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私の誕生日を覚えてくれていた幸治君には驚き、思わず顔を上げた。

幸治君は顔を少しだけ赤らめ、照れた顔で私のことを見下ろしている。

こんなに近くから・・・私のすぐ隣に立ち、私のことを見下ろしている。




ビールを飲んだせいではないであろう幸治君の顔の赤みを眺めながら、私は伝えた。




「私はお金の重みをちゃんと知ってる。

お嬢様の私に幸治君が教えてくれたから知ってる。

私は世間知らずのお嬢様だけど、幸治君が世間の厳しさを教えてくれたから知識としてはちゃんと知ってる。」




高級なスーツ、ブランド物の腕時計、お洒落にセットされた髪の毛、まるで別人のような幸治君を見上げながら、言う。




お父さんには言えなかったことを幸治君に言う。




「私、夢とかそんな大きなことではないけど、やりたいことが1つだけあるの。」




「いいですね、やった方がいいですよ。

ずっと本家のことを想って生きてきましたからね、羽鳥さんがやりたいことをやって生きた方がいいですよ。」




そう言ってくれた幸治君に頷きながら、言う。




ずっとずっとやりたいと思っていたことを、言う。




「私、“いけないコト”がしたい。

分家の女として育てられた私には“いけないコト”が沢山あった。

お父さんとお母さんが離婚して、私はお母さんの方についていくことになった後も分家の女としての生き方をずっと守り続けてた。

これからも守り続けていくつもりだった。

でも・・・」




7歳も年下の幸治君、でもどこをどう見ても大人の男の人になった幸治君を見上げながら言った。




私のすぐ隣に立っている幸治君に。




私に1杯の醤油ラーメンと300円のタオルハンカチをプレゼントしようとしてくれている幸治君に。




「“いけないコト”がしたい。

私、ずっと“いけないコト”がしたかった。」

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