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二〇二七年 八月四日 午前四時一七分
日本帝国 長野県 旧南安曇野郡 国防省直轄
日の出直前、まだ闇に沈んだ松本盆地の原野を無数の全身義体兵達が疾走する。重機じみていながら鋭利なシルエット。帝国陸軍の二〇式
北日領でけたたましい非常サイレンが鳴り響き、サーチライトが旋回して薄明を貫く。光条が照らし出すのは川の流れと灌木、草原の風景だ。かつて田園が広がっていた盆地は、日本列島を分断する線が引かれて以降の殆どの期間、自然の力の氾濫するがままとなっていた。
だが今日、この地はまた文明世界の征服を受けることとなった。それは十六年前以来二度目の再征服だった。かつて人民軍が雪崩れ込み撤退していったこの土地を、今度は帝国軍が進軍していく。同じく
瞬く間に死者と空薬莢が積み重なっていく戦場で、最初に主導権を握ったのは帝国軍であった。
―――――― ‼
突如、爆音が草原を駆け抜け、驚いた野鳥が川面から飛び立った。西方、飛騨の山中に展開する帝国軍の装脚自走榴弾砲が、一斉に火を吹いたのだ。
砲兵火力は盆地を侵攻する機動歩兵部隊と戦術
それが人民軍の不意打ちで帝国軍が潰走した日本戦争の教訓であり、だからこそ東西の日本軍は機動歩兵部隊の拡充に血道を上げてきたのだ。
――― ‼
黎明の夏空を切り裂いた一五五ミリ榴弾は、放物線軌道を描いて軍事境界線の東側へ落下した。一列横隊の閃光。一拍遅れて響く爆音の連鎖。発射音の山彦とアンサンブルを奏でるTNT爆薬が炸裂し、鋼鉄の弾殻が破裂して一帯に殺傷力を撒き散らしたのだ。
ようやく顔を出した太陽が立ち昇る噴煙を照らした。敵の防衛戦力を沈黙させた帝国軍機動歩兵部隊は、十六年越しの怨念を晴らすが如く、人民共和国の土地を蹂躙していった。
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