酒の勢いで一夜を過ごした系ヒロインに愛されて仕方がない

三流木青二斎無一門

第1話

嬬恋つまごいの姐さん、俺はあんたを選ぶ事にするよ」


狗神いぬがみ仁郎じんろうは一人の女性を指名した。

その言葉を聞いて、相変わらず酒を煽る女性。

背が低い、幼女体系と言うよりかは単純に体が小さい。

肉体は貧相だが、酒を煽る姿は豪快だった。

前髪ぱっつんの麿眉をした、目の細い女性が酒瓶から口を離す。


「あぁ?なんだよ、お前、あたしの下に付きてぇのか」


嬬恋のれんは、酒精で真っ赤に染まった顔で上機嫌に言った。


「…下に付くとか、そう言う話じゃないけどさ」


狗神仁郎は発言が気に食わないのか言い返す。

すると、嬬恋のれんは狗神仁郎を手招きする。

それに対して、狗神仁郎は彼女の元へと近寄ると。


「細けぇ事だ、気にすんなよ!」


そう言って、嬬恋のれんは狗神仁郎の首に手を回した。


「ほら、今日から相方ってワケだろ?じゃあよ、呑めよ沢山ッ!」


嬉しそうに、自らが口を付けた酒瓶の口を狗神仁郎に突っ込んだ。


「がぶぁッ!?」


きしし、と笑う嬬恋のれん。

彼女の真っ白な歯は、鮫の様な牙だった。


「ああ、始まったわね…のれん、そうやって相手を潰すのは良くないわよ?」


と、嬬恋のれんに語り掛ける、女性口調の男性。

名前は花露辺諭亮と言う。

彼は顔見知りの嬬恋のれんにそう言うのだった。






























「この程度で潰れるんじゃ話になれねぇよ」


酒瓶を離す。

狗神仁郎は口から酒を零して、手の甲で拭く。

近くに居た花露辺諭亮が、狗神仁郎の口元にハンカチを添えた。

酒を飲む嬬恋のれんは、楽しそうにしていた。


「げほッがはッ、く、クソッ!急に酒を飲ますなッ」


狗神仁郎は嬬恋のれんを睨みながら叫ぶ。

狗神仁郎の怒りの声。

それは、今の嬬恋のれんにとっては負け犬の遠吠えの様に聞こえるらしい。


「お?どうした?酒が足りてねぇんじゃねえのか?」


ははは、と口を開いて笑っている嬬恋のれん。

そんな様子に対して、呆れを越して苛立ちを覚える狗神仁郎。


「足りてないのは…あんたの理性だろ」


ぼそりと、言葉を漏らす。

それを聞いていたのか、花露辺諭亮が口添えする。


「ごめんなさいね、仁ちゃん、多分この娘ね…恥ずかしがってるのよ」


「がぼぶばッ?!」


急にそう言われた事で、嬬恋のれんは飲んでいた酒を口から放出する。

咳き込む彼女を尻目に、花露辺諭亮は意地悪く話を続けた。


「ほら、この娘、自分勝手な所があるでしょう?」

「元パートナーの千躰にも愛想を尽かされてたし」

「後輩の育成にも失敗して嫌われていた事もあったから」

「だから、どうしても、選ばれる側じゃなくて余る側だったのよね…」


結成式。

此処では、コンビとなる人間を、新人から決めていく方式だ。

古参である千躰、花露辺諭亮、嬬恋のれんが後になる。

そして、必ず嬬恋のれんが余ってしまうのだ。


だから、こうして自分が。

いの一番に選ばれた事が、嬬恋のれんは嬉しいらしい。

それと同時に、自分が選ばれた事に、恥ずかしさも覚えているのだ。


だから、その羞恥心を隠す為に、酒を煽っている。

それを指摘された事で、嬬恋のれんが叫んだ。


「違う、何言ってんだ、この野郎っ!」


花露辺諭亮に否定的な言葉を口にする。

そして、狗神仁郎を指差して叫んだ。


「あたしが、酒も満足に呑めねぇ奴にとられて嬉しいと思ってんのか?」

「選ばれたわけじゃねぇ!選ばれてやったんだよ!そこんところ間違えんな!」


と憎まれ口を叩きながら、再び酒を飲む。


「あらら、子供なんだから」


と、そう言いながら視線を嬬恋のれんから狗神仁郎に向けた。

狗神仁郎の手には、酒缶が掴まれている。

プルタブを開けて、中身を飲む。

狗神仁郎は息を吐くと共に嬬恋のれんを睨んだ。


「くはっ…別にあんたの事なんか個人的にはどうでもいい」

「だけど、あんたの強さに俺は憧れを抱いた」

「だから、あんたの元で俺は成長する事に決めた」

「そこんところ、忘れないで下さいよ」


こちらもまた、憎まれ口を叩いていた。

その憎まれ口が心地良いのか。

嬬恋のれんは口を大きく開き、笑った。

そして。


「はッ、言うじゃねぇかよ、よっしゃ、呑み比べだ」

「これで、どっちが強いか勝負しようぜッ」


何方かが潰れるまで。

呑み続けると言う提案。

舐められていると思っている狗神仁郎は、それに頷いた。


「望む所ですよ」


そう言い放ち、二人は、酔い潰れるまで飲む。

記憶をなくす程までに、呑み続けた。

その飲り合いは、夜中まで続くのだった。

が、それがいけなかった。

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