幽霊の探し人

正体不明の素人物書き

第1話「姉を探し続けて」

 ある日。

 大学在学中に内定が決まったこともあり、内定先に近いところに部屋を探している。

 だが、高級っぽいマンションばかりな上に、家賃が思ったより高くて手が伸びない。

「通勤に便利だと思ったんだけどなぁ…」

 通勤にあまり時間をかけたくないこともあり、近いところを探している。

 そんなときだった。


 携帯に着信があり、誰だろうと思って見てみると、バイト仲間だ。

『よぉ。風のうわさで聞いたんだけど、部屋探してるんだって?』

「よく知ってるな。けど、高級っぽいマンションばかりで、しかも家賃が高いところばかりで…」

『そのことなんだけど、お前にぴったりな物件があるんだ』

 これを聞いて飛び上がりそうになった。

『その物件のことで話があるから、今からバイト先に来れるか?』

 丁度、今いるところがバイト先の近くだったのでOKして向かう。


 ・・・・・・。


「本当に、この部屋にそんな安い家賃で住んでいいのか?」

 部屋の写真を見せてもらい、詳細も確認したのだが・・・。

「このマンション、親が持ち主だからな」

 だからって…この値段は、今住んでるアパートより安いぞ・・・。


 何やら言いにくそうな顔をしたが、特に気にすることはなかった。

 自分にピッタリな物件だと言ってたが、どういうことだろうか?

 これを実際に住んでから知ることとなるのだった。


 大学を卒業し、バイト仲間が進めてくれた部屋に移り住んだ。


 部屋は写真で見た以上に広く、生活に必要なものはそろっていて、かなり快適そうで得した気分だ。

(こんないい部屋をなぜあんなに安く…? 親が持ち主でも変な話だな…)

 変に思いながらも、荷物を箱から出し、使いやすい配置にした。


 元から置いてあったちゃぶ台に何やら書いてある紙が置いてあり、重要な内容かもしれないと思って見てみた。


『この部屋は、日が沈んでから翌朝の日が昇る時間まで閉じ込められる。その前に次の日の準備をしておかないと大変なことになる』

「何だこりゃ? まさかあいつ、これを知ってて…」

 つまり、この部屋は事故(?)物件で、だれも住もうとしないから家賃が格安だったということか・・・。

 今時、そんなホラーなことがあるのか?と思った。


 紙に書いてあることを信じたわけではないが、本当だとしたらマズいと思い、明るいうちに夕飯の弁当をコンビニに買いに行った。

 自炊もできるが、荷解きで疲れてしまったからだ。

 一応、両隣の部屋に挨拶したが、住んでる部屋を知ると顔を青くして逃げるように扉を閉められた。

(何だったんだ?)


 夜になり、風呂にも入った後で、何をしようかと思った。

 体が火照っていたこともあり、夜風に当たろうかと思って外に出ることにした。


 だが・・・。


 出入り口に近づいたとき、ガチッという音がして鍵が閉まった。

 頭に?と浮かべながら鍵を開けるために右手を伸ばした時だ。

「!?」

 右手の手首に、誰かの手が触れた。しかもその手は氷のように冷たい。

 触れた手をたどっていくと、そこにいたのは自分と同じ年頃の女性だ。

 髪はセミロング。服装は薄い水色で長袖のワンピース。自分から見たら美人だと思った。

 だが、ずっと俯いており、そのままで、冷たい左手で頬に触れてきた。

「・・・?」

 特に何も言わずにいると、何かを書いた紙を見せてきた。

『一人に、しないで…』

 これを見て、寂しがりやなんだなと思った。

 外に出るのをやめてリビングに戻ることにした。


 お互いにちゃぶ台を挟んで座る。

「襲う気はないみたいだな…自分のこと、わかるか?」

 俺が聞くと、女性はちゃぶ台においてあった真っ白な紙にシャーペンで字を書いて、それを見せてきた。

『私は、夕凪ゆうなぎ 礼香れいか怜美れみという姉を探してる』

 口は動かせても、声を出すことはできないみたいだ。

『姉に、会いたい…』

 姉、か…。

 どうやら、外に出ることもできずにこの部屋を彷徨っているのか・・・。

「この辺の人なら、何か知ってるかもしれないな…俺のほうでも、時間があったら調べてみる」

 これを聞いて礼香は顔を上げた。その顔は微笑んでいるように見えた、が・・・。

「目の下のクマがすごいぞ。寝てないんじゃないのか?」

 可愛い顔をしているが、目の下はタヌキかと思わせるぐらい真っ黒だった。

「とにかく、もう寝ようぜ? 俺も明日から仕事だから」

 そう言って俺は自分の布団に入って寝た。


 翌朝。

 スマホのアラームで目を覚まし、昨日の夕方に買っておいたおにぎりとカップの味噌汁で朝飯を済ませようと思った。が・・・。

「ん? 何の匂いだ?」

 何やらいい匂いがする。

「これは・・・味噌?」

 え?と思ってキッチンを見てみると、礼香が立っていた。

 礼香は俺が起きたことに気づいて振り向く。その顔にはクマがなかった。

「幽霊なのに、触れるのか?」

 俺が聞くと、クスッと笑った。


 俺は着替えて顔を洗い、ちゃぶ台の周りにおいてある座布団に座る。

 ちゃぶ台には白米の飯がつけられた茶碗とみそ汁を入れたお椀が乗っていた。

 俺は味噌汁と一口すする・・・ん?

「・・・美味い」

 これを聞いて礼香はホッとしたみたいだ。

(幽霊ってこんなことできないのでは?)

 朝から力がみなぎった感じになり、仕事に行く時間になったので出入り口に向かった。

 昨夜のことでまさかと思ってカギを回したが、何事もなく普通に開いて安心した。

「じゃ、行ってくる」

 礼香に一言言って部屋を後にした。


 入社したばかりで、しかも研修生ということもあって覚えることが多くて焦る。

 だが、高校の時に実習で学んだこともあったため、何とかついていけた。


 休憩時間になり、先輩たちから大丈夫か?などと声を掛けられ、気遣いをありがたく感じた。

 その時に、どこに住んでいるのかを聞かれ、正直に答えると、聞いたみんなが顔を真っ青にした。

 どうやら、あの部屋のことを知っているみたいだ。

「よくあんな所に住んでるな…」

「バイト仲間が紹介してくれた物件ですけど、あの部屋の実態を知ってたのか、家賃はかなり安くしてもらいました」

 これを聞いてみんなが驚いた。

 その時に、夕凪姉妹のことを聞いてみたが、知っている人はいなかった。

 先輩たちだけでなく、上司たちにも聞いてみたが、結果は同じだったことに変に思わずにいられなかった。


 変だな…礼香はいつからあの部屋に…?


 この日はこれで終わり、部屋に帰ると、礼香が作った夕飯が用意されていた。

(昼は会社の食堂で食べた)


 礼香が当たり前のように料理をしていることを変に思いながらも、美味いからいいかと自分に納得させた。


 数日が過ぎたある日。

 合間を縫って夕凪姉妹のことを聞きまわっていたが、有力な情報は得られなかった。

 どうしたものかと思いながら、仕事を終えて部屋に帰る。

 まいったなぁと思いながら、リビングに向かったが、その途中にあるバスルームから何やら音がした。

 水が水道から流れ出る音が聞こえてくる。

 水漏れかと思い、扉を開けると真っ暗で、変に思いながら電気をつけると・・・

「え・・・」

 電気をつけた瞬間に見たのは、髪を上げてバスタオルを体に巻いている礼香の後ろ姿だった。

 礼香は俺の声を聴いた瞬間に一瞬で消えた。

(風呂に入ろうとしてたのか…まずいことになったな…)

 水道を止めてバスルームの電気を消し、扉をゆっくりと閉めた。

 リビングに行こうと振り向くと、目の前には服を着て頬を膨らませた礼香がいた。

「わ、悪かったよ! 水が流れる音がしたから、水漏れかと思ったんだ」

 これを聞いて、渋々ながらも納得したみたいだった。


 気を取り直し、礼香が用意した夕飯を食べるが、礼香はずっと、ジト目で俺を見ていた。


 しばらくして俺は一人で風呂に入る。

 湯舟にはすでに湯が張ってあった。

 丁度いい熱さで、疲れが取れる感じだった。

 が、そんなときに礼香のバスタオル姿を思い出してしまい・・・

「肩の部分しか見てないけど、綺麗な肌だったな…」

 と呟いたら、

 ザッバーン!!!

 大量の湯が、滝のごとく俺の頭にかかった。

「・・・・・・」

 礼香の仕業か?

 俺は何でもないかのように湯船から出て、風呂椅子に座って頭を洗ったが、ある程度洗ったところでまた思い出した。

「体、細かったな…」

 と呟いたら、

 ザッバーン!!!

 とまた、大量の湯が滝のように俺の頭にかかった。

「・・・・・・」

 普通は慌てるのかもしれないが、頭の泡を洗い流してくれたことに感謝したのだった。


 風呂から上がり、寝間着を着てバスルームから出ると、礼香が頬を膨らませて立っていて、何かが書かれた紙を突き付けるように見せてきた。

『セクハラ!』

「褒めたのに?」

 コン!

「いて!」

 側頭部を金属で叩いた音と痛みを感じて横を見ると、お玉が浮いていた。

「お玉で叩くな! 結構痛いぞ!」

『うるさい!』

 そう書かれた紙を突き付けてきた。

 褒めたのに怒られるってどういうことだ?と思いながら布団に入る。

「あ、もしかして怒ったのって…」

 独り言のように言うと、礼香が振り向いた。

「…照れ隠し?」

 これを聞くと、礼香は何かを投げるような仕草をした。すると・・・

 コーン!

「いってー!」

 どこからか飛んできたお玉が、俺の額に当たった。

(これは図星か?)

 なんて思いながら、横になって寝た。


翌朝、鏡で額を見たら、お玉が当たったところが赤かったのは余談かな?

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