第1話 解決策を考えます




 そう呟いたものの、すぐに首を横に振った。


(いや、変な話応援の有無関係なしに推し活はしているから……)


 お母様に推し活を教えてから、というより転生してから今日まで、休むことなく推し活はしているのだ。


 そうすると、学園が始まったからこそ始める対策としては当てはまらないと思う。


「……どうしたものかしら」


 取り敢えず推し活を除いた、具体的な解決策を別の紙に書き出し始めた。現状、思い浮かんだのは三つの案だった。


 その一、ヒロインに攻略してもらう。

 その二、ヒロインがジョシュアに少しも近付かないように目を光らせる。

 その三、ヒロインと言わず別の婚約者を見つけてくる。


「ヒロインに攻略……」


 一つ目の案は、自分で書いておきながら眉を潜めてしまった。

 これは運が絡んでくる。実際、ヒロインが誰を選ぶかはわからないから。それに。


「……なんか嫌かも」


 ゲームの中なら、自分だってヒロインとして楽しい気持ちで攻略していた。ただ、今この世界に生きる者からすれば、攻略という言葉はしっくりこなかったのだ。


 攻略してもらう。のところに二重線を引いて、上からお付き合いしてもらう。と書き直した。


「……うん。こっちかな」 


 先程より幾分か不快感は消えたものの、何故か心のもやは十分に晴れなかった。


「取り敢えず運次第にならない案……二つ目か」


 二つ目、それは私の負担が他二つと比べ物にならないほど重いものだった。


「それに、ジョシュアの様子を見られるのは二年間だけなのよね……」


 そう、一つ年下のジョシュアが学園に入学するのは来年で、ヒロインと同じ学年となる。


(だから実際、乙女ゲームが始まるのは来年なんだけど……)


 今から対策を考えておいて損はない、と思いながら紙を見つめていた。


「……婚約者、か」


 実は、私もジョシュアもまだ婚約者はいない。ジョシュアはわからないが、私に関しては一度も話をお父様から聞いたことはない。


(まぁ、お父様とお母様がほぼ恋愛結婚な所を考えると、それを推奨してくれそう。……特にお母様が)


 くすりと微笑むものの、何だかんだ言って三つ目の案が一番現実的な気がした。


「……今度お父様に聞いてみようかな」


 果たしてジョシュアの婚約は現状どうなっているのか。現状私は何の情報も持っていなかった。


 この他にも有効そうな案がある気がしたが、今日はこれ以上思い浮かびそうになかった。続きはまた今度。そう思ってパタリと紙を挟んでノートを閉じる。


「なにをきかれるんですか?」


 すると、背後から可愛らしい声が聞こえた。


「あらエリシャ」

「おじゃまします、お姉さま!」

「ふふっ、どうぞ」


 元気良く挨拶をした小さな少女は、私の妹エリシャである。年齢は今年五歳になる幼く愛らしい子どもである。


 お父様とお母様の仲が修復された六年前。二人にとっての新婚生活が始まったようなものだった。その結果生まれたのが、世界一可愛い妹のエリシャだった。


 世界一可愛い、というとジョシュアに寂しそうな目をされるので心に留めておくことにした。もちろんジョシュアも可愛いのだが、今となってはカッコいいと言う方が適切だと思っている。


 エリシャの誕生には誰もが喜んでいた。フォルノンテ公爵家も例外でなく、その喜びようはこちらが冷静になるほどだった。


(ステュアートお兄様は言葉を失っていたわよね……)


 お母様の体を気にしながらも狂喜乱舞する伯父様の隣で、ステュアートお兄様と言えば手を組ながらこれ以上ない微笑みを浮かべていた気がする。


 フォルノンテ公爵家に生まれたのではないかと錯覚するほど、喜ぶ勢いは目を見張るものがあった。


 ドレスの裾をくいっと引かれたところで、エリシャの方に視線が戻る。


「お姉さま、お父さまのところにいくんですか?」

「ううん。今日は行かないわ」

「!」


 私が部屋から出ていくと思っていたエリシャは、その答えを受けてわかりやすいほどに目を輝かせた。


「じゃあわたしとあそんでくたさいませ!」

(可愛いっ……!!)


 バッと両手を広げながら、エリシャは満面の笑みを浮かべた。

 つたないながらに喋るエリシャは、目に入れても痛くないほど可愛らしかった。

 

「もちろん遊びましょう」


 そのエリシャをひょいと抱き上げると、ひとまずソファーへと移動した。


「あれ。でもエリシャ、今日はジョシュアと遊ぶんじゃなかった?」

「お兄さまは、これからおべんきょうのようです!」

「あら」

(勉強……今日も頑張ってるのね)


 ジョシュアといえば、ルイス侯爵家の跡継ぎとして日々お父様の元で勉強する日々を過ごしていた。


 最近、といってもここ半年以上はそれに加えて何か独学でさらに勉強をしているようだった。


(勉強熱心なのは良いこと、なんだけれどね。無理していないかだけ心配だわ……)


 姉として、家族として。

 ジョシュアへの心配の意味合いは、年々定着してきた気がする。


 ただ、年々あの乙女ゲームのビジュアルに近付いてきたジョシュアを見ると、神々しくて仕方ないのは確かなことだった。


「お姉さま! エリシャご本が読みたいです!!」

「……何の本がいいかな?」


 エリシャの声にはっとすると、そのまま今日は二人で時間を過ごすのだった。

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