第7話 布教活動はこっそりと 後


※アンナ→アンネに変更いたしました。よろしくお願いいたします。


▽▼▽▼


 布教大作戦。

 作戦概要だが、まずは私がアンネとビリーにジョシュアについていくつも語った。


「ジョシュアは皆さんが感じる雰囲気とは違って、本当は凄く優しい子なの。例えば年の離れた妹の世話を進んでしてくれるの」

「ジョシュア様が妹様のお世話を⁉ 全く想像がつきません……」


 アンネは酷く驚いた様子で目を見開いた。同じく驚いたビリーが、詳細について尋ねてくれる。


「具体的にはどのようなお世話を?」

「そうね……妹――エリシャがお散歩をしたいと言えば、それに付き合って庭園を一緒に歩いてくれたり、お茶会の真似事がしたいと言えば、招待客役をしてくれたり。エリシャが遊び疲れるまで、嫌な顔一つせずに付き合ってくれるの」

「まぁ。とても優しい方なのね」


 微笑ましいという反応を見せるエリーザ様の隣で、アンネとビリーは信じらないという表情を浮かべていた。


 後者の反応の方が一般的なのだろうと思うと苦笑いを浮かべてしまうものの、なおのこと噂の火消しと言う名の布教に力を入れないといけないと感じるのだった。


「あと、私の趣味にも付き合ってくれて」

「趣味、ですか?」


 アンネの言葉に、私は照れ臭そうに頷く。


「えぇ、私はケーキ作りが趣味なのだけれど、作る時は必ず手伝ってくれて」

「「へぇ……‼」」


 このケーキ作りは推し活でもあるのだが、一人で作ることもあれば、ジョシュアが手伝う場合もあった。幼い頃、ケーキ作りを体験して以来、ジョシュアもケーキ作りに強い興味を抱いているようだった。そのため、私が練習を兼ねて作っていると、厨房に顔を出してくれるのだ。


 その他にも、ジョシュアの優しいエピソードを二人に伝えると、ジョシュアが今持っている雰囲気に関して考えと思いを述べた。


「もしかしたら一人でいることが好きな子なのかもしれない。ただ、皆様のことを見下すことなんて絶対にありえないわ。ましてや身分で線引きするだなんてもってのほかよ」


 冷たい空気をまとっている時点で、ジョシュア印象は確実に悪い方向に捉えられてしまうだろう。ただ、冷酷な人ではないことを知ってほしいと思った。


「無関心、というよりは関わり方がわからないのではないかと思うの。ジョシュア私と同じで幼少期から同年代の方とお会いすることが一切なかったから。既にできた縁に入ることに抵抗があるだけだと思うわ」

「「なるほど……」」


 一匹狼をジョシュアはもしかしたら好んでいるのかもしれない。もしもそうならば、そのスタイルを否定するつもりはさらさらない。ただ、後に自分に不利になる誤解は解いておくべきだ。


「…………という感じで、火消しをお願いできるかしら」


 恐る恐る尋ねてみれば、アンネとビリーは力強い眼差しと微笑みで「任せてください!」と答えてくれるのだった。


 こうして、二人による布教活動が開始された。

 その間、やはり私だけ何もしないのは申し訳なかったので、私は間接的な布教活動を行うことに決めたのだった。


 間接的というのも、私はあくまでもエリーザ様にジョシュアに関するほっこりエピソードを嬉しそうに話すだけのものだ。それを布教として成り立たせるために、私達はしばらくの間昼食を二人でこっそり食べるのではなく、学園の食堂や共有スペースのテラス等場所を考えて使っていた。


 エリーザ様は噂の火消しは徹底的に行う派の考えの持ち主だったので、喜んで協力をしてくださった。


 効果があるかはわからないが、何もしないよりは圧倒的に意味があると思った。


 一週間布教活動に専念した結果、ジョシュアに対する否定的な意見や噂は少しずつ薄まっていった。


 順調な滑り出しを見せたことに嬉々としながら、週明けの今日もエリーザ様と活動をすることにした。しかし、先生に呼び止められたエリーザ様に「大した用事ではないみたいだから、先に向かっていてくださる?」と言われたため、私は一人先にテラスに足を運んでいた。


「ジョシュア様、一緒に昼食を食べましょう」


 テラスに向かう途中、私はその現場を初めて目にした。

 そこには、ジョシュアにかなりの距離間で近付くご令嬢が、彼女の昼食であろうバスケットを胸に掲げて見上げていた。


「今日は我がリスター家専属のシェフに作らせたんです、二人分。もちろんルイス侯爵家のシェフ様には劣ってしまうと思うのですが……」


 どこかもじもじと恥じらいを感じさせる声色で誘うご令嬢だったが、言葉の節々からは絶対に食べたいという意思を感じさせた。


(……あれが噂のアタックガールか‼)


 やり方や度合いはさておき、それはまさしく恋するご令嬢がジョシュアに向けて努力をしている姿だった。


(ジョシュアは……わぁ、凄い目)


 死んだような目は少したりともご令嬢を視界に入れようとせず、少しずつ距離を取っているようにも見えた。


「ジョシュア様。実は昨日学園の庭園に、とても良い場所があるのを見つけたんです。よければそこで食べましょう?」


 凄く強烈な場面を目にしていることに間違いはなかったが、リスター嬢の髪がふわふわの明るい茶色でないことにひとまず安堵するのだった。

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