三十七輪目

「ごめん、夏月さん。え……っと、一夫多妻?」

「う、うん」

「一夫一妻ではなく?」

「そうだけど……あ、優君、どこかの島だったり、山奥の村出身だったりするのかな? 限定的に見たら男女比が一対一のとこもあるって聞いたことあるし、それなら一夫一妻も納得かも」

「いや、普通に東京だけど……」


 何度も繰り返すようだが、自分はいたって普通だと思う。

 いや、その普通は価値観の変わる前であるから、今の価値観だと違うかもしれないのか。


 いやいや。

 それも少し気になるところだけども、今は一夫多妻の方だ。


 ラノベの様な世界に来たなと改めて思いながら、ハーレムを持てると聞いて真っ先に頭に思い浮かんだのが──。


「優君?」

「──ぁ…………うん、大丈夫。思ってたよりも俺の常識が偏っててビックリした」

「ね、優君」

「ん?」

「今更言うのもなんだけど、今の優君見てたらキチンと伝えておかなきゃと思って」

「うん」

「今後は一人で外に行かない様にして欲しいなって」

「流石にそこまでしなくても大丈夫じゃ?」

「……私が、不安なの」


 急になんの話かと思ったけれど、どうやら俺が思っている以上にこの世界は男性にとって優しい世界であり、厳しい世界の様に感じた。


 夏月さんの色んな感情が込められた表情を見てそう思ったし、さっき頭をよぎった考えに少し後ろめたさを感じてしまう。


「なら、なるべくそうするよ」

「ありがと!」


 ハーレムが出来るからといって、必ずしもそうしなければならないってわけでもない。

 この世界では一夫多妻それが当たり前なのだとしても、俺としてはやっぱり節操がない様に思ってしまう。


 …………正直に言うと、今後もこの思いを貫けるかと聞かれたら断言できないのがなんとも悩ましいところだが。

 でも、男ってこんなもんだよね。


 この先に実際そうなったとして、奥さん同士の仲が良かったとしてもずっと背徳感を抱えそう。


 今でさえ推しである夏月さんと同棲してるのが夢の様なのだから、これ以上を望むなんて事はいけない気がする。

 あまり高望みし過ぎると後が怖いってのもあるけど。


 充分に幸せなのだから、この時も大切に思っていかないと。


「そう思うと俺、今まで一人だったのによく無事だったね」

「それはパートナーが居なかったからだと思うよ」

「そういうもんなの?」

「そういうもんだよ」


 この男性が少ない世の中で女性が声を掛けてこない俺に、よく高瀬さんは声をかけたなと今更ながらに思った。

 あと、夏月さんもか。


 聞いてみたいところだけど、なんか答えを聞くのも怖いのでチキンになってしまう。


「ゆうく──」

「色々とありがと。……ん? ごめん、何か言いかけた?」

「あ、ううん。ご飯、美味しかったよって」

「そう? それは良かった」

「片付け、私がやっておくから先にお風呂どうぞ」

「うん、ありがと」


 何か夏月さんが言いかけていた気もするけど、気のせいだったようで。

 片付けを任せてお風呂を先にいただくことに。


 本来なら片付けも任せて欲しいところなのだが、そうすると夏月さんが捨てられた子犬の様な顔で引っ付き、暫く離れなくなってしまう。

 それはそれでご褒美なのだが、あまりやり過ぎると夏月さんのメンタルが不安定になる様な気がして控えている。


 そういえば一昨日の日曜日、月居さんについて様子がおかしいと相談されたけども。

 昨日と今日は特に話もなかったし、夏月さんの思い過ごしだったのだろう。


 何事もなく無事にライブを迎えられそうで良かった。






───

男性の種が弱っているため、妊娠しやすいように長い年月をかけ女性の身体は少しずつ変わってきている。

パートナーがいる女性の自然妊娠が前の世界とそれほど変わらなく出来ているのは、そのため。

興奮の度合いが高いほど妊娠しやすく、今の男性が相手でも問題ないように敏感になっている。

なので主人公との行為は女性にとって非常に刺激が強く、その負担を減らすという意味でも夏月は何人か囲って欲しいと思っている。

今回も言いかけていたのはメンバーだったら増やしても良いという話。

ただタイミング悪く、その機会を逃した。


基本的に、複数の女性を囲う男性は魅力的であるのが一般的な認識。

そのため一夫多妻である家庭は夫が自慢であるものの。

やはり、心の何処かでは自分だけを見て欲しい思いがあったりする。


夏月はずっと主人公が自分だけを見ていてくれてたため、その思いが強く出ている。

本当は何時でも伝えることが出来るのに、メンバーを囲ってと主人公に伝えていないのはそういった思いもあるため。

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