9-8
「い、いいんですか!?」
「断る理由があるかい? 夢や情熱に、年齢なんて関係ないよ。目指したいなら、目指せばいい。テストを受けたいなら、受ければいい」
お兄さまはアニーに歩み寄ると、腰を曲げて彼女と視線を合わせた。
「ただ、子供だからと、採点を甘くすることはない。僕もティアも、商品に妥協はいっさいしない。お客さまからお金をいただく以上、百点満点のものを提供するのは当たり前なんだ。わかるね?」
「はい」
「君の言うとおり、君はまだ子供だ。だからこそ君は大人以上に努力して、大人に負けない結果を出さなきゃいけない。それもわかっているね?」
「はい」
アニーの返事はよどみなく、その視線はまったくブレない。不安そうに曇ることもなく、力強く揺るぎない。
「それなら問題はないよ。僕とティアが納得する結果を出してくれれば、子供だなんてくだらない理由で落としたりしない。子供だろうとなんだろうと――」
その目が気に入ったのだろう。お兄さまは上体を起こし、面白そうに目を細めた。
「店を任せることだってきちんと検討するよ」
「えっ……!?」
思いがけない言葉だったのだろう。アニーが一瞬ポカンとする。
しかしすぐに、ぱぁっと顔を輝かせて、勢い良く頭を下げた。
「ありがとうございます! 頑張ります!」
そして、喜びに頬を紅潮させて、私に駆け寄ってきた。
「お嬢さま! 私、お嬢さまのお手伝いがしたいです! 今よりも、もっと! お嬢さまのように、みんなを幸せにしたいから!」
「アニー……」
「頑張るから――見てて!」
「…………」
ああ、もう! 可愛いんだから! こんなの、嬉しくないわけがない!
私は床に膝をついて視線を合わせた。
「ありがとう! その気持ちだけでも最高に嬉しいけれど……」
そして、にっこり笑ってアニーを抱き締めた。
「アニーがアニーの夢に挑戦して、それを見事実現してくれるのは、もっと嬉しい!」
「っ……! お嬢さま……!」
アニーがぎゅうっと私を抱き締め返してくれる。
「ありがとう、アニー。……じゃあ、食事にするから、みんな手を洗ってきて」
「はぁい!」
アニーがマックスやリリアと厨房へ駆けて行くのを見送って、私は俯いた。
「…………」
――嬉しい。本当に心から嬉しい。
でも、同時にものすごく心配だ。子供の身で大人と肩を並べて立つのは、並大抵のことじゃない。
必要なのは努力だけじゃない。それ以上に、理不尽に耐える精神力が必要になるだろう。周りの人たちみんなが好意的に応援してくれたらいいけれど、現実はそうではないから……。
「……あの子が夢を実現させたら、汚い大人は僻むでしょうね。自分が子供に負けたことを認めず、子供だからと手心を加えてもらったんだと吹聴し、ティアやアルザール殿の評判を貶めるでしょう。子供のくせにとあの子を攻撃することもあるかもしれません」
アレンさんがなんだか心配そうに、お兄さまを見る。
そう――。出る杭は打たれてしまいがちだ。私自身は、年齢や性別、身分や立場なんて関係なく、その能力に対して正当な評価がなされるべきという考えだけれど、実際世間ではそういったものに固執する人は多い。
アニーがつらい思いをしないといいけれど……。
「そこまで考えて言ってらっしゃいますか?」
「え? そんなこと考える必要があるかい?」
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