悪役令嬢は攻略不可能キャラとイチャイチャしたい
えふの
第1話
人生に2度目があるなんて、聞いてなかった――。
目を開けたそこは豪華な洋風の部屋だった。カーテンのついた窓からは明るい日差しが差し込んでいる。シーンと静まり返ったその部屋で、天蓋付きのベッドで目覚めた私は、ぼんやりと部屋の中を見渡す。価値はわからないが、なんか高そうな家具や装飾品の数々が目に入った。
私が最後に覚えているのは自分の人生に無感動になり、自宅で大量の睡眠薬を飲んだところまでだ。もし生きていたら病院のベッドで目が覚めるはずだ、夢でなければ。
もしかして、これって夢?
夢にしてはやけにリアルな感触に戸惑いつつも、私はベッドから起き上がった。そして、ふと気づいた。
なんか、体小さくない?
部屋の中に、これまた豪華な金色の装飾が施された鏡を見つけた私はベッドから降りて、そこに近づいていく。鏡に映っていたのは、平凡顔だった私とは別人の少女の姿だった。
陽ざしに照らされ、輝くような金色の髪。プライドの高そうなつり目。人形のように整った顔立ちがそこに映っていた。
「なぁに、これぇ……」
つぶやくと、同時に鏡の中の少女の口が動く。
これ、私ぃ?
しばらく鏡の前で呆然としていると、ドアがノックされた。
「お嬢様、入ってもよろしいですか?」
慌てて部屋を見渡す。この部屋には私しか居ないようだった。つまりは消去法で私が“お嬢様”ということになる。なるよね?
「ハィイ! ど、どうぞ」
やや裏返った声で返事をすると、ドアが開けられメイド服の人が入ってくる。
メ、メイド服!リアルで初めて見た!
「おはようございます。お嬢様、今日は早起きですね。」
鏡の前に立っている私を珍しそうに見ながら、メイドさんが部屋の中へ入ってくる。ぼーっとしている私に気づいたのだろう。
「どうかされましたか? アーレお嬢様」
瞬間、脳裏にこれまでの人生が走馬灯のように駆け巡る。自分の名前がアーレであり、いまは5歳であること。この豪華な屋敷が私の家であること。このメイドは私の侍女であり、名前がカレンであること。父は仕事で家にはほとんど顔を見せないが、私を溺愛しており、私からのお願いは、ほぼなんでも聞いてくれること。母はすでに病気で死んでいること。その他エトセトラ、エトセトラ。
「ちょっと、めまいがしただけ。」
私の頭はパンクしそうだ。
「体調がすぐれないのですか? お医者さまを――」
「ぃ、いいえ、ちょっと休んでいれば平気だから」
「では、本日はお休みください。朝食はあとでこちらにお運びいたします」
カレンは、これまたテキパキと洋服を片付けて、鏡の前に立ったままだった私をベッドに寝かせてくれた。
「それでは、失礼いたします」
そう言って、カレンは部屋を出ていった。
部屋に運んでもらった朝食を食べたあと、私はベッドに横になりながら、頭をフル回転させていた。
考えろ、考えろぉ、私ぃ!まずは情報整理よ!
死んだと思ったら、こんな豪華な屋敷の綺麗なお嬢様になっていた。
これはジャパニーズのオタク文化でいうところの転生というやつでは!?ラノベやWeb小説で読んだことあるし、アニメでも見たことある展開だわ!私に一番あてはまりそうなのは乙女ゲー世界とかに転生したパターンじゃないの!?
うおおおぉぉおぉおお!!テンション上がってきたあぁぁ!!思い出せぇぇ!!つり目でプライドの高そうなアーレお嬢様が登場する物語ってなんだっけ!?
私はいわゆるライトオタクだった。浅く広く、人気のある作品や名作と言われる作品から、マイナーな作品まで履修していた。その膨大な履修量から必死に思い出そうとする。
わたくし、ワクワクしてきたわ!!
「あ、あれだわ」
うんうん唸ってたら、ぼんやりと思い出してきた。たしか、剣と魔法の世界でヒロインと攻略キャラたちが、学園でなんやかんやするオーソドックスな物語。もうタイトルも思い出せないが、その作品に登場する高慢で嫌味なキャラにアーレがいたはず――。
「悪役令嬢ってやつか~。」
テンション下がってきたわー。
でも、たしか私は攻略キャラが心にズキュンと刺さらなかったから、あんまりハマれなかったのよね~。だから攻略キャラとイチャイチャしたいわけじゃないし、良かったのかな。それに悪役令嬢っていっても、アーレは物語の展開で死んだり不幸になるわけじゃないし、ひとまずは安心かな――。
「あの物語か~。どこか私が好きなポイントあったっけ?」
大量の作品から記憶に残っているってことは、何かしら私にインパクトを与えていたはず。
「あ、おるやんけ! 私の好きだったキャラが!」
そう、あの物語には私の心にズキュンと刺さったキャラがいた!ただし、“攻略不可能キャラ”のサブキャラとして――。
攻略キャラには興味がないが、もしかして、この世界にもあの攻略不可能キャラがいるのかしらん。もしもいるのなら――。
「……したい。あ~イチャイチャしたいなぁ~」
たしか学園に入学するのは16歳から。あと11年もあるのか……。
でも、入学しても悪役令嬢であるアーレとは学園ではほとんど接点がなかったはず。
「このままではイチャイチャするのは無理か――」
けど、せっかくの2度目の人生、出来るなら存分に楽しみたい!目標があるなら、そこから逆算して、なにをすればいいのか考えればいいのよ!まだ11年もあるんだし!
「攻略不可能キャラとイチャイチャ計画、やるか」
そういうことになった。
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