第17話 不要な縁を切って(オフィーリア視点)


 周囲に人が集まりだしたのを確認すると、私は再びキャロラインに視線を戻した。


「そうそう、キャロライン。私貴女に教えたいことがあるの」

「……何かしら」

「先程、ご迷惑になるという話をしたでしょう? 実はね、貴女からもらった助言、試してみて気が付いたのだけど、全て迷惑のかかるものしかなかったわ」

「なっ」


 自覚があるのに、いざ面を向かって言われると嬉しくないのか、キャロラインは表情管理も忘れて顔をゆがめた。

 私はそんなことなどお構いなしに、いつも通りの自分がまとっている雰囲気を壊さないようにしていた。


 だからこそ、睨むのではなく困った顔をしてキャロラインを見つめたのだ。


「何度でも、無理やりでもお会いするべきと言ったわよね? あれは相手に失礼よ。ましてや朝方から書斎に突撃するなんて、迷惑この上ないわ。いくら妻とは言え、その立場を傲慢に使ってはいけないはずよ」

「!」


 それはかつてキャロラインに教えられた言葉。私はもらった助言を丁寧に潰した。


「それにね。贈り物は量ではないのよ。愛を伝えるには、断然手作りをした方がいいわ。数は重要じゃないの。たくさん贈っても困らせてしまうから」

「オフィーリアっ」

「あとね、キャロライン。推して駄目なら引くことも大切。でも引くだけだと忘れられるから、押し続けるのも大切と言っていたでしょう?」


 わなわなと震えながら、キャロラインはこちらを見ていた。それもそのはずだ。主導権を自分が握れていないのだから。その上、観客のように周囲が見ているのも彼女にとっては気に食わないものだろう。


 しかし、そんなことなど一つも気にせずに話し続けた。


「それは私にとっては間違いだったわ。押して駄目ならね、推してみるべきなのよ」

「はぁ? 貴女、何を言っているの」


 段々と本性を現しながら馬鹿にするキャロラインをよそに、私はイヴちゃんを見て微笑んだ。イヴちゃんは驚いた顔で私を見つめていたけど。


「でも正直、これに関しては私だけが知っていれば良いと思うの。誰にも知られたくない、最高の方法だから」


 穏やかな笑顔を浮かべながらそう告げれば、キャロラインはいらいらとしながらこちらを見た。


「オフィーリア。お茶会の雰囲気を壊すのはやめてちょうだい」

「壊すだなんて! キャロライン。私は貴方に教えたくて」

「何を教えてるのよ」

「貴女が私に教えた助言の数々の結果よ。あれはもちろんご自身の体験談から意気揚々と教えてくれたのでしょう。でも正直、その手は全て悪手よ。相手に迷惑が掛かるから今すぐにでもやめるべきだわ」

「なっ!」

「皆もよ? 上手くいかないものばかりだもの」


 穏やかに座っている友人達を見つめれば、全員が青い顔で目をそらすのだった。


 そう話す頃には、参加者のご夫人方はほとんど全員がこちらに耳を傾けていた。私はそれを狙って、キャロラインという人間に関して伝えたのだ。今までの自分を払拭すると共に。


「オフィーリア、貴女いい加減にしなさい。今の貴女の言動の方が私達にとって、よほど迷惑よ」

「それはごめんなさい。でも私なりの助言よ。それにね、私もうキャロライン達に相談するのを終わりにしようと思って」

「!」

「本音を言うとね、もらった助言が何一つとして役に立たなかったの。恐らく私とは感性が合わないのよ。だからごめんなさいね。私がこの席に座ることは二度とないわ」


 申し訳なさそうにそう告げれば、キャロラインの琴線に触れたようで、声を荒げて立ち上がった。


「オフィーリア!」


 周囲の注目が最高潮に達したところで、私はキャロラインを鋭く冷ややかな目で見た。


「キャロライン。素晴らしいお店を紹介してくれてありがとうね?」

「!!」


 まさか、その話だけは出てこないと思っていたのだろう。怒っていたキャロラインは、固まってしまった。


「とても素敵なお店だったわよ? 売れ残ったドレスを流行と称したり、私のために作ったものだと偽って売りつけたり。何よりも、それを相場の倍以上の値段で売る商売魂には驚いて声もでなかったわ。本当に紹介してくれてありがとう。素敵ね、貴女の旦那様が運営するドレス店は」

「何を……嘘ばかり。貴女がそんな人だとは思わなかったわ」

「あら。噓ではないわよ? ルイス家の優秀な執事達が調べた結果ですもの。気になるなら、その結果をあとでデリーナ伯爵家にお送りするわ」


 淡々として返せば、ぐっと言葉を飲み込むキャロライン。ご夫人方の声はここまで聞こえるほど大きくなっていた。


「……私もよ、キャロライン。貴女がそんな人だとは思わなかったわ」

「!!」

「正確には、貴女達、ね?」


 突き刺すような眼差しで、キャロラインの隣に座るかつての友人を見る。彼女達は目を合わせるのを避けて下を向いた。


「では、キャロライン。私はこれで。……今後貴女とは、どんな形式でもお付き合いすることはないと思うわ」 


 その一言を最後に、席を立った。イヴちゃんもその後をついて来てくれる。


 少しだけテーブルから離れたところで、今度は観客として耳を傾けていたご夫人方に向けて謝罪をした。


「本日のお茶会にご参加の皆様。雰囲気を壊し、ご不快な思いをさせてしまい大変申し訳ございません。私はこれで失礼しまが、残りの時間もお楽しみください。ですが、もしよろしければ、後日私の方で主催するお茶会でお詫びをさせていただけないでしょうか? お考えいただければと思います」


 あくまでもキャロライン達以外に向けて、深々とお辞儀をするのだった。

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