2-10
「玉子の濃厚な旨味も加わって、また味が変わった……! すごい……!」
「ふふ、気に入っていただけたようで嬉しいです。あ、温かいうちに焼きカレーパンも試してみてください」
「はい、ええと……こちらは……」
「あ、普通のパンと同じく手づかみで大丈夫ですよ」
言われたとおり、アレンさんが焼きカレーパンを手に持って口に運ぶ。
ザクッと小気味のいい音がダイニングに響いた。
「ッ……! 美味しい!」
その第一声にホッとする。よかったぁ~! 「なんですか? これ……」って怪訝な顔されたらどうしようかと思ってたから。
「これ、以前のパンプディングのパンですよね?」
「あ、はい。そうですね。食パンです」
「驚きです……! また全然違う味だ……! 外側はカリカリザクザクしていて食感が楽しくて、中のこれはなんですか? スパイス料理?」
「ええ、カレーといいます。言うなれば、スパイスをたくさん使ったシチューみたいなものです」
実際、そうなんだよね。カレーライスのカレーってインドカレーとはずいぶん違うなって思ったことない?
前にも言ったように、実は日本のカレーライスのカレーはイギリスからもたらされたものなの。
まずはスパイスとカレーをはじめとするスパイスを使った料理がインドからイギリスに伝わって、でもイギリス人には複雑なスパイスの調合は難しくて、一発で味が決まるカレー粉が開発されたの。 そしてカレーも、シチューを参考にしてイギリス人の口に合うように、カレー粉を使って簡単に作れるように改良された。それが日本に伝わったとされている。
「カレー……。はじめて食べる味です。たしかに、シチューのようにもったりとしていて、野菜の甘みや肉の旨味もしっかり感じるんですが、重たくないというか、濃厚さをあまり感じないです。舌にわずかに刺激を感じます。そのせいでしょうか? 後味がさっぱりしているような……?」
首を傾げながらもう一口食べて、しっかり味わってから――うんうんと頷く。
「あ、やっぱり徐々に刺激が強くなりますね。若干スースーするというか……ヒリヒリ? いや、ピリピリ?」
うぅ、これでもかぁ~。結構甘めに作ったと思ったんだけど。
辛い料理がほぼないこの世界で無謀かもしれないけど、やっぱりカレーパンはどうしてもお店のメニューに入れたいんだよね。
たしかにカレーがウケたのはイギリスだけだったけれど、でも当時香辛料がものすごく貴重で、高価だったのはどの国でも変わらない。この世界でもそれは同じ。だから、スパイスをたっぷりと使ったカレーパンは、味が受け入れられさえすれば、爆発的に売れると思うのよね。普段なかなか食べられない希少なものって、やっぱり惹かれるじゃない?
そうでなくても、個人的にはパン屋にカレーパンは必須だと思ってるから!
ただ、十九世紀半ばのヨーロッパがモデルのこの世界。二十一世紀の日本のように、油を安値でじゃぶじゃぶ使えはしない。食用油はそこそこ高価なの。だから、揚げカレーパンではなく、揚げカレーパンにできるだけ近づけた焼きカレーパンになる予定だけれど。
「い、嫌ですか?」
内心ビクビクしながら訪ねると、アレンさんは「まさか!」と首を横に振った。
「すごく美味しいです。私は好きですね。ピリピリが後引く感じで」
「よ、よかったぁ~!」
思わず胸を撫で下ろす。よし! カレーパン実現が一歩近づいたぞ!
「どうでしょう? これをさらに改良してお店に並べようと思ってるんですが、みなに受け入れてもらえると思いますか?」
「ええ」
一つを早々たいらげて二つ目に手を伸ばしながら、アレンさんが頷く。
まったく悩む様子はなく、こちらが拍子抜けするほどあっさりと。
「ほとんどの人が食べたことない味だと思うので、合わないなと感じる人は結構いると思います。でも、好きな人も確実にいます。私のように」
「そう思いますか?」
「ええ、これは売れますよ、絶対に」
ぜ、絶対?
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