第6話 私も推し活します!
ジョシュアを目の前にして、私も時事的な話題を返した。
「そうだわジョシュア。貴方明後日から外部の講師が来るのよね?」
「……………そうだよ」
(うわぁ、凄く嫌そう)
冷めた目で答えた姿を見ながら、私は少し苦笑してしまった。
「ちょっと待っててね」
「?」
ジョシュアを座らせたまま私は立ち上がって、ドレッサーの方へ向かった。引き出しを開けてきれいに並べられた自分の推し活の成果を眺めながら、一つを取り出した。
(推しグッズ……私が暇な時に作ってたジョシュアモデルのもので詰め込まれてる)
前世プレイしていた時でさえ推し活をしていたのだ。本人を前にして創作意欲が高まらないわけがない。
「よいしょ」
机の中から一つだけ取り出してサイズの合う箱に入れた。嫌がられるかもしれないが、このアイテムは推し活も込めているが私が姉としてジョシュアに渡したいと思ってずっと作っていたものだった。箱を大事に抱えながら、ジョシュアの元へと戻った。今度は向かいではなく隣に座り直した。
「隣失礼するわね」
「!」
「よいしょ」
箱を自分の膝の上に置くと、ジョシュアの方を見た。
「ジョシュア、これを貴方に」
「な、なにこれ。開けていいの?」
「もちろん」
そっと開けジョシュアは、中を見て息を止めた。中に入れたのは私が試行錯誤しながら作った眼帯だった。
「……………」
「気分を害したらごめんなさい。ジョシュアの役に立てるといいなと思って作ったのだけど」
「……………」
(……………あ、あからさまだったかしら)
眼帯を渡すことによって吉と出るか凶と出るか微妙な問題だった。吉と出るなら喜んでもらえるし、凶と出るのなら相手の神経を逆撫でするはめになってしまうことが予想された。
「……………姉様」
「……はい」
長すぎる沈黙に、思わず私は唾を飲み込んだ。
「つけてみてもいい?」
「! も、もちろん!!」
慣れない手つきでゆっくりと眼帯をつけ始めた。上手くいかなさそうだったので、反射的に声をかけてしまった。
「わ、私がつけてもいい?」
「……いいの?」
(いいに決まってるでしょう!!)
驚くほど素早く頷くと、ジョシュアに後ろを向いてもらいながら、私は紐を結ぶことにした。
「……………姉様、どうしてこれを?」
「え?」
「あ……だって、その。姉様は僕の瞳、綺麗って言ってくれていたから」
恐る恐るという雰囲気でジョシュアは私に尋ねた。
「あぁ。それはあくまでも私の感想じゃない。ジョシュアが気にするように、その瞳を受け入れない失礼な方だってもちろん存在するわ。自分と極度に違うことを受け入れるのが難しい人もいるし、常識を押し付けてくる人もいるから」
「……うん」
「でもそのせいで、ジョシュアが傷つくのは嫌なの。それなら自衛した方がいいというのが私の考えよ。さらに言うと、そんなに素敵な瞳、初対面の方にほいほい見せなくてもよいのでは? というのが本音ね」
「……ぷっ。あははっ」
「へ、変だった?」
「ううん。凄く姉様らしくて、大好きだよ」
「それは良かった。……よし、できたわ!」
きゅっと結び終えると、机の上にあった鏡をジョシュアに渡した。
「どう? 私は凄く似合うと思うのだけど」
「……最高」
「本当に⁉ やった!」
鏡を見ながら微笑むジョシュアが、世界で一番可愛かった。
「ありがとう姉様。大切にするよ」
「使ってくれると嬉しいわ。でも意見があったら何でも言ってちょうだい。紐が邪魔とか、耳にあたって痛いとか、見えにくいとか。そうしたら改善するから」
「まだ作るつもりなの?」
自分で作ったの? という疑問が飛んでこないのは、私がジョシュアを可愛がりまくった一年の間にも、何度か使えそうな手作り品を渡していたから。
「えぇ。ジョシュアに気に入ってもらえたのだから」
「……本当にありがとう。まさかこんなに良いものをもらえるなんて」
「ずっと気にしていたでしょう。だから作ってみたのよ。そしたらもうすぐ外部講師と接触すると聞いたから。見えにくかったり勉強の邪魔になるかもしれないけど」
「ううん。前も髪を伸ばして片目を隠していた時期があったから大丈夫だよ」
「それならよかった!」
喜びながら眼帯をつけたジョシュアを見た。乙女ゲームに出てくるジョシュア様はもちろん眼帯はしていなかった。オッドアイのキャラクターとして売り出すからだというのは十分理解できる。それを魅力と捉えているのは私だけでなく、プレイヤーの中には多く存在していたから。
でも実際にこの世界に転生してみて、それを魅力と考えられるかはまた別問題になって来た。オッドアイだからと負の感情を抱き、損をしてきたジョシュアを見ると、何か助けになりたいと思ったのだ。ジョシュアの嬉しそうな笑顔を見ると、それは成功したと言えるだろう。
眼帯を一通り眺めると、ジョシュアは私に視線を向けた。
「ねぇ、姉様。お礼になるかわからないんだけど、僕にできることない?」
「いいのよ、気にしなくて」
「僕がしたいの。何かない?」
「ジョシュアに……」
「うん」
かなり真剣な表情だったので、これ以上は断らずに考え込むことにした。気持ちを無下にしたくないという思いが働いたので、思いつくとジョシュアの目を見て答えた。
「じゃあお願いしたいことがあるのだけどーーーーーー」
「……なるほどね。任せて」
「本当に? ありがとう……!」
「……うん」
駄目元でお願いしてみれば、意外と快く引き受けてもらえた。嬉しさが隠れることなく顔に出ていた。
(こうと決まれば……よし)
全ては死という結末を回避するためにも。私ができることを、お母様に伝えていこうと思うのだった。
(お母様……頑張りましょうね)
だから気を抜かずに、次の段階に進めるように新しい案を考え始めるのだった。
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