6-12

 聖女(ティア)として、なにを……。


 考える必要はなかった。それはもう決まっている。


「民の生活を豊かにしたい……!」


 物理的にも、精神的にも。

 私のパンを、この国のスタンダードにする。

 そして、私のパンで食の概念を変える。人々に心を満たす食事を知ってもらうの。


「じゃあ、まずは明日、作業員たちに昼食を振る舞うことが、その第一歩にならなくてはいけない。それは――」


 私の迷いのない答えにお兄さまはにっこりと笑って、ボウルを指差した。


「そうなり得るメニューかい?」


 私の、聖女としての初仕事――。


 私はお兄さまを見つめて、大きく頷いた。


「ええ、なります!」





          ◇*◇





「なんだこれ、うめぇっ!」


「おい、これ、本当にじゃがいもなのか!? 手が止まらねぇぜ!」


 あちこちで感嘆の声が上がっているのを聞きながら、私はミートパティをひっくり返した。


 翌日――。朝早くからバンズとコッペパンを焼き上げ、それを持って大急ぎでアシェンフォード公爵領で一番大きい神殿に行き、ポータルで聖都の主神殿へ。

 アレンさんと合流し、まずは頼んでおいた下ごしらえのチェック。ここは完璧だった。

 まずは、本日の食事当番の下級神官さんたちに説明し、実際に目の前で一度やってみせてから、手分けして挽肉と刻んだ香味野菜と卵でハンバーガーの具材――ミートパティを大量に作る。

 できあがったら、提供時に手早くできるように、あらかじめ焼いておく。輪切りにしたトマトとオニオンも焼く。これであらかたの準備は終了。


 昼食の時間の前に、中庭に炊き出しなどで使われる大きな炊き火台を三つ設置。火起こしをする。

 近くに長机も設置、そこに生活魔道具の卓上コンロも用意して、いざ本番!


 卓上コンロの方では油を熱し、くし切りにしたじゃがいもをフライドポテトに。

 二つの炊き火台の大きな鉄板を置き、半分に切ったバンズを焼きつつ、ミートパティとトマトとオニオンを温め直す。充分に熱くなったら、バンスにバターを薄く塗って、ミートパティ、刻んだピクルスと私の自家製トマトソース、焼きオニオン、焼きトマトの順で重ねる。


 もう一つの炊き火台では腸詰めを茹でる。茹で上がったものから、切れ目を入れたコッペパンに挟んで、刻んだピクルス、私の自家製トマトソースをかけ、粒マスタードを添える。


 これで、私的二大ファストフード、ハンバーガーとホットドッグの完成!


 それに、肉体労働だからね。少し強めの塩をまぶしたフライドポテトを添えて提供する。


 反響は――思ってた以上だった。


「なんだよ? このパン! 柔らかいぞ!」


「これが本当にパンなんですか!?」


 はい、本当にパンなんです。

 しかも、みなさんが食べている罰ゲームパ……いえ、普通のパンと材料費はあまり変わらないと言うと、驚愕の声が上がる。


「そ、そんなことがあり得るのか!? 同じ材料で、こんなに差が出るのなんて……」


「パンが違うせいかな? 肉もいつもより美味く感じる。肉のクセって言うか、臭みが少なくて、こう……ジューシーって言うか」


「ああ、わかる。いろんな味がするのもいい。味が単一じゃない」


「そうだな。肉にトマト、オニオン、ピクルス、ソース……それぞれももちろんうまいんだけど、それらが合わさったときがもう……たまんねぇよ!」


 口々に感想を言い合いながら、夢中で食べてくれる。

 それがとても嬉しい。


 私は温まったパティ―を、調理担当の神官さんが差し出してくれたバンズの上に乗せた。

 そのままハンバーガーを完成させ、わくわくが止まらない様子で並んでいる男性へ差し出した。


「はい、お待たせしました」


「いいいいえっ! 待ってなんか……! あ、ありがとうございますっ!」

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