第6話 恋する街角【恋を叶える聖女さま】


いらっしゃいませ


『アリスcafe』へようこそ



本日の茶菓子は姫子さんお手製のクッキーをご用意いたしました。

妹さんと一緒に作られたそうですよ。


ミルクティーを合わせてはいかがでしょうか



動き出したイベントで咲く甘い恋バナ



聖女の黒時代を添えてお楽しみください・・・





――――


地域の方々が発表の場として続いている企画

そこへアリスcafeの初出店が決まっておりました。


これも何かの縁かと仮面舞踏会の趣旨を相談しましたところ、コスプレも立派な発表のひとつと実行委員会さんより快諾いただきました。

そこへ謎組織『国際乙女基金』からの資金及びスタッフの人員提供、機材貸し出し設置まで・・・


実行委員会さんとの協議の上『恋する仮面舞踏会』を題目として掲げさせていただきました。


企画を乗っ取ってしまったようで心苦しいものがございます。



「双方に利があるように心がけておりますので心配ございませんわ」


陰で暗躍するエリザベス先輩 『利』があるようでございますね。これについては追及しないように致しましょう。



会場についても地元優良企業様のご厚意により駐車場を含め講堂を貸し出していただけました。

駐車場での車両整理までしていただけるとのこと 頭が下がります。

地域に対してこのような善行を行うときっと良いことがございますよ。


私も大概でございますね。(大人の笑み)



――――


アリスcafeの臨時出店に関しては、エリザベス先輩を中心に謎会議が行われまして素案が実行委員会さんへと提出されました。


cafeの名前は『cafe不思議のアリス』


何も知らされていないはずのしおんさんが命名したそうでして偶然としては出来過ぎではないでしょうか


コンセプトとして『世界樹』を中心に置き、恋を見守る神のような存在といたしました。世界樹の木陰にある落ち着いたcafe 素晴らしいではないですか


メニューを絞って早くお出しできるようにしながらも本格的な品をお出しする。本店アリスcafeの意地でございます。


頂くのは商品の代金ではなくあくまでも募金 目安を示しながらもお客様の任意とさせていただきました。

各種届出や手続きは実行委員会さんにおんぶにだっこ

機材、什器はエリザベス先輩にお願いするしかありません。


意外と揉めることなく各案が取りまとめられて具体的な作業へと移行しました。ここからは各専門スタッフさんのお仕事になります。



しかしこの時に気が付くべきでした。世界樹の設置案が決まった時のエリザベス先輩 そして姫子さんの笑みに・・・



――――



世界樹の設置の総仕上げには『聖女の術』による聖女の祈りが必要だと・・・

そんなお話聞いておりませんよ。



気が付いた時には後戻り出来ない所までお話が進んでおりました。外堀内堀埋め立てて何の抵抗もできません。何よりも可愛い我が妹からの期待と憧れ これは後に引けません。


そして今回の主題であるマスク先輩の恋の為 出来ることはしてあげたいと願う乙女心が私の中にもありました。

それは私だけでなく理由を知る関係者の総意として大きく動き出してしまったのです。



§



構築される私のじゅうななさい人生における最大の黒時代 

人前で行う大規模な『聖女の術』


痛いです。かなり痛いです。参加者は理解ある関係者のみとはいえ恥ずかしいのですよ。



私の妹のように『聖女』の存在に心酔しているのであれば聖なる儀式ですが、基本的に痛い人です。


でもスタッフさんは演出の腕試しとしてワクワク 純粋に技術者としてワクワクしております。私の立場は単に演者と受け取っているのでしょうが・・・痛いですよね。


そして一番厄介なのは内情を知る我がチームの仲間たち にやにやが止まらない状態です。おぼえていやがれでございますです。



――――

――――



えっと 終わりました。


開催前日の夕刻より行われました。『聖女の術』無事に・・・とは言い難いですが終了いたしました。


専門用語で言えばオワタでございます。



盛大なる舞台演出によって飾り立てられた『聖女の術』 客観的に見れば壮大で素敵なものでした。

演出に自ら加わった姫子さん エリザベス先輩 お見事でございました。


私が体調不良により足元がふらつき一時的に倒れてしまったことが唯一の失敗でした。

そんな情けない私の姿も妹から見れば『すべての魔力を使って倒れても世界樹に祈りをささげた聖女』と映ったようです。

高度な演出をしていただいたおかげで妹以外の聖女見習いからも好意的に受け止められる結果となりました。



詳細につきましては他作品にて取り上げておりますのでご参照くださいませ

ここで語りなおすのも恥ずかしゅうございます。お察しください。



ハプニングはありましたが立ち会った関係者の一人、マスク先輩には全スタッフからの応援の声として届いたように感じます。



――――

――――


『恋する仮面舞踏会』 一日目 


スタッフの方々の尽力によりここまでたどり着きました。感無量でございます。



「『cafe不思議のアリス』オープンですよぉ」


アリス店長の開店宣言により私たちのお仕事も始まりました。


誰もが期待していた通り不思議の国のアリスそのままのコスチュームで接客するアリスさん


コスプレ特集は二日目の予定ですが会場内にはちらほらとコスチュームを楽しまれている方々が見受けられます。

そしてエリザベス先輩「リズです」・・・ リズさんも侯爵令嬢のドレスに身を包んでおります。

ちなみに役名を気に入られたそうで今後もそのように呼んで欲しいとのこと 気に入ったこともありますがもう一つ理由がありまして



「先輩と呼ばれますと年齢が上に見られてしまいます。わたくしも乙女ですので」


との主張がございました。いや実際年上ですし敬うべき方ですので・・・ いえ反論しているわけではございません。あの・・・ はい「リズさん」と呼ばせていただきます。


同席していましたマスク先輩も同様に「先輩」が外れまして・・・ 乙女心でございます。



――――


司書さんのご指導の下、丁寧に接客する妹たち


お客様からも好評のようです。聖女見習いの制服として支給したドレス

そんなドレス姿の美少女がウェイトレスをしているのです。なかなか豪華な雰囲気ですよ。


当初少なかったお客さまもアリスさんの奮闘により増えてまいりました。

意外と店長しているではないですか 見直しましたよ。


演出命のスタッフさん渾身の技術に支えられた『世界樹』

少し離れれば本物と区別のつかない樹皮 樹の奥底から湧き出てくるような淡い光

とても良い雰囲気を作ってくれます。


どのような仕組みで演出されているのか聞いたのですが「聖女さまが祈りをささげた効果で精霊が宿っているのです」だそうでして・・・ 

私にまでその説明を使わなくても良いと思うのですよ。



さらには妹たちが『恋を叶える世界樹』として話を広めております。


そして噂話を本物にしてしまった出来事が起こります。



§



わが妹リリーさんがお客さまにお茶をお出しした時です。

大学生くらいのカップルでしょうか 微妙に距離のあるじれじれした様子を醸し出しております。


世界樹を話題にしているふたりを相手にここでも布教を始める可愛い妹がおります。



「cafeのシンボル『恋を叶える世界樹』です。祈ると恋が叶いますよ」


彼女なりに何かを感じたのでしょうか カップルさんに向かって祈りの姿勢



「おふたりの恋が叶いますように」


ドレスを着た可愛い聖女見習いの祈りに少し戸惑うふたり



「・・・恋が叶うってさ」「・・・それじゃあ ・・・叶えてよ」



周りの会話が止まり、一瞬の静けさ

スタッフも動きが止まります。



「お祈りまでしてもらったから・・・な」「あとでやっぱり無しなんて言わないでよ」



ぴったりと重なるような会話 このふたりにとっては今更・・・なのかもしれませんね。


広がる甘い空気と祝福の声



「ありがとう かわいい聖女さま」



――――



聖女になることを夢見る少女が「恋を変える可愛い聖女さま」と呼ばれるきっかけとなった恋バナでございました。


イベントはまだ続きます。


そして恋の花が咲き誇ります。



なかなか語りつくせませんね。



またのご来店をお待ちしております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る