第15話 女には3つの顔がある
イーヴァの隣まで移動したオレは、彼女に声をかける。
「怖いのか?」
「はい、怖いです」
「あんなに可愛いのに」
「覚醒前ゆえ、あのような姿ですが、フェニックスは聖獣――神の遣いとみなされる神聖な存在です。その気になれば、容易くこの国を消し去るくらいの力を持った存在です」
「そんなおっかねえヤツだったのか……」
「まあ、こちらから約定を破らなければ、そのようなことは起こらないでしょうが」
「約定?」
「建国王と聖獣の間に交わされた契約です。この世界に危機が訪れたとき、聖獣は覚醒し真の力を取り戻す。この契約を代々受け継ぎ、いざというときに覚醒の儀式を執り行うこと。それこそが、我々王家の者に課された使命なのです」
「なるほど。それで、リスティアは今、それの準備の最中と」
「はい、そうです。儀式の直前に手を加えなければならない部分もありますので」
オレとイーヴァが話している中、リスティアは黙々と魔法陣に白い線やら文字っぽいものを描き加えている。
道具も塗料もつかっていない。リスティアの指先が白く光り、彼女が指を動かす度に、白い模様が追加されていく。魔法的ななにかだろう。かっけー。
やはり、こういう場面では、リスティアは真剣な表情をしている。
ふわぽよもいいが、こっちのキリッってのもいいな。
一粒で二度美味しいリスティアさんだ。
そんなことを考えていたら、「3つの顔」っていう教訓話を思い出した。
どんな話かっていうと――。
女には3つの顔がある。
昼は純粋無垢な少女の顔。
夜は淫らな大人の女の顔。
翌朝に起きて見るのは、ブサイクなすっぴん顔。
詐欺メイクには気をつけろ、って話だ。
まあ、リスティアはほとんどメイクもしていないようだし、メイクうんぬんとか、そういう次元じゃない美人さんだし、そんな心配は必要ないだろう。
ただ、気になるのは、ふわぽよモードとキリッモード、他に3つめのリスティアの顔があるとしたら、それはどんな顔なのか……。
それを見てみたいような、見たくないような…………。
考えに夢中になって黙りこんでしまったオレを、イーヴァが黙って見上げている。
ああ、話の途中だったな。
「でも、話を聞く限りじゃあ、フェニックスはワリといいヤツっぽいじゃん。だったら、そんなに怖がる必要ないんじゃない?」
「そういう話ではありません。いくら頭では理解していても、本能的恐怖はどうしようもありません。聖獣というのは、我々人間よりも遥かに格上の存在なのです。それを平気で飼い慣らしている姉上がアタマオカシイだけです」
「そういうもんなのか……」
かわいいモフモフなのになあ。
つーか、イーヴァの認識だと、ほんとリスティアはただのガイキチキャラだな。
そういえば、「その人のことを一番よく知っているのは、その人の兄弟」ってどこかで聞いたことがある。
オレはひとりっ子だからいまいち実感できないけど、イーヴァの言う通りなのかな……。
「他人事のように言ってますが、シズク様もですよ」
「へっ!? オレ?」
「普通はフェニックスを撫でようなんてしませんよ。と言いますか、そもそも、フェニックスがあの距離まで姉上以外の人間を近づけるということが信じられません。やはり、勇者というのは特別な存在なのですね」
オレまで変人認定されちゃった……。
「つーか、そんなに怖いんだったら、ムリしてついて来なかったほうがよかったんじゃない?」
「いえ、これも私の役目ですので」
王女としての強い決意があるようだ。イーヴァは前をじっと見据えている。
「描き終わったよー。イーちゃん、そこでいいからスタンバイよろしくねー」
二人ともワンタッチお着替え。今度は揃ってローブ姿に変身だ。
イーヴァはドラゴン戦時と同じ地味な白ローブ姿。
一方のリスティアは、黒地に金糸の刺繡が入っていて、やたらゴージャスだ。ギャルっぽい。ストリベリーブロンドで白ギャルなリスティアはやっぱりカワイかった。
「じゃあ、始めるよー」
着替え終えたリスティアはフェニックスを魔法陣の中央にそっと降ろし、6つの宝玉をその周囲に等間隔で置いていく。
それを済ませたリスティアは魔法陣の外へ出て、縁ギリギリに立った。
その表情がキリッと引き締まる。
ピンと空気が張り詰める中、厳かな口調でリスティアが唱え始める――。
「キングダム王国第49代目国王ユイチ・キングダムが長女、リスティア・キングダム。我、第一の鍵なり。時は来たり。古(いにしえ)の約定に従い、ここに聖獣覚醒の儀を行わん」
その透き通る凛とした声に、イーヴァの詠唱が重なる――。
「キングダム王国第49代目国王ユイチ・キングダムが次女、イーヴァ・キングダム。我、第二の鍵なり。機は熟せり。古の約定に従い、ここに聖獣覚醒の儀を行わん」
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『フーちゃんのーちょっといいとこーみてみたいー』
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