六十二輪目
思い返せば少し恥ずかしいアフレコから二日経ち。
日曜日を迎えた今日、次のライブ情報など発表される生配信の日を迎えた。
本来、情報など聞こうと思えば聞けてしまうのだが、夏月さんや他の人にもなるべく話さないで欲しいと伝えている。
やっぱりドキドキ感は味わいたいものだ。
そもそも、公開されていない情報は付き合っていたとしても漏らしちゃいけないと思うのだが、何故かそこらへんみんな緩いので念のため釘を刺した。
……いくつか、我慢しきれなくて聞いちゃったりするけど。
夏月さんは昼間から仕事があったので朝から出ているが、昼飯や夕食の時に何を食べたか写真を撮って送ってと言われている。
カップ麺を夏月さんに食べさせない事を結構根に持っているようで、俺が一人の時でも食べさせないようにしてのことだ。
直接怒られるわけでもないので、昼夜とカップ麺食べてその写真を送った。
やっぱり、体に悪いものって美味しいのよ。仕方ないね。
もちろん、それだけだと本当に体を壊すので野菜をきちんと別で摂ってある。
片付けなどを終えると配信の始まるちょうど良い時間となっていた。
ネット配信だがテレビで見れるよう何やら設定してくれているので、推しが大きく見れるのだ。
定期的にというかほぼ毎日なのだが、画面越しという手の届かない位置にいる推しに対して恋焦がれるといった気持ちを抱いている。
すぐ隣に本物が居たとしてもだ。
……あとたまに高瀬さんだったり、最近だと秋凛さんに気持ちが浮ついている。
その為かこうして一人でいる時、やっぱり夢なのではと不安になってしまう。
男性に都合のいい世界観で、特に不自由も……たまにあるけど、まあ自由で。
推しと付き合い、同居するという出来すぎた今に。
五分と経たず配信が始まるけど、今電話をしたら迷惑だろうか。
などとスマホを手に取り、迷うくらいには弱っている。
「ぅぉっ」
普段、自分と連絡を取る人なんてほとんどいない。
なので突然の通知音に思わずビックリして声を出してしまった。
家に一人とはいえ、これは少し恥ずかしい。
最近では夏月さんたちとのやりとりが増えたが生放送前だし……と、誰からきたのか確認すれば。
その夏月さんからであった。
『そろそろ始まるよ〜。見ててね〜』
といった簡素な文であったが、今の俺にとってとてもよく効く。
それを見た瞬間、先ほどまでの不安は何処かへといっていた。
『夏月さん、好き』
もう始まるだろうし、見てくれなくとも今の気持ちをストレートに送る。
予告されていた時間になり、少しの間を置いて画面が切り替わったが。
何故か、夏月さんはテーブルへと突っ伏していた。
冒頭で夏月さんがテーブルへと突っ伏していたり、顔を上げたらあげたで締まりのない表情をしていたため、メンバーやコメントから突っ込まれていたりとグダグダしていたが。
このような事はこれまでも幾度とあったため、慣れた様子で仕切り直して生配信はスタートした。
新たに発表された情報はライブの日程が九月の十八日、十九日であること。
そのライブの先行申し込みが入っているシングルが七月十四日に出ること。
他、配信で触れたのは六月末に行われたライブについてやお手紙を読み上げたりなど、いつもと変わりない進行であり。
あっという間に一時間が過ぎ去り、内容は締めへと入っていた。
『今回の生配信もそろそろ終わりだけれど……そういえば、秋凛の覚醒した理由についての発表はあるの?』
『許可が出たら、この場で発表できるって言ってたわね』
『私も気になる!』
『コメントでも、気になる! もちろん発表だよな! だって』
それに対し黙ったまま俯いていた秋凛さんはゆっくりと顔を上げ、無表情のまま腕をゆっくりとバツの形へと持っていき……パッと華やかな笑みを浮かべ腕で丸を形作る。
『発表できまーす!』
本来予定されていない進行のためか、メンバーの反応は『お、おお……』と少し戸惑った様子であった。
どこか興奮したように見える秋凛さんはそんな事お構いなしとばかりに立ち上がり、さっさと発表してしまう。
『実は私に、素敵な
え、そんなこと発表していいの? などと一瞬思ってしまったが。
男性を虜にするほど魅力的な女性である、というのが一番いいアピールになる世界であった。
夏月さんたちの反応が全員違うことに少し引っかかるが、大勝利とばかりにピースをする秋凛さんを最後アップで映し、生配信は終わった。
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