第6章 29話 それを乗り越えて

 ……夢の裏には厳しい現実がある。


 また、飛雨の言葉が頭に浮かんだ。


 風花は息をつめて体を椅子から起こす。


 春ヶ原は本当に夢の世界だ。だから、みんな幸せでいて欲しかったのに。


 風花は机に顔を伏せる。


「もう、ほんとにどうしたのー、風ちゃん」


 ひろあは半泣きで風花の肩を揺すった。


「夢の世界……」


「え?」


「わたし、みんなに幸せでいて欲しかったんだよ。それなのに……」


 ぐずぐずと風花はつぶやく。


 しっかりしなよと、香夜乃の声が飛んだ。


「そうだよ。現実は厳しいよ。私たちはそれを乗り越えてから、幸せになるんだよ」


 春ヶ原の風景がまぶたの裏に浮かぶ。


 なんてきれいなんだろうと、目に涙が浮かんだ。


 鮮やかな花に青々とした木。

 雨のしずくで輝く青々とした葉。


 あのときのように。ぴちゃんと立貴の雨のしずくが目の中に落ちてきた気がした。


 風花のまぶたの中のしずくは、冷たいような青いような、きらきらした美しさだった。

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