第8話 パワードスーツ

(リーレスがオーラスーツを素通りして、コンテナを攻撃するなんて!?)

 先ほど盛大に覚悟を決めたというのに……その私の覚悟をあざ笑うように、リーレスは私を素通りしてコンテナへと突進して、尾の棘を振っていた。

 リーレスはFMEの集合体だと考えられていた。何せ他の種類と比較しても、かなりの大きさだ。また目の敵にしていると言って良いほどに、オーラスーツを執拗に攻撃してくるのが特徴だった。その執念とも言うべきしつこさと、その執念を恐怖に変えるのに十分すぎる戦闘力。それらを全てひっくるめて……リーレスは恐れられている存在だった。

 私が先ほど覚悟を決めたのは……私が少しでも時間を稼げれば、男の人が助かると思ったからだ。リーレスのオーラスーツへの執着は間違いなく異常だ。壊れたと誰もが見てもわかっている状態であっても、執拗に爪を振るい、尾の棘を突き刺す。オーラマテリアルを使用しているオーラドライブは、頑丈だ。そのオーラドライブに取り込まれているオーラマテリアルを手に入れるために、リーレスはオーラスーツばかり襲うというのが、司令部の技術部門の見解だった。

 だから今回も私を狙ってくると思っていた。けれどその予想を完全に裏切って、リーレスはその超速度のまま、コンテナへと突撃していった。あまりの速さかそれとも尾の棘の鋭さ故か……コンテナが吹き飛ぶようなことにならなかった。

 吹き飛ぶよりはマシとはいえ、コンテナが攻撃されたことに代わりはない。そのため男の人が無事か、リンクした映像を確認する。映し出された映像は……考える限りでかなり最悪な状況だった。

(保存箱が破壊された!?)

 純度の高いオーラマテリアルを封印した箱が、先ほどのリーレスの攻撃で破壊されていた。正しく言えば固定器具が壊れたことで、箱が宙を舞っていた。このままでは男の人にぶつかって大けがでは済まない。そんな状況下で、男の人は手にした木の棒で箱を叩いていた。

「ちょっと!?」

 と、思わず声が漏れてしまうのは無理からぬ事だと思う。何せ衝撃を与えたくないオーラマテリアルを、命の危機とはいえ叩いていたのだから。それしかないとわかっていても、思わず声を上げてしまった。

 その結果……箱が完全に破壊されて中身が出てしまった。しかも中身のオーラマテリアルが宙を舞って……男の人へと向かって飛んでいった。そしてそのオーラマテリアルへと、手を伸ばした男の人の姿が見えて……


 リンクした映像が白一色に塗りつぶされた。


「なっ!?」

 リンクした映像が白一色になったので、直ぐに視界をオーラスーツの映像を主に切り替えた。するとコンテナから溢れんばかりの眩い光が、漏れ出ていた。それはすでに夕方にさしかかったこの辺りを、あかね色から白色に塗りつぶすほどの光量だった。

「一体……何が……」

 今まで出会ったことのない事態に直面して、私は思わずリーレスがいる状況だというのに、固まってしまった。しかしそのリーレスも発光したことで様子見に入ったのか、空中で微動だにせず浮いていた。

 リーレスの状況を確認した瞬間に……オーラスーツの計器が、けたたましい警告音を発していた。それは今までどんな物を計測したときも、発しなかった警告音だった。慌てて計測値に目を向けてみれば……そこに表記されていたのは「ERROR」の文字だった。

「えぇ!?」

 オーラスーツが計測できないのかと考えて、リンクしているコンテナでの解析結果を表示しても、同じ表記が出るだけだった。コンテナは今回発掘したオーラマテリアルを調べるために、調査、解析機器が充実したコンテナだ。もちろん、基地の解析機器に比べると劣るけれど、少なくともオーラスーツの計測器とは比べものにならない。

(それが計測出来ない?)

 今のリーレスの攻撃で機器が破損したことも考えられた。それでもオーラスーツの計測器では、計測不可能という事実に代わりはない。一体……何が起こっているのか? 危機的状況だというのに……私はあまりの出来事に呆然としてしまった。

そして光が収まっていく。再度リンクした映像に切り替えてみればそこには、人型の何かが立っていた。




 短い間に……意識が飛ぶことを二度も経験をした。

「……今のは」

 何故か飛んできていた、白銀に光る物体に手を伸ばした。その瞬間から今まで意識がとぎれていた。何かが聞こえた気がしたのだが……それが果たしてなんなのかがわからなかった。

(今は――)

 どういう状況なのか把握しようとして、かなりまずい状況であることを思い出して、私は思わずその場で伏せた。そして……伏せたことによって見えた自分の手を見て……


 自らの目を疑った。


「うん?」

 視線の先に見えたのは、灰色のごつごつしたロボットアームのような手だったのだ。しかもその手が、自分の思い描いたとおりに動くのである。つまり、このロボットアームのような灰色の手は、自らの手だと言うことになる。

「面妖な……」

 思わず呟いた言葉と同時に……第六感とでも言うべきか悪寒を察して、私は伏せていた体を跳び起こして、その場から離れていた。

!!!

 離れるのと同時に、甲高い音が聞こえる。その音に追従するように、先ほど私が伏せていた場所に鋭い棘のような物が突き刺さる。その棘が刺さったことで、コンテナが揺れた。その揺れたコンテナに着地する私。

「むぅ」

 飛び起きた時に視界に写った己の体は、手と同様に灰色の装甲で覆われていた。そして咄嗟に飛び起きたその飛び起き方が……超人的な動きをしていた。

 何せ跳んでいたのだ。それも体感的に2mほど。飛び起きるだけのつもりが、勢い余って跳んだようだ。そして着地する時に見えた足も装甲で覆われている。

 これを鑑みれば考えるまでもない。意識を失ったそのわずかな時間に、私はパワードスーツのような物を身につけたらしい。しかも極めつけが……右手には手がなく、丸い筒状の装甲と化している。右手の感覚はキチンとあって、右手の指も全て正常に動かせるのだが……どうやら丸い筒状の装甲の中にあるようだ。

「ロトメイドのパワードスーツっぽいようだな」

 ロトメイド。銀河最強の宇宙傭兵で、宇宙征服をもくろむ銀河海賊と戦うアムス・サラン。そのアムスが装備しているのが、全身を覆うパワードスーツだった。アムスを保護した、凄まじい科学技術を持つ天人族の技術の粋を集めて作られた、最強の武器。右手がアームキャノンになっているのが特徴で、そのアームキャノンを駆使して戦うアクションゲームだ。私が生まれる前から中年時代まで続いた超人気作品だ。

 そこまで思考を巡らせて、私は先ほどまで手にしていた木刀が、手から無くなっていることに気づいた。咄嗟に視線を巡らせて探すが……どこにも見あたらなかった。

(どこ――!?)

 思わず探そうとしてしまうが、再度悪寒が体を走って、その場から横に避けていた。先ほどと同じように棘が突き刺さる。狭いコンテナの中では自由に動くことが出来ない。そう考えて私は……一か八かコンテナの外へと向かって走り出していた。

 その速度もまぁ早い。ロボットが入れて、ちょっとした居住区画もあるほどの大きなサイズのコンテナ。そのコンテナを出るには全力疾走でもそれなりの時間がかかるし、そもそも扉が機能していないので裂け目から出る必要がある。そのコンテナから出るのに五秒とかからず出ることが出来た。

『嘘、何で!?』

 ロボットが驚いているが、こちらとしてはそれ以上に驚いていた。何せ走るのも異様に速くなり、更に飛び上がった時も、一息でコンテナから飛び出せたのだ。まさにパワードスーツの見た目にそぐわぬ性能である。

 しかしいくらパワードスーツが凄くても、中身の私が使えこなせなくては意味がない。常識的に考えれば、通常の数倍の身体能力が発揮できるようになったとしても、脳がそれをうまく扱えなければ、まともに動かせるはずもない。

 だが、先ほど戦闘中にもあった極限状態がまたも起こり……身体能力以上に思考能力が強化されているような感覚に陥っており、何とかまともに動かすことが出来た。そして外に出た瞬間に、私は相手の姿を視界に捉えて……次の行動を行う。

(ロトメイドのパワードスーツであるならば!)

 右手が筒状の状態であるならば、それはロトメイドのパワードスーツのアームキャノンが再現されているということ。ゲームの設定では、主人公のアムスの生体エネルギーを撃ち出すものだった。

 今の私が何故いきなり、ロトメイドのパワードスーツを纏っているのか理由はわからないが、何の意味もなくロトメイドのパワードスーツになったわけではないはずだ。故に……私は敵に銃口を向けて、撃つと念じた。その瞬間に、想像通り光線が吐き出されていた。

『はぁ!?』

 再度ロボットが悲鳴にも似た言葉を発していた。実際悲鳴なのかも知れない。私は悲鳴を上げはしなかったが、内心で舌打ちをしていた。

(……まぁ当たるはずもないわけですが)

 飛翔している敵に向けて撃ったつもりだが……先にも言ったとおり私に射撃訓練の経験はない。撃ったものが光線のようだったが、当たった様子はない。光線がどれほどの速度かは謎だが、実際に発射されたのであれば遅くはないだろう。被弾しているようには見えず、こちらに向けて再度突進してくるようだ。

(さて……となると……)

 敵が突っ込んでくると言うのであれば、的が近くなると言うことである。零距離射撃などはしたくないが、当たらなければ敵を倒すことなど出来るはずもない。故に……私は全神経を相手に集中させた。

!!!!!

 聞こえぬ咆吼を上げて、敵が私へと突進してくる。巨体であるにもかかわらず、見ることすらも敵わずほどの凄まじい速度。そんな凄まじい速度で動き回る相手の動きが見えていた。そんな超人的思考能力と視力のよさに内心で驚いていたが、今はそんな場合ではない。外すはずがない相対距離で右手を構えて、光線を発射した。

 空気の焼ける音とでも言えばいいのか? どこか間抜けに聞こえる音が響いた。距離がそれなりに近かったこともあって、私が撃った光線は命中した。突進してくるため顔がもっとも近い。眉間と言うべき一に命中したのだが、それはむなしくも弾かれたように後方へと流れていった。

(全てが見えたわけではないが……光線が見えるというのは面妖よな)

 敵の眉間に命中したが、角度が浅かったが故に弾かれたような感じだった。それを見ることが出来る己の視力に内心で驚いていたが、今驚いている場合ではない。何とか敵の突進に対して飛び上がることで攻撃を回避するが……上部へ避けた私を攻撃するように、突進してくる敵の尾が跳ね上がり、正確に私を狙ってきた。

「くっ!」

 瞠目しつつもそのままぶつかるわけにはいかないと判断し、私は何とか避けようと思考した。その私の思いに応えるように、空中で横九十度に突如として移動した。

「むっ!?」

 背面より突如として押されたように回避していた。私が避けたとほぼ同じ瞬間に、私の真横を通り過ぎていく敵と敵の尾。流石に尾を再度動かすことは出来なかったようだ。私に回避されたことに苛立ちを覚えたのか、敵が低く唸るような声を漏らして、再度上空へと飛翔する。

「……翼があるのにはためかせもせず、空へ舞い上がるとは面妖よな」

 油断無く右手の銃を構えながら、私はそんな言葉を吐いていた。いわゆるワイバーンと呼ばれる足はあっても手はない、翼竜の姿をしているというのに、翼をはためかせずに空を自由自在に飛び回っているのだ。違和感が凄まじい物だった。

(まぁこれほどの巨大な物体が、間近で空を飛ぶところなど見たことなど無いのだが)

 どのような原理で飛翔しているのかは謎だが、現実として飛んでいる以上相手がかなり有利だ。立体的に動けるというのはかなり有利なのだから。

 しかしそれに関しては私も同様のようだ。先ほど尾を回避するときに感じた、背中が押されるような感覚。確かロトメイドのパワードスーツには、背面にバーニアが搭載されていた。咄嗟に思ったことだったが、どうやらパワードスーツがキチンと反応してくれたようだ。火を噴かして横に急制動したのだろう。

 私自身がスーツの扱いに慣れてないこと、そこまで大きな違和感を覚えてない……異様にでかいバックパックなどを背負っているような感覚がない……ことから、恐らく一度の急制動が限度だろう。しかしそれでも一度動くことが出来るのなら、何とか相手に一泡吹かすことも可能だと思えた。あと問題なのは……

「決め手に欠ける」

 角度が浅かったとはいえ、こちらの遠距離武器であるアームキャノンは効いていない様子だった。そうなると相手を倒すことが出来るのは、現状ロボットだけという事になるのだが、言語が通じない状況では連携なんぞ出来るわけもない。仮に言葉が通じたとしても、即興でまともな連携が出来るわけがない。

 パワードスーツであればロボットの武器が使えるかも知れないが、背面のバックパックを切り捨てたというのに直剣は捨てなかった様子から、ロボットとしても切り札と言っていい武器のはず。言語もまともに通じない状況で、貸してくれるとは思えない。更に言えば、サイズが違いすぎてまともにあつかえるかも怪しい。

『どうなってるか分からないけど、とりあえず隠れて!』

 ロボットが再度こちらの前に出てくれて、何かを叫んでいた。様子からいって庇ってくれているのだろう。しかしまともな武器がないのはロボットも一緒のはずだ。己も死の恐怖にさらされているはずだというのに、気丈にも責務を全うしている様子で、非常に好感が持てる。見捨てたいとは思えなかった。

(しかし素人な上に、得物も無し。これではどうすることも――)

 そう考えた時だった。淡い光が左手より発せられた事に、私は気づいた。

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