天禍の鈴が響く庭 - 永玉国物語

晦リリ

序章

0:序章


 ドンと音がした瞬間、痛みを感じたのはほんの一瞬だった。

 続けざまに、霰が降ったような小さくも強い衝撃が体中の至るところを襲う。痛みは感じず、視界が黒く染められているせいで、なにが体に当たったかもわからなかった。

 遠く、近く、声が聞こえる。それは囁きのようにも、大音声のようにも聞こえた。



 いやだ、死にたくない。

 傍にいてほしかった……。

 俺がなにをしたって言うんだよ!

 どうして? なんで?

 大丈夫だよ、だいじょうぶ……怖いよお。

 誰かのためなんて嫌だ!

 どうしてこんなことに……。



 声はこだまのように反響して幾重にも重なり、やがて消えていく。

 上下もわからない暗闇のなかに声はすべて消えて行ったかと思ったが、また小さな声がぽつりとこぼれた。


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 縦横無尽に響いていたさっきまでの声とは違い、背後からだとわかる声だった。けれど、こちらにかけられた声ではない。

 背中合わせに立って、相手が暗闇に放った声が耳に届いたのだ。

 涙の滲んだ声は悲しげにしゃくりあげている。思わず振り返ろうとしたが、ぐいと体が引かれた。

 あっと思った時にはもう、暗闇を抜けようとしていた。

 膨大な光が満ちている。眩すぎて光の向こうに何があるかもわからない。

 誰かに名前を呼ばれている。いや、呼ばれていた。もう聞こえない。視界いっぱいに光が広がる。なにも見えない。もう、光以外――

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