第六話 「邂逅する真実」
【17:50】
「俺の能力は……『ヴァリアス Lv2』だ。」
「ほうほう。英語で、“Various”……色んな、って意味になるのかな?」
「そうです。俺でも色々知らない能力があって、結構応用も効きそうだ。だから、“Various”。
あと、この能力って元は物を弾き飛ばすだけだったんですよ。それが変化して、こんな訳のわからない威力と性能になった。
だから、Lv2です。別に、ネーミングセンスが悪い訳じゃないでしょう?」
「うん。良いんじゃない? 特に呼びやすそうな所が。」
「私も、特に文句はないですよ。」
……貶されていない事は確かなんだが、褒められてもいない。確かに特段センスが良い訳ではないが、もうちょっと位反応くれよ!
「さて、そろそろ騒ぎになるかもしれない。ここからは足で逃げるよ!」
「了解です!」
「分かりました!」
気持ちを切り替え、足を動かす。今はとりあえず、逃げる事が最優先だーーー
【17:59】
「……よし、到着。入るよ!」
走りながら連れられてきたのは、“黒田組”という文字と、何かの紋章が書かれたビルの前。
黒田組……間違いなく、森の弟の方が言っていた組織だ。
……何となく、名前で察してはいたが……ここは、暴力団の事務所のようだ。いわゆるヤクザ、お尋ね者どもの本拠地だ。
「……俺が入っていいんですか、ここ。」
「当たり前でしょ?ここ、私たちのアジトなんだから。」
アジト。やっぱ暴力団の事務所じゃねえか、騙されたか? ……いや、だとしてもだ。来てしまったものはどうしようもない。諦めて、中に入ろう。
「ちょっと優子さん、余計なこと言わないで!一応幸樹くんは民間人なんだからね!」
「あ、そっか。すみません、今後は気をつけます。」
「まあ特に問題のある内容じゃなかったからよかったけど、本当に気をつけて。」
み、民間人? ヤクザとかって、一般市民のことは“堅気”って呼ぶんじゃなかったのか?
やっぱり、何かおかしい。さっきからずっと思っていたが、ヤクザが使うか? グロック。いや、最近なら使うのか……? ヤクザが使う拳銃はロシア製だ、なんてあくまでイメージだからな。
それはともかく、内部を観察しておこう。入り口のすぐ側にエレベーターがあったが、そこの表記は最下が一階、最上が五階だった。
……ってかなんとなく選んでいたが、階段から行っていて正解だった。これならある程度中も観察できる。
二階、三階……特に目立った様子はないな。内部の書類なんかが散らかっている様子もないし、こっちの方は襲撃されていないようだな。
……いや、待て。おかしいぞ。
四階を見て、違和感が出てきた。奥の方に棚が見えたが、ほとんど中身が入っていない。
紙媒体でのデータ保管はしていないのかとも思ったが、別にPCが何台も並んでいる様子はない。その上、机の上にも特別物が多い様子はない。思い返せば、三階までもそうだったような気がする。何なんだ? この組織は。
そして最上階、五階に到達する。五階には部屋が一つだけ。『組長室』の、これだけだ。
そして店長がその部屋をノックするのだが、何だか知らないが回数が変だ。
そして、なぜか向こうからもノックしてくる。
さらにもう一度店長がノックをした後、どうぞという声が聞こえた。やはりこの組織は変だ。ただのヤクザにはない、何かがある。
そして、ドアが開けられた。
「やあ、桐咲くん。ぶっ壊した車の代金は君持ちでいいかな?」
「ご冗談を。敵が突っ込んできたんですよ?経費で落とせますって。」
「あの車いくらしたと思ってるんだ?全く。」
ドアを開けた先にいたのは、所謂おっさん。背丈は俺より少し高い程度だろうか?
飄々としあ笑顔を見せるが、目が全然笑っていない。車ぶっ壊されたんだろうから、まあ当然ではあるか。
「おっと、お客さんがいたんだったね。
やあ、確か……前田幸樹君。君が娘を助けてくれたのか?」
「……多分、俺なんでしょうけどね。この方もしかして、娘さんですか?」
「ん? そうとも。私の自慢の娘だよ。ナンパされていたと思って助けてみたら、とんだ大事故に巻き込んでしまったな。本当に、申し訳なかった。」
と言われ、深々と頭を下げられる。見た目は軽薄そうだが、意外と人間できているらしい。
「ああいえ、頭を上げてください。別に怪我もろくにしていませんから。」
「いいや、今後するかもしれない。そういう事態に、君は巻き込まれてしまったんだ。
君は今、彼らに我々の関係者だと思われている。」
「彼ら、とは?」
「敵性勢力、としか教えられないな。少なくとも、今の君には。とにかく君は我々の仲間だと思われ、そして実際に、彼らの中でも戦闘能力が高い部類に入る二人を倒した。倒してしまったんだ。
今後はもっと敵が襲ってくるだろう。君の顔が知れ渡ったからね。君の素性は丸裸にされ、攻撃を受けるだろう。家族にも危険が及ぶ。」
……また謎が増えた。敵性勢力、なんて言われたって訳がわからない。わからない所を聞いたつもりが、ますます理解できなくなっている。
「だが、その点は安心して欲しい。君たちの身柄は我々が保証しよう。両親はいるかい? いるとしたら、どこに住んでいる?」
「あー……両親、ですか……」
「ああ、話したくなかったか?それならいいんだ、こっちで調査するから。」
「いやいや、違うんです。こう言っただけだと信じてもらえないと思うんですが……
俺、記憶喪失なんですよ。だから家族の記憶とか、無くて……」
「……意地悪い事言わせてもらうけど、証明できるのか?その事実を。」
「ええ、病院から診断書が出てます。家にありますから、取ってきましょうか?」
「あぁぁーっ!待て待て待て待て!
今外に出るのは危険だ。襲撃されるかもしれない。今日の所は、ここから出ないでおいてくれ。危険だからね。」
出られないのか⁉︎ おいおい、マジかよ。そりゃ色々と困るってもんだ。
「ち、ちょっと待ってください! 明日の準備もあるので、一旦帰りたいんですけど…」
「あー……そうだったな。だって、高校生だもんな。君、どこの高校に通ってるんだ?」
「高明です。街の北側にある、私立高明高校。」
「T育成高か?よく入れたな。まさか、一般で?」
「いえ、Tでの推薦です。マジで意味わかんないんですけど、本当でして。」
……待て、高校?何か大切なことを、忘れているような気がしてならない。何だったか……
「……っ! しまった!」
「何だ、どうした!まさか敵じゃないよな!」
「いえ、違います!その……」
突然叫んでしまったので、空気が張り詰めている。一瞬、冷や汗をかいた。
この空気で言う事は、躊躇われるが……もう言うしかない。
「鞄、吹っ飛んだ車の中です……」
「何だ、そんな事か。君ら三人を監視していた部下に、既に取りに行かせたよ。もうすぐ帰ってくるだろうね。」
「ああ、良かった。ありがとうございます。
何せあれに財布入ってますから……」
「ま、待ってください相川さん。監視、いたんですか? 優子さんの事、監視してくれていたんですか?」
「そうに決まってんだろ? お前に監視任せると、いっつも逃げられるんだから。」
「じゃあ、私に監視任せないでくださいよ!」
「いや、お前は護衛としては優秀だったからな。俺としてのお前の使い方は護衛、ただお前が満足するように役割としては監視にしていただけだ。」
「ひどい! ってか監視員いたなら、応援呼んでくださいよ! 私に応援呼ぶ暇あったと思います⁉︎」
「応援は絶対に行かせない。隣を見たまえ。」
「……ああ、なるほど。すみません。」
こいつら……こんな機密情報的な内容を、俺みたいな民間人の前でベラベラ喋っていいのか?
いいや、そんな事は問題じゃない。教えられないとか何とか言ってたが、そもそも機密情報って何だ? 一介のヤクザが、そんな事気にするか?
第一、ただ娘を護衛させてるだけだろ?そんな事、隠さなくたっていいはずた。
情報の露出を嫌っているんだ、極端なまでに。
……そう見ると、この事務所もやはりおかしい。綺麗すぎるんだ。物があまりにも無さすぎる。
溜まりに溜まった疑念が、脳内で反芻される感覚。疑念に晒され続けた俺の思考は、もう限界だった。
「さっきから黙って聞いてたが、あんたらはやっぱり……おかしい!」
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