第3章 2話 精霊界の洪水

 今日の飛雨は、人が変わったようだった。


 人なつこい笑顔で、友達のように接してくる。


 鋭いままの目つきは少し怖いが、風花は素直にうれしかった。飛雨とは、ちゃんとした友達になりたい。


「でも沖縄のことは知ってるよ。夏澄が日本に来て、一番に調べたんだ。でも、気になるところはなかった」


「そうだよね。大波が来て、兄弟が助かったってだけじゃ、なにも分からないよね」


「うーん、でも精霊界の伝説と違うってことは分かるよ。精霊界にも洪水伝説は多くあるけど、世界を戒めるものじゃなくて、護ろうとしたものがほとんどだよ」


「精霊界?」


「夏澄の故郷の、水の精霊の国だけじゃなくて、海の精霊の国とか、光の精霊が住む空の世界とか、精霊たちが住む世界全体のこと」


 精霊界の洪水は、世界を護ろうとした……。風花はすこし驚いた。


「水の精霊の国の洪水伝説は、どっちでもないけどな。原因は分からないんだから」

「そうなんだ」


「なあ、風花。人の世界の洪水伝説だと、洪水の水はどこから来たってあった?」

「えーっとね……」


 風花はノートをめくった。


「空の水蒸気層だとか、地下水とか、いろいろな説があったよ」

「たくさん調べたんだなー」


 飛雨は関心したように、ノートを覗き込んだ。


「空の上に湧く泉のことが書いてある本があったら、教えてくれよ」


「そうだね。任せてっ。……じゃあ、次は蓮峯山の水伝説ね。こっも念のため調べたの」


 風花は勢いよくノートをめくった。

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