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追熟しないものは、いちご、さくらんぼ、ぶどう、和梨、柑橘類とか。これらは時間をおいても甘みが増したりしないから、熟してから収穫するの。いちご狩りとか、みかん狩りとか、その場で食べるでしょ? それができるのは、追熟するフルーツじゃないからなの。
そして、林檎も洋ナシも追熟するタイプの果物。実際は魔物だったから関係ないかと思っていたけれど――。
「は、はい。実はそうです」
グレドさんが頷く。イフリートとオンディーヌが目を丸くする。。
「え? そうなのか?」
「じゃあ、本当はもっと甘いってこと?」
「うん。王都で食べたのは、もっと美味しかった」
「充分美味しいと思うのですが、これよりももっとですか? それはすごいですね」
アレンさんが目を丸くする。
うん、すごいと思う。聞けば、外国では魔法薬の材料に使われているぐらい栄養豊富らしいし、ここに来るまでの道中でグレドさんから聞いた希望価格はそんなに高くない。むしろお安い。
それを考えると、すごく欲しいんだけど――問題は供給量よね。
「あの、グレドさん……」
私が口を開いたとき、グノームが私のスカートをちょいっと引っ張った。
「ティア、お歌を歌ってあげたらどうかな……?」
「え?」
思いがけない言葉に、思わず目をパチパチと瞬く。
「お歌? 聖歌のこと?」
「ああ、いいかも。コイツら、魔物っていうより精霊に近いモノだから、きっと喜ぶよ」
シルフィードもウンウンと頷く。そ、そうなの?
「じゃあ、ちょっとだけ。――グレドさん、いいですか?」
許可をもらって、でもなにが起こるかわからないから一本(一体って言うべき?)だけに向けて、小声で歌ってみる。
「!」
木が目を丸くして私を見つめて、それからおしゃべりをやめて聞き入るように目を閉じる。
声が届く範囲の数本もうっとりと目を閉じて、私の歌にゆらゆらと幹を揺らしはじめる。えっ?もしかして、リズムをとってる?
最後まで歌い終えると、木は『ああ! たまらんっ……!』とばかりに恍惚の表情を浮かべて、ブルブルと身を震わせる。
瞬間、枝葉がワサワサと茂り、白い可憐な花が大量に咲く。
そして、真っ赤な洋ナシもどきがポンポンポンポンと音を立てて大量に実った。
「え、ええっ!?」
花と実を同時につけるって、どういうメカニズムよ!?
面白かったのは、周りの木々。『え? なんでアイツ咲いてんの? 実ってんの?』って感じで、花を咲かせた木たちをまじまじと凝視したあと、一斉に話しはじめたこと。
言葉はわからないけれど、表情から察するに、『どうやって咲いた?』『どうやって実った?』『ずるいぞ!』『オレにも教えてくれ!』みたいな感じだと思う。
「こ、これは……」
グレドさんが駆けてきて、まじまじと生っている実を見る。
「か、完熟してる?」
「えっ?」
「食べてみましょう!」
グレドさんが実を捥ぐ。
「あんっ」
……いや、これなんとかならない? 気まずいんだけど。
グレドさんが新たにカットしてくれた実を、全員で再度試食する。
「ん~っ!」
口に入れた瞬間、思わず見悶えてしまう。
これよ! これこれ! この味!
「さっきのより美味しいぞ!」
「すごく甘くなってる!」
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