第17話 襲撃
「赤い肌のオーガ?」
ゆっくりとではあるが、着実に街へ近づいている魔物の軍団を注視していたキサカ達が、軍団の奥に巨大な人型の魔物が居るのを確認した。
それまでの間に、オークといった魔物も確認されており、警報レベルを引き上げようかと考えていたところ、まるで血に染まったかのような魔物を見つけたのだった。
「赤いオーガ、聞いたことあるか?」
「オーガであれば精々D+ぐらいだと思いますが、アイツは通常種よりかなりデカいですよ?」
通常種のオーガであれば、人の背丈の二倍ぐらいのサイズだが、近づいてきている赤い肌のオーガは人の背丈とほぼ同じサイズであるオークよりも圧倒的にデカい。
段々と近づいてきて分かるのは、そのオーガはまるで筋肉の鎧と言わんばかりに立派な体格をしており、拳の部分が黒く変色しているところだ。
明らかに通常種のオーガよりも禍々しく恐ろしい、腕の良い冒険者パーティーなら無理なく討伐出来るD+魔物とは到底思えず、下手すれば騎士団長が相手しないと恐ろしい結果が生まれそうだと、キサカは感じた。
「レベル4の警報を鳴らせ!!今すぐだ!!」
「は、はいッ!!」
レベル4の警報は、先程のレベル2の警報と違い、街に住む人々に強制力を持たせることが出来る物だ。
それこそ、危機を打開するために街にある物を無条件で徴発出来るし、行動規制の幅も比にならない。
レベル4の警報を発令すれば、住民たちから
「なんか飛んでくるぞッ!!」
己の直感を信じたものの、心の奥底で何処かこれで良いのか?と不安になっていたところ、少し離れた場所で警備をしていた兵士が周囲に注意を促す。
なんだ?とキサカは思い、赤いオーガの方を見てみると、照りつける太陽の日差しを遮るように大岩がキサカ達が居る監視塔に向かって投げ込まれていた。
ドゴォン!!!
街を護る外壁の一部が飛んできた大岩によって粉砕され、その衝撃により何人かの兵士が地面に叩き落された。
その間、近くに居たキサカ達は悲鳴を挙げることすら忘れ、今何が起きたのかと頭が真っ白になる。
「おい、また投げる気だぞ!!」
ハッとキサカが気を取り戻した時には、既にあの赤いオーガはもう一度キサカ達の方向へ向けて大岩を投げようと、近くの地面から岩を掘り起こし、構えていた。
次は外さない、まだキサカとオーガの距離は遠いとは言え、ハッキリと分かる威圧感がキサカ達を襲い、動きを鈍らせた。
ブオンッ、と先程よりも一回り大きな岩を片手で投げると、その大岩は土埃を周囲に撒き散らしながら一直線にキサカが居る監視塔へ飛んでくる。
先程と違い、狙いはピッタリで、呆然と見つめていたキサカ自身、これは直撃する・・・・・・と分かった。
ただ足が竦み動けない・・・・・・訓練で何度も魔物と対峙したことはあれど、その経験すら押しつぶしてしまうほどの圧倒的な殺意を遠くからでも感じ取れた。
もう駄目か、キサカはそう感じて飛んでくる大岩を眺めていたら、街の内側から空を切り裂くような銀線が三本飛翔してきた。
大岩よりも圧倒的に疾い銀線は、三本の内の一本はキサカ達の方へ向かってくる大岩に空中で直撃して粉砕する。
銀線と大岩が接触した瞬間、周囲にバチリ!!と雷光のような輝きが放たれ、あれほど大きかった大岩はパラパラと木っ端微塵となって無くなった。
「た、助かった?」
その言葉を発したのはキサカではなく、となりでぺたんと腰を抜かしていた同僚だった。
流石にキサカも一緒に腰を抜かして地面に座ることは無かったが、それでも今の状況が混乱していることは分かる。つい数秒前までは人よりも大きな大岩がこちらへ向かって飛んできていたのだ。
そんなキサカ達を置いといて、街の内側から飛んできた残り二本の銀線は赤いオーガが率いる魔物の軍団に直撃する。
着弾直後、半球状に光のエネルギーが広がって魔物達を襲い、ポッカリと綺麗なクレーターを形作った。
『グオォォォ.......』
突然の奇襲で遠くからでも魔物たちが驚いている声が監視塔まで聞こえてくる。
それまでゆっくりとはいえ着実に前進していた魔物たちは足を止めて周囲を警戒していた。
「い、今のうちに騎士団へ報告しに行け!!」
誰が魔物達に大打撃を与えたのかは分からないが、今がチャンスだという事はキサカにも分かった。
まだ狼狽えている部下たちにキサカは喝を入れ、まだ準備中であろう騎士団へ報告へ向かうよう命令した。
『・・・・・・・・・!!』
「なんだ?」
魔物達が一時的に進行を止めたので、精神的に余裕が生まれたキサカは先程の赤いオーガによる投石攻撃の被害を確認しに行くことにした。
一部が崩落した壁の真下付近には門があり、その周辺で何やら争いごとが起きているようだった。
警報による混乱か?とキサカが壁の上から覗いてみれば、門の前で銀の鎧を着込んだ冒険者を衛兵たちが囲み、何やら話しているようだった。
「開けて」
「だから街の外には魔物の大群が居るんだ!!、一人じゃ無理だぞ!!」
シズはその足で門の目の前まで向かい、どうやって街の外へ出るか考えていた。
一番楽で簡単なのは門をたたっ斬る事だったが、後の事を考えれば余計な被害は避けたいところだ。
そのまま壁をよじ登ってもよかったのだが、壁の上には多くの衛兵達が集まっているのであまり近づきたくない、なのでシズは近くに居た門兵に開けるよう声を掛けたが結果としてはそれは裏目に出てしまった。
(・・・・・・そのまま壁を飛び越えて行けばよかったかも)
姉のアルノが魔物たちに先制攻撃を与えて混乱している状況を逃すのは愚者がするものだ。
なので早く現場へ向かいたいシズだったが、彼女が街の外へ行こうとすると衛兵たちが止めてくる。
「その立派な鎧に先程の武器、名のある冒険者なのだろうが今は騎士団が来るのを待ってくれ」
じゃあその騎士団はいつ来るの?と言えば彼らは口を噤むだろうが、それを言えば余計に話が拗れるのでシズは衛兵達の制止の声を聞き流した。
埒が明かないな・・・・・・そう思い、かつ門も壊せないとなれば後は自力で門を開けるしかない。
「お、おい、君!!」
幸いにもサレドの街の門は分厚い木の板に薄い鉄板を取り付けているタイプだった。
街の内側に巨大な閂を使って扉を硬く閉ざし、外敵の侵入を阻むようになっている。
「おいしょ」
ゴトン、と本来であれば大の大人が二人がかりで取り外す閂をシズは片手で持ち上げて外す。その光景に後ろで止めようとしていた衛兵たちからはどよめきの声が挙がった。
そんな彼らを無視して、シズは全身の力を使い巨大な門を開く、ゴゴゴゴと地鳴りのような音が鳴りながらゆっくりと門が開かれていく様子に先程、どよめきの声を挙げていた衛兵たちも嘘だろ・・・・・・と目をまん丸にしながらシズの背中を見ていた。
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