9-10
見た目のインパクトはナポリタンドッグも負けてない。子供たちが目を丸くしてまじまじと見る。
そうだよね、わかんないよね。ナポリタンは実はイタリアではなく日本発祥の料理だから。
「疲れたときって、甘いものが食べたくなる? それともジャンクな……ええと、脂っぽいものが食べたくなる? みんなはどっち?」
突然の質問に、子供たちは目をぱちくりさせて、顔を見合わせた。
「私は甘いものかな?」
「どうだろう? 私もそうかも」
「オレは断然肉! 肉が食いたくなる!」
両方経験がある人もいると思う。実はこれ、ちゃんとメカニズムが解明されているの。
疲れたときに甘いものが食べたくなるのは、エネルギーを消費したことによって血糖値が下がり、血液中のブドウ糖が不足し、脳に十分な栄養が行き渡らなくなっているのが原因なの。
だから、このまま低血糖になると危ないよ! 糖分を摂取して! と、脳が指令を出しすの。
ジャンクフードが食べたくなるのは、栄養不足や睡眠不足なんかも関係しているらしいけれど、大きな要因はストレスとされている。
と言うのも、油っぽいものを食べると、脳内ホルモン・エンドルフィンが分泌されるんだって。
エンドルフィンとは、鎮痛効果や幸福感を感じる神経伝達物質のこと。脂っこいものと食べるとそれが分泌されるのを身体は理解しているから、現在感じている精神的な負担を軽減するために、脂っこい食事を欲するんだって。
ハンバーガーやホットドッグ、カツサンド、コロッケパン、焼きそばパンなんかは、その両方の欲求を同時に満たせるメニューだ。
まず、パンが糖質。カツサンドの衣、コロッケの衣、じゃがいもの部分、焼きそばの麺も糖質。
油は、ハンバーグにソーセージ、揚げものの衣、豚肉。炒め油などなど。
作り置きをすることを考えたら、今回は焼きそばパンがいいかなと思ったんだけど、いかんせんここにはスーパーもコンビニもない。もうサッと炒めるだけになっている中華麺が手に入らない!輸入品を扱う業者や商人からギリギリ乾麺なら入手できるかもしれないけれど……でもそれで作る焼きそばは、たぶん私が食べたいそれじゃないと思うのよ。
じゃあ、どうしようと考えて――思いついたのが、二十一世紀の日本のとあるパン屋で見かけた『ナポリタンドッグ』だった。
作り方は簡単。濃い目の味で作ったナポリタンを、コッペパンに挟んで、粉チーズをかけるだけ。
ナポリタンは、オリーブオイルでにんにくを熱して、香りが立ってきたらスライスした玉ねぎを炒める。焼き色がついたら、ベーコンとピーマンを加えてさらに炒めて、塩コショウを適量加える。
それを一度取り出し、同じフライパンにケチャップとウスターソース、小量のトマトペーストと砂糖を入れ、中火でしっかりと煮立たせる。味が馴染んだら、取り出しておいた野菜やベーコンを戻し、さらに茹でたパスタとバターを加えて、最終塩コショウで味を調え、炒め合わせて完成。
ナポリタンはウインナーのイメージが強いんじゃないかなって思うけれど、今回はジューシーな油も摂取したいから、しっかり厚切りのベーコンを使ってみた。
「うわぁ! めちゃくちゃずっしりしてるー!」
マックスがナポリタンドッグを手に、嬉しそうに声を上げる。
「アレンの兄ちゃん! これ、すっげぇ美味そう!」
アレンさんが「本当だね」とマックスの頭を撫でる。
リリアとアニーも興味津々といった様子で木箱を覗き込む。
「どうしよう? どっちも食べたいけど、食べられるかな?」
「ねぇ、リリア。半分こしない? そうしたら、どっちも食べられるよね?」
「あ、そうだね、アニー。そうしよう」
二人は、メロンパンとナポリタンドッグを一つずつ持って、厨房へ駆けてゆく。
「お兄さまもどうですか?」
「え? 僕の分があるの? 突然来たのに?」
「ありますよ。新商品のメロンパンは自信作なので、味見だけでもしていただけたら嬉しいです」
にっこり笑顔で言うと、お兄さまもまた楽しそうに目を細めて、メロンパンを手に取った。
「じゃあ、いただこうかな」
「はい! ぜひ!」
それから陳列台をテーブルとして全員で椅子に座り、食事開始。
さっそくナポリタンドッグにかぶりついたマックスが、目を丸くして声を上げる。
「これ、すっげーうめぇ!」
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