったニアに対して、男性陣はホッとして力が抜けたように椅子へと腰かけた。


「もう、殿方ときたら。まったく……」


 ニアは呆れたように溜息を吐くと、スタスタと部屋の中へと入っていった。


 レアンとリチャードは、椅子の上で大きな安堵の溜息を1つ吐き、ニアの後に続いて部屋の中へと入っていった。

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