第14話 お母様とお茶会へ

  

 


 今日はお母様が招待されたお茶会へとやって来た。

 

 元々招待を受けたのはお母様だけのだが、お母様が心配で一緒に来てしまった。


 というのも、お母様が招待状を見る所に偶然居合わせたのだが、何とも不安そうな表情だったのだ。そこで「お茶会楽しそう……」と呟いてお母様から「それなら一緒に行かない?」という提案を受けたのだった。


(今まで一緒に参加したことなんてなかったから、変な気分)


 その上、しっかりとした社交場に出るのはこれが初めてだったので、少し緊張していた。


 娘を連れてお茶会の参加は、主催であるキャロライン・デリーナ伯爵夫人が快く承諾してくれた。夫人方が集まるお茶会ではあるものの、かつてはお母様のように子どもを連れて参加された人もいるのだとか。


 お母様に話を聞くと、キャロライン様とは長年の親友なんだとか。今日集まる他の参加者もお母様と旧知の仲の方ばかりらしい。


「……イヴちゃん」


 会場になるデリーナ伯爵家に到着して馬車から降りようとすると、お母様から呼び止められた。


「はい、お母様」

「……私、頑張るわ」

「……」


 多くは語らなかったお母様だったが、どこか普段と雰囲気が異なっていた。加えて、緊張もしているように見えた。


 きっと何かをするのだろう。


 そう感じ取れた私は、内容まではわからなくとも自分は味方だと言うように背中を押した。


「応援していますね。……大丈夫ですよ、今のお母様なら」

「イヴちゃん……」

「絶対に大丈夫です」

「……ありがとう」


 小さく微笑む母に、私も微笑み返すのだった。


 言葉を交わし終わると、私達は馬車から降りた。


(ここがデリーナ伯爵邸か……)

「イヴちゃん、こっちよ」

「はい」


 お母様について行くと、そこには会場らしき庭園があった。


「オフィーリア! よく来たわね」

「久しぶりね、キャロライン」

「娘のイヴェットちゃんよね? いらっしゃい」

「イヴェット・ルイスです。よろしくお願いいたします」

「まぁ。挨拶も完璧ね。さすがルイス家のご令嬢」


 キャロラインさんの印象は、とても朗らかな人だった。


(お母様……久しぶりの社交場で緊張しているのかしら)


 キャロラインさんへの挨拶でも、元気そうに振舞っていたが声色がほんの少しいつもより低く落ち着いている気がした。

 

 庭園のお茶会は綺麗な会場で、花に囲まれた上に透き通った池まで見える場所だった。快晴という天候も味方したこともあり、とても雰囲気の良い会場だった。


 お茶会が始まると、まずはお母様について各所に挨拶をしに回った。


 お母様の友人やお知り合いは皆良い人ばかりで、子どもだからと煙たがる人はまずいなかった。むしろお母様が娘を連れてきたことに喜ぶ人もいたくらいだ。悪意を向けられることはまずなかったので、緊張は段々と小さくなっていた。


「イヴちゃん……動きがとても上手だわ」

「ほ、本当ですか?」

「えぇ。どこに出しても恥ずかしくないくらい」

「……ありがとうございます」


 まさか褒められるとは思わなかったので、純粋に嬉しくなってしまった。


 お母様は公爵令嬢であったため、一流の教育を受けてこられた方。そんな人に褒められたのだと思うと、ますます喜びが増していった。


「オフィーリア」

「……キャロライン」

「いつものようにお話ししましょう」

「もちろん……イヴちゃん」

「イヴェットちゃんも一緒にいかが?」

「!」

「あ……」


 まさか振られると思わなかったので、驚き固まってしまう。その上、恐らくお母様はここで待っているようにと伝えたかったのではないかと推測できたため、答えに悩んでしまった。


「イヴちゃんも一緒にいいのかしら?」

「もちろんよ!」

「では行きましょうか」

「は、はい」


 お母様の本意とはそれた形になってしまったが、私は大人しくついて行くことにした。


 会場の一角で、丸いテーブルを囲むようにお母様達と共に座った。すでに他のお母様の友人は着席していたようで、テーブルは私とお母様、キャロライン様と他の御友人三名で囲むことになった。


 軽い挨拶を済ませると、私は静かに彼女達の話を聞いていた。


「それにしても久しぶりね」

「最近は何かあった?」


 近況報告から始めた彼女達だったが、開始早々雲行きが怪しくなってきた。


「そうだわオフィーリア。最近はどうかしら。ユーグリット様とは上手くいってる?」

「……そうね」


 キャロライン様は、特に他と変わらない声色でお母様に話を振った。


「いつものように元気がないと思って……正直、また上手くいってないのでしょう?」

(……お母様はいつもこの方たちに恋愛相談をしていたのかしら)


 そう思えるような雰囲気だった。


「この前教えた方法は試した?」

(……ん?)


 私はキャロライン様の発する言葉に引っかかった。


「キャロライン、何を教えたの。私、前回は欠席してしまって」

「あぁ。そうだったわね。前回はね、結婚記念日の過ごし方について相談に乗っていたのよ」

(…………)


 その瞬間、私のキャロライン様を見る眼差しが変化する。


「具体的には?」

「ほら。オフィーリアは今年結婚記念日が記念すべき10回目でしょう? だとしたら何としてでも祝いの席にはユーグリット様に来ていただかないと。だからね、承諾されるまで手紙を送り続けた方が良いって言ったのよ。お忙しい方でしょう? 一通じゃ忘れられてしまうわ。それに、返事が来るまで諦めないことが大事よと」

「そうなのね」


 それを聞くと、私の中で怒りが一気に込み上げてきた。私の考えていた仮説は当たっていたのだ。


(……貴女ね。お母様に非常識なことを吹き込んだのは)


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