第3話 父親たち
僕のお父さんは酒造業者で街の顔役の一人だ。
それにヤオのお父さんは乾物屋でお金を持っているのでこの街では発言力が強い。
リンがミレーヌに手を出そうとした事。
それを突っぱねた事。
その事をリンが逆恨みして噂を流した事などを僕とヤオが二人に話したのだ。
「信じてもらえないかもしれないけど」
「でも本当なんだって!!」
僕とヤオの二人で父親たちを説得しようと試みる。
証拠は無いのに無茶な事をしたものだと後で思い返すたびに冷や汗がでる。
「まったくリンのお坊ちゃんにも困ったものだ」
「だが悠長に構えていればミレーヌのお父さんが街を出てしまう」
あれ?あっさり信用してくれた。
てっきり怒られると思っていた僕とヤオは顔を見合わせる。
「街でも噂になっていてな。馬鹿馬鹿しいが田舎の大人はこういう話が大好きなのだ。そしてミレーヌのお父さんが居なくなってから後悔するのだよ。その時はもう遅いのだが」
「わしら二人は馬鹿馬鹿しいと思っていたがここまで拗れると街の医療に関わる。ミレーヌのお父さんのお陰でうちの店員が何人も病気や怪我から救われた。今度はわしらが手助けせんとな」
ミレーヌのお父さんは確かな技術で僕のお父さんとヤオのお父さんだけでなく、とても誠実に沢山の人の治療を行っていた。
この街の医師は薬学が主で手術などの外科技術は無い。
ミレーヌのお父さんを批判しているのはそういう医師たちも含んでいる。
「いずれ街の人にも誠意は伝わると思うが時間がない。やるしか無かろうな」
そう。
ミレーヌのお父さんが信頼されるまでは時間がかかる。
だが今回は時間がない。
そんな悠長なことをしていては街から優秀な外科医が失われる。
そう決断した僕のお父さんとヤオのお父さんは早速街の商工会議所で主な商人を集めて会議を開いた。
そこでなんとか過半数の票を得たのは僕のお父さんとヤオのお父さんが街の人から信頼されていた証だろう。
その結果、街の商工会議所で正式にミレーヌのお父さんを医師として認め契約する事が決まった。
これでミレーヌのお父さんは仕事を続けられることになり、軋轢のあった薬草学専門の医師たちも手出しできなくなったのだ。
また裏でリンのお父さんとも話をつけたようだ。
事態に激怒したリンのお父さんはリンを問い詰めたらしい。
それからリンは一か月学校に来なかった。
「おい、あれリンか?」
学校の校門で登校してきたリンを見た周りの子供が驚きの目をリンに向ける。
リンは顔面をボコボコに殴られてまだあちこち腫れていた。
また長かった髪も短く切られていてリンのお父さんがリンを激しく折檻した跡がありありと見える。
リンのお父さんは厳格な人だったようだ。
息子が卑劣な行為を行った事が許せなかったのだろう。
一介の街医者に過ぎないミレーヌのお父さんの所に直接詫びを入れに来たとミレーヌに教えてもらった。
「あの時はびっくりしたよ。ボクが家の扉を開けたら、リンのお父さんがボコボコに殴ったリンを連れて頭を下げに来たんだ」
そう言って満面の笑顔で僕とヤオとシンジとミンとスグハの仲良し組にその時の事を教えてくれた。
リンのお父さんはミレーヌとミレーヌのお父さんの目の前で膝を折って詫びたあと、リンの頭を床に押し付けて目の前でリンの長い髪を切ったらしい。
「マジかよ。リンの親父おっかねえ」
父親が兵士のシンジ。
つまり将来リンのお父さんの部下になるシンジが困ったように呟いた。
「シンジ。大変な人に仕える事になるんだからいい加減な事したら首が飛ぶんじゃない?」
そう言って笑いながらシンジの首に指を当てるミン。
いつもの軽口のつもりだろうがシンジは真面目にこくこくと頷いた。
「でもリンのお父さんが引退したらシンジはリンの部下になるのね。大変じゃない?」
「その前に俺が戦死しなかったらいいけどな」
シンジ全然笑えないから。
国境で妖魔と戦う兵士の寿命は短い。
「ボクのお父さんはこれでお医者さんを続けられるよ。みんなありがとう」
ミレーヌが僕達にお礼を言うとスグハが楽しそうに小さく手を振って答える
「あたいとミンとシンジは何もしてないさ。今回はユキナとヤオが頑張ったからさ」
「ユキナ、ヤオ。ありがとう」
そう言ってミレーヌは僕とヤオの頬にキスしてくれた。
僕もヤオも顔を真っ赤にしてるとスグハが僕とヤオの頭を押えてぐりぐりと楽しそうにいじくる。
それを見ていたシンジもミンも楽しそうに笑う。
リンの取り巻きの少女達もリンが以前のような権勢を失ったのでリンから離れていった。
女子って怖いと僕は学んだ。
そのあとリンは噂を広めたのが誰かに伝わったのか学校に来づらくなり、首都の騎士団へ見習いという名目で修業に出される事になる。
あの性格が騎士団で直ればいいけど。
直らなかったらシンジが将来苦労するからシンジの為にも立派な騎士の跡取りになってほしい。
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