五十八輪目

「ね、夏月さん」

「うん?」

「お願い、こんなのでいいの?」

「いいのいいの。それに優君はこうでもしないと大人しくしてくれないでしょ?」

「……いや、そんなことは」


 あまり強く否定できないのは、自分でもそうかもしれないと気付いて。

 これまで一人だった時はそんな事ないのだが、夏月さんに家事をやらせるわけにはと毎日過ごしていたら半ば習慣ついてしまった。


 面倒だと思うのは変わらないが、こうも人は変わるものなのかと自分ながらに思った。


 今現在、夏月さんのお願いで股の間に座らせ、後ろから抱きしめて映画鑑賞している。


 自分が映画はアニメか洋画のアクションやホラー系しか観ないとどこかで話したのを覚えていてくれたのか、たまたまなのか。

 有名なゾンビ映画がチョイスされた。


 二作目までテレビ放送され、それらは観ていたので三作目を観ているのだが。


 …………全然知らない人が居るというか、知ってる人が居ないというか。


 話は大まかにしか覚えていないが、あの終わりからのこの続きで、あのキャラがこの人なんだろうと観ていて当てはめていったが。

 なんか変な感じがする。


 考えてみれば、男の人が少ないのだからそれは女の人がやるよねって話だ。

 原作の小説なり、ゲームなりは男女比なんて考えなくていいが、いざ実写化したとなると男が足りないから男装で補っている。


 あまり作品に集中できないため、夏月さんの温もりや匂い、感触の方に意識がいってしまう。

 でも夏月さんは集中して観ているようなので、あまり邪魔もできない。


 結局映画に戻るわけだが、世界観が変わる前よりも荒いというか、クオリティーが低いというか。

 エンタメが潤っていないわけではないと思うのだが、変わる前の時よりも予算が潤沢ってわけでもなさそう。


 日本が比較的安定してるように見えるから勘違いするが、海外の方はもっと深刻だったはずだ。

 むしろよく娯楽が廃れていないと思う。


「つまらなかった?」

「……いや、そんな事はないけど」


 密着してるから、集中していないとすぐバレちゃうよね。

 邪魔しないようにと思っていたけど無理だった。


「無理して私に合わせなくてもいいんだよ?」

「前作がうろ覚えで話についていけなかっただけだから」

「それならもっと早く言ってくれればよかったのに」


 半分本当で半分嘘の言い訳だったが、それを聞くなり夏月さんはリモコンを操作して今見ていたのを止め、一作目に変えて流し始める。


「夏月さん観てたんだから、変えなくてよかったのに」

「あ、私最後まで全部観てるから大丈夫だよ?」

「……そっか」


 まあ、ゾンビものは余程じゃなければ大概面白いし、これも元が面白いからそれは保証されてるようなものだし。


 今までそんなこと思ったことないけど、キャストが解釈違いってのはこんな感じなんだろうか……。


「この人、主人公だからってのもあるだろうけどよく映るね」

「ユラ・ウィッチさん?」

「名前分かんないけど、たぶんそう」


 ここで映らなくてもいいんじゃ、ってところでも入ってくる。

 アニメのカット割ですらよく分からないから一般素人の考えだけれど、少し気になった。


「優君、この人見てどう思った?」

「ん? んー……編集で引っかかるだけでこの人の演技すごく上手いと思うし、カッコいいよね」

「やっぱり、カッコいい女性が好き?」

「どうなんだろ。外見に惹かれる事はないっていったら嘘だけど、やっぱりどういった人か分かってないと何とも言えないよね」


 夏月さんに押し切られる形で交際が始まったわけだが、これはレアケースみたいなものだろう。


 その後、三作品目まで続けて観たわけだが、さすがに疲れた。

 休養とはいったい……。

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