役目を終えた聖女様
細蟹姫
プロローグ
禍々しい瘴気を纏った黒龍の脳天を、まばゆい輝きを放つ光の矢が打ち抜いた。
間髪を入れず、けたたましい断末魔が世界中に響き渡り、大地を揺らす。
まともに立っていられない程に大きな地鳴りが収まった後、恐る恐る顔を上げて様子を伺うと、戦で荒れていた大地には緑が咲き、長らく黒い霧のかかっていた空は青く澄み渡り、呼吸一つまともに出来なかった汚染された空気は浄化されて、マスクをとって胸いっぱいに息を吸い込んでも呼吸困難になったりはしなかった。
――― あぁ、聖女様。本当に、本当にありがとうございます。これで、これでこの国は救われます。
隣で私に指示を出していた魔法使いの老人・リュリュさんが、目に涙を浮かべながらかすれた声で何度も頷く。黒龍との戦いで満身創痍だったはずの兵士たちも、興奮冷めやらぬ勢いで勝鬨を上げていた。
「ありがとう。スズ。君ならやってくれると信じていた。」
「いいえ。全てはこの国の皆様の、国を救いたいという思いの結果です。」
「スズ…ありがとう。君の様な人が聖女で、妻で、私は幸せだ。」
グイッと肩に力がかかり、私の身体は夫であるラウリ様に引き寄せられる。
否、最前線で敵との攻防を繰り広げていた彼の身体は、当然のごとく満身創痍なので、気力だけで立っている彼を私の肩で支えている…という方が正しいのかもしれない。
(これで終わったんだ…じゃぁ、これからどうしたらいいんだろ?)
黒龍が最後に居た場所をじっと見ながら、どこか遠くに思いを馳せているラウリ様の重みを感じながら、私はこの場の皆とは同じことを喜べずに、漠然とこの先の事を考えていた。
***
お読みいただきありがとうございます。
この作品は、ギリギリでコンテストに参加する事にしたため、不定期頻発投稿となります。3日後には完結する予定です。
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