Sideマーオ 記憶を紡いで〜魔王マーオの回顧録・承〜
「さあ、着いたのである!」
大きな岩が、大きなコエをビリビリ震わせ喋ります。
「ここが吾輩のお家なのである!中には吾輩の家族がいるのである!」
イシヅクリの大きなオウチから、キラキラ飛び出す二つのヒカリ。
「タローの帰還よ、ねえエーレ!」
「ええレーメ!おかえりタロー!」
アタマに直接語りかけるように話すそのヒカリは、小さな小さな顔と胴にヒトみたいな手足がついていたのでした。
「あらあらタロー?これはなあに?ぷるぷるの可愛いスライムみたい!」
「なぜなぜタロー?それがだいじ?ぶるぶる震えてスライムが可哀想!」
「ち、力加減が難しいのであーる……」
カイブツに付いた二つの宝石が少し薄暗いイロになりました。まるで困っているかのように。
「とにかく!お風呂に入らなくっちゃ!ごはんの時間はチクタクチクタク!」
「いそいで!お風呂に入れなくっちゃ!だんらんの時間がカチコチカチコチ!」
ヒカリに導かれるままに、カイブツはマーオを連れて家に吸い込まれていきました。
――――――――――――――――――――
「つんつん、スライムって気持ちがいいわ。ねぇ、もっと触っていい?」
「だめだめ、レーメったら優しくないわ。ねぇ、もっとご飯たべる?」
泡で優しく洗われて、食事を口に運ばれて、昔寝物語に聞いたオトギバナシのお姫サマになったみたい。
「おほん。やあやあスライムの君。緊張しているのはわかーるが、そろそろ名前を教えて欲しいであーる」
「タロー?この子しゃべれるの?」
「さっきはお話してくれたのであーる」
「タロー!そういうことは早めに言って!」
二つのヒカリがマーオの周りをくるくるします。
「こんにちわ!こちらはエーレ。レーメの姉よ、よろしくね!」
「こんばんわ!そちらはレーメ。エーレの妹よ、おねがいね!」
ギュッと体をつままれました。でもその手つきにオークのような乱暴さはミジンもありません。むしろ、母と父に撫でられた時のようなあたたかさすら感じるような。
「マーオ……」
「「しゃべった!かわいい!」」
マーオのコエを聞いて嬉しそうに笑うシマイのフェアリー。こんな感情になったのは一体、いつぶりでしょうか。
「まあ大変エーレ!この子ったら溶けちゃった!」
「それよりレーメ?この子のお名前聞かなくちゃよね?」
わたわた瞬く二人を落ち着かせるようにイワオの主人が語りかけます。
「この子の名前はマーオである!そう言っていたのであーる」
「そうなのマーオ?じゃあもうエーレの妹ね!」
「それならマーオ!じゃじゃ馬レーメの妹よ!」
「なんですってエーレ!?」
「きゃあ!」
イモウト、しまい、それってつまり。
「マーオは今日から吾輩達の家族である。みんなで仲良く幸せに末永く暮らすのであーる!」
声はコダマのように、マーオのナカをぐるぐるします。あつくてふわふわして、くすぐるようにいたぶるように。
「ひとまずもうこんな時間なのである。みんなで眠るのであーる!」
「ねぇねぇタロー。マーオにも聴かせてあげましょう。幸福な王様のものがたり!あれ大好き!」
「ぷぅぷぅタロー。マーオにお話するなら可憐な乙女のこいものがたり一択よ!どきどきするわ!」
──ああ、オナカいっぱい。
こうしてマーオはゴーレムのタロー、フェアリーのエーレとレーメ姉妹と家族になったのでした。
起きて、ゴハンを食べて、遊んで、洗い合って、またゴハンを食べて、タクサンお話して、眠って、毎日毎日アシタもアシタも幸せで嘘みたいでした。
でもね、1ヶ月は怖くて仕方なかったけど。3ヶ月はまだ信じられなかったけど。50年はもう、末長いと感じて良いでしょう?
マーオ達は、本当に仲良く幸せに末永く暮らしていたの。
暮らせていたはずだったの、あの日までは。
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