気になるあの子の読んでいる本を偶然知ってしまったんだが、これは運命だと思う。

日月ゆの

第1話

眠たくてぼんやりする頭が、自転車のペダルを漕ぐたびに少しずつクリアになる。

 流れて行く景色が早くなり、風をふわりと顔に受けるからだろうか。

 駅までの緩やかな坂道を下りながら、そんなことを感じていたら、遠い視界の駅に、乗るはずの赤い電車がもう停まっている。

 特急とのすれ違いのために、ホームに待機している赤い車両が目印の普通電車。


 地元にはこの赤い車両が目印の私鉄しか通っていない田舎。

 自宅から駅までの道にあるのは、水をはる前の味気ない田んぼしかない。

 そう、こんな田舎の駅に停まる電車の本数はとても少ない。

 これを逃したら、いくら通勤時のために多い本数の電車が走っていようが、20分後。

 遅刻確定だ。もう少し早起きをし、1本早い電車に乗れば良いが、それはできないっ!


 必死にペダルを漕ぎ、鮮やかなカーブをキメて自転車置き場に滑り込んだ。

 キギッーと中学時代からの自転車相棒のブレーキ音が悲鳴に聞こえるが、気にしない。


 カチャン、小さな自転車の鍵を回して、抜き取る。そのまま真新しい制服のポケットへ無造作に突っ込んだ。

 鍵に付いたばあちゃんから押し付けられた貰った老人会の北海道旅行土産の木彫りのくまキーホルダーがポケットの中でチャリンと鈴を鳴らす。

 いつも外そう外そうと思うけど、ばあちゃんが自転車に付いていると喜ぶから外せない……。

 今度のお土産はマシなのにしてくれよ。


「おはようさん。ちゃんとそこ、停めてなぁー。いってらっしゃい」

「ん。じいちゃんも頑張って〜」


 自転車置き場の地蔵もとい、シルバーなんちゃらのじいちゃんが、日影になっているところで、地面に座りたばこをふかしながら言う。

 そんな自由な馴染みのじいちゃんにひらりと手を振り、改札目指して駆け出した。


 間に合ってくれよ!!

 それだけで今日一日が最高に過ごせるんだからっ!!

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