二十八輪目

 何かいけないことでも言ってしまっただろうか。

 すごい表情でこちらを見られるのは結構怖い。


「ねえ、優くん」

「はい」

「聞き間違いかなとは思うんだけど、一応確認させてね」

「は、はい」

「私、夏月が二回目に会う男性を泊まりで家に招待したって聞こえたんだけど」

「えっと……そう、ですね。金曜の夜から遊ぼうと誘われまして。ご飯で終わりかなと思ったんですけど、そのまま泊まりに」

「うんうん、そっかそっかー。…………で、夏月はどこに行く気かな?」


 樋之口さんの視線の先を追えば、誰にもバレないようにしながらリビングを出て行こうとしている夏月さんの姿が。


「え、えへへ。ちょーっと外の空気でも吸いに行こうかなって」

「私は悲しいよ、夏月ちゃん。まさかメンバーの中から犯罪者が出るなんて」

「私も、まさか夏月の手がこんなに早いとは思わなかったな」


 そんな夏月さんの両隣に高瀬さんと月居さんが陣取り、腕を取って捕獲していた。

 救いを求めてこちらを見てくるが、とても楽しそうにみえる。


「メンバーが集まると、いつもこんな感じなんですか?」


 あ、俺の助けが無いと気付いたのか捨てられた子犬のような顔をしている。可愛い。


「まあ、いつもこんな感じよ」

「とても楽しそうですね」

「……そう? 私の知る他の男性と感性がだいぶ違うのね」

「そうですかね?」

「そうよ。…………お手洗い、借りるわ」

「はい。廊下出て左手側手前のドアです」

「ありがと。……私が戻ってきたら夏月の裁判を始めるけど、まあ有罪ギルティなのに変わりはないから」

「そんな横暴だっ! 弁護士、弁護士を呼ばせてっ!」


 夏月さんの必死な叫びを無視して、樋之口さんはリビングから出て行ってしまう。

 それにしても、夏月さんや他のメンバーの初めて見る表情ばかりで胸が幸せでいっぱいである。

 普段から仲が良さそうで、ファンとしてはニッコリものだ。


「…………あっ、ゆ、優くん? これはちょっとテンションが上がった故のあれであって、普段の私はこんな感じじゃ無いからね? ね?」

「夏月ちゃんは普段からこんな感じだよ?」

「ちょ、シュリ、余計なこと言わなくていいから」


 一度状況のリセットが入り、テンションが落ち着いたらしく。

 夏月さんは先程の行動が恥ずかしかったのか顔を赤くさせながら言い訳を口にするが、何を食べようか悩んでいる月居さんにバッサリ切られていた。


「同棲始めた頃よりも、最近の夏月さんがたまにそんな感じするので。今更隠すようなことじゃ無いですよ」


 それでもやっぱり、メンバーにしか見せていない表情が時折あるため、少し嫉妬してしまう。

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