第6話 布教活動はこっそりと 前


 ヒロインの入学は来年であり、本来であればジョシュアと同時に入学してくるのがゲームでの設定たった。


 しかし、ここはあくまでも強制力のない可能性が高い世界なのでジョシュアは飛び級ができたのだったが、ヒロインに関しては完全に盲点だった。


(ヒロイン……ラウラ・エトワール。ふわふわとした髪型が特徴の可愛らしいお顔立ちの子)


 特長を思い出すと、一つひっかかることがあった。


(……髪色は確かクリームみたいな茶色だったはず)


 この世界における茶髪は暗い色が主流なので、ラウラの明るい髪色は凄く目立つものだった。尚且つ彼女は平民上がりの設定もある。


 となれば、入学している場合もっと有名になっているはずなのだ。


「エリーザ様。その臆せず話しかけてる方のお名前って」

「リスター子爵令嬢よ」

「リスター……」


 予感は当たり、ヒロインの名前は挙がらなかった。ただ、エリーザ様から教えていただいた名前にも聞き覚えはなかった。


「…………」

(これは普通に恋に落ちたご令嬢がジョシュアに恋慕しているだけ、なのかしら)


 シナリオ上では、ジョシュアは確かに一匹狼のような立ち位置で、一人で過ごすことが多かった。その中で、無視をされても冷たくされても果敢に話しかけるのがラウラだったのだ。


(友達がいない部分も気になるけど、アタックしているご令嬢も少し気になるわ……)


 考え込んでいると、エリーザ様は不安げな声を上げた。


「ごめんなさい、余計なことを言ったかしら」

「いえ! 全く知らなかった話なので……お聞きできて本当によかったです。ありがとうございます、エリーザ様」

「お役に立てたのなら良かったわ。案外、自分に関係のある噂の方が届きにくいこともあるものね」

「そうみたいです」


 さらにエリーザ様からいただいた有益すぎる情報を手にすると、次の授業から私は早速自分の立ち回りを考え始めた。


(ジョシュアのことは気になるものが多すぎるけど、本人に直接聞くのは難しいよなぁ……)


 何せ姉に心配をかけまいと行動するので、今回の話をどんな風に聞いても「大丈夫」としか返って来ないと思う。


 だからここからは私が自分で調査する必要があった。ただ、気になることが多すぎたので、まずは整理をする。


(……正直、この恋慕しているご令嬢というのは非常に気になるところ。ただ、今はまだ後回しでいいかな)


 それよりも優先すべきは、大きな不安事だった。それが、ゲームのジョシュア様のようになってきているという点だった。


(……ジョシュアに無理に友達を作って欲しい訳じゃないけど、今はあのゲームの時と生い立ちが違うからな。多くの人に誤解されたジョシュアが広がるのはあまり嬉しくない)


 エリーザ様に、ジョシュアが何と呼ばれているか具体的に聞くと、あまり聞き心地の良い言葉ではなかったのだ。


(周囲を見下してる方、無関心な侯爵子息、自分より身分の低い人間とは関りたくない人…………これはイメージが悪すぎる)


 私の知る優しいジョシュアとはかけはなれ、ゲームのジョシュア様に思い切り寄っている現状がどうしても不安を呼んだ。


(……噂は噂で揉み消さないと)


 考えを整理すると、一つ名案が浮かび上がった。


(ジョシュアの良さを広げないと。……うん。名付けて、推し様布教大作戦よ!!)


 こうして私の学園での推し活も幕を開けるのだった。


 


 この布教活動をする上で注意する点は、布教者がイヴェットだと知られないように立ち回ること。姉が話しているのは情報網としては確かなものだが、外部から見れば嫌な印象を与えてしまうこともあるからま。


 ということで、エリーザ様に協力を依頼するのだった。


「アンネ、ビリー、二人にお願いがあるの。イヴェットさんのために動いてくれるかしら」

「「お任せください」」


 エリーザ様には本当に言葉通りこのクラスには友人が一人もいないのだが、他のクラスには何人か幼少期から共にしているご友人がいらっしゃった。


 その友人の方々というのが聞いたことのあるお名前で、いわゆるゲームで出てきた取り巻きの方々だった。


 アンネさんとビリーさんは共に子爵令嬢で、二人はジョシュアと同じクラス。エリーザ様とお昼を共にするする過程で紹介してもらい、今では私も個人的に親しくなりかけている。


「弟ジョシュアに関する噂の火消しを噂で行いたいの。二人もきっとあまりよくない話を聞いていると思って」

「ジョシュア様ですね。……確かに、あまり良い話は聞きません」


 素直に答えてくれるアンネの隣で、ビリーがうんうんと頷いていた。


「噂の火消しなのだけど、今日アンネさんとビリーさんが聞いたお話をそのまま流してくれると嬉しくて」

「もちろんです!」

「火消し、頑張ります」


 布教、という言葉は馴染みがないため火消しと称することにした。こうして私は、二人にジョシュア・ルイスとはどんな人間なのか説明し始めるのだった。

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