7
私の誕生日を覚えてくれていた幸治君には驚き、思わず顔を上げた。
幸治君は顔を少しだけ赤らめ、照れた顔で私のことを見下ろしている。
こんなに近くから・・・私のすぐ隣に立ち、私のことを見下ろしている。
ビールを飲んだせいではないであろう幸治君の顔の赤みを眺めながら、私は伝えた。
「私はお金の重みをちゃんと知ってる。
お嬢様の私に幸治君が教えてくれたから知ってる。
私は世間知らずのお嬢様だけど、幸治君が世間の厳しさを教えてくれたから知識としてはちゃんと知ってる。」
高級なスーツ、ブランド物の腕時計、お洒落にセットされた髪の毛、まるで別人のような幸治君を見上げながら、言う。
お父さんには言えなかったことを幸治君に言う。
「私、夢とかそんな大きなことではないけど、やりたいことが1つだけあるの。」
「いいですね、やった方がいいですよ。
ずっと本家のことを想って生きてきましたからね、羽鳥さんがやりたいことをやって生きた方がいいですよ。」
そう言ってくれた幸治君に頷きながら、言う。
ずっとずっとやりたいと思っていたことを、言う。
「私、“いけないコト”がしたい。
分家の女として育てられた私には“いけないコト”が沢山あった。
お父さんとお母さんが離婚して、私はお母さんの方についていくことになった後も分家の女としての生き方をずっと守り続けてた。
これからも守り続けていくつもりだった。
でも・・・」
7歳も年下の幸治君、でもどこをどう見ても大人の男の人になった幸治君を見上げながら言った。
私のすぐ隣に立っている幸治君に。
私に1杯の醤油ラーメンと300円のタオルハンカチをプレゼントしようとしてくれている幸治君に。
「“いけないコト”がしたい。
私、ずっと“いけないコト”がしたかった。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます