第1章 23話 精霊がずっと調べていること

「あれは、水の記憶を探っていたんだよ。俺たちは、ずっと調べていることがあるんだ」


 夏澄は波立たない水面のように、静かに言葉を紡ぐ。


「なにを?」

「俺の故郷の、水の精霊の国を元にもどす方法を」


 夏澄の声には、なにかの想いがこもっていた。


「元に?」


 うん、俺の故郷を。と、夏澄は愛おしそうにいった。まぶしそうに瞳を細める。


「俺たちの故郷はね、本当に本当にきれいなところなんだ。泉や川は青々として澄んでいて、そのほとりには草木や花があふれているんだ。神話に出てくる、楽園のようなところなんだよ」


 ……夏澄くんの故郷。


 泉や花が目に浮かぶようだった。


 水の精霊の国ならば、きっと川や泉は澄みきっているだろう。


 汚れのない、美しい世界だ。


 花であふれているなら、世界は花色に染まっている。澄んだ青い水と花色の国。


 夏澄くんのようにきれいだと、風花は思った。


 故郷を思う彼の瞳がきれいで、どきどきする。

 風花まで、水の精霊の国が愛おしく思えてきた。


「そこで、水の精霊も、動物も植物も、争わないで平和に暮らしていたんだ」


 いたんだと、夏澄は過去形を使う。それでも彼は、優しい表情でいた。


 風花の心に、針が刺さったような不安が浮かぶ。

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