第十一章 繋がり

今日は豪雨だ。




これは僕の心の涙を代弁しているのか。




そう言えば、今日は何となく、朝の情報番組の占いを観てしまった。




僕のカニ座の運勢は十二位だった。




それが現実になってしまうのか?




今、目の前の状況は果して現実か夢なのか?




夢なら早く覚めて欲しい。




しかし、体に肌寒さを感じる。




意識がはっきりとある。




夢の様な急展開や急に場面が変わる事にもならないし、例え急展開になったとしても、夢の様に驚愕する事はなく、平然と進む事を脳が許す事もないだろう。




僕達の登場に慌ててパソコンの電源を切る人物の姿を見てしまった。




今も目の前にいて、無言で視線を合している。




その人物は唐突の登場に緊張しているのか?




それはそうか、耳が赤い。その姿を見て呆然とするしかなかった。




なんなんだ、この悲壮感とも取れる感覚は?




今から何が起こるんだ?




御神君は今からとんでもない事を言うのだろうか?




折角、最近になって今まで築き上げてきた友好関係が今日で終わるのか?




身震いしている僕の目線の先には見慣れた人物がいた。




「何を言っているんだ、御神。俺がフクマデン?」




刹那的とは違う真剣な眼差しで問う。




「ああ、もう俺には全て解っている。君が南野さんを殺害したフクマデンという事も、ツインホテルの時の影の共犯者と繋がっている事も」


 


二人は出会ってからかつてないほど敵対している。




空気が痛い。




「・・・・・だから、何を根拠にそんな事言っているんだ。俺達、友達だろ?」




「・・・・・ああ、俺達は友達だ。しかし、友達でもどうしても言わなくてはならない事が世の中にはある。そして、今から俺が君に言う事は「友達でもどうしても言わなくてはならない」事だ。それに君がフクマデンではないというのならば何故、君がこんな時間にこんな所にいるんだい?」




「・・・・・俺は家のパソコンの調子が悪かったから、少し調べ物をしに学校に来ただけだよ。ちょうど夏休みだから誰もいないと思って」




僕も加戦しようにもなかなか言葉が出ない。




「調べ物か?だったら何故わざわざ学校へ来るんだ?区の図書館にでも行けば良いだろう」




「・・・・・三堂、お前もなんか言ってくれよ。どうやら御神がつまらない勘違いをしているようだ」


 


いつも僕を貶していたのとは違う様だ。 




「三堂にはまだ何も話していない。つまり、君と一緒でフラットの状態で初めて君が犯した罪を知る事になる。従って、俺の推理を聞き終わり、俺と君、どっちが正しかったのか、その最終判断を三堂に委ねようと思っている」


 


重大任務を授かった。




僕の判断で半藤君の未来、いや、僕達の未来が決まるのか?




そう考えると、正常な答えを出す自信がなかった。




「・・・・・そこまで言うんだったらお前の推理を聞いても良いが、幾ら友達だからといって後で「間違っていました、ごめんなさい」で済まされない事もあるんだぞ。今なら引き返せる。もし、そうしたら俺もここまでの事は見過ごしてやるし、このままの友達関係も維持出来る。しかし、これ以上前に進むのならば、俺はお前の事を人権蹂躙と見なして許さないし、友達だとももう思わない。さぁ、ご決断は?」


 


御神君は口を閉ざしたままだ。




「・・・・・答えは「俺達は友達ではない」か。いいだろ、お前の珍説を話してくれよ」




「俺と君はいつまでも友達だ。しかし、世の中には友達でも言わなくてはならない事はあるんだ。そして、俺は今俺の推理を聞き終わった後、君が俺に平伏す姿を想像出来ている」




「相変わらずお前の高慢な性格は直らないようだな」




「ああ、それが俺という人間を形成する上で重要な性質だからな」




「ふん、猪口才な。・・・・・まぁ、そんな事より話を進めてくれよ。このままのペースが続くようだったら日が暮れてしまう」




「そうだな、分かった。但し、俺が話したい順番は俺が決めても良いか?」




「どうぞ、ご自由に」










「有難う。まず初めに、確認しておく事があり。それは今回の事件には三人の犯人がいて、それぞれの犯人が則島、島内、そして、南野さんを殺害したんだ。つまり、君と遠野さん、南野さんがこの事件の犯人で、則島は南野さんに殺害され、島内は遠野さんに殺害され、南野さんは君に殺害されたという事だ」




「ふーん、そうなんだ」




半藤君の反応はまるで他人事のようだ。




しかし御神君は怯まない。




「そうだ。そして、もう一度言うがこの事件はツインホテルの事件と同じ影の共犯者が裏で手を引いていて、その人物がこのMDの主催者だ。影の共犯者は、前回のツインホテルも犯人を複数人にし、その犯人を今度は別の犯人が殺害した。そして、影の共犯者は分業制が好きなのか今回もそうしたんだ」




「でそれが、俺と何が関係あるんだ?」




「しらばくれても同じだ。君は俺からその話を直接聞かなくとも、その人物の事とツインホテルの事件の真相を知っている。何故ならば、君は今回の事件の計画を影の共犯者に依頼したからだ」




「俺が影の共犯者に事件の依頼をした?そんな証拠、一体何処にあるんだよ」




「それは間違いない事だ。何故なら、君が影の共犯者と繋がっていなければ、君が南野さんを殺害出来ないからだ」




「俺が南野さんを殺したフクマデンだという事は決定なんだ」




「俺の中ではそれは100%確定だが、君は当然まだ納得していないだろう。だが、君が南野さんを殺害したフクマデンという前提で一先ず事件の流れの話を聞いて欲しい。その証拠や根拠、トリック、動機は後から全て話す」




「お前は、この前のツインホテルの事件の時でもまず、確証のない前提で事件の流れを淡々と話し、後からその証拠や根拠やトリック、動機を話した。それが好きなんだね」




「ああ、そうかもしれないな」




「だがしかし、俺は今川さんの様にゲームで負けずに、お前との口論に勝つつもりだがな」




「ああ、俺も負けないつもりだ。だったらさっそく激論バトルを始めよう」


「ああ、そうしよう」




僕はこの一連のやり取りを平然と傍観していく自信がない。




「まず、南野さんが大学でプログラムをやっている事、俺がプログラムについての知識がある事を主催者Xは知っていた。そして、前にも言ったが主催者X改め陰の共犯者は俺に対して挑戦状を叩きつけている。今回の挑戦状の内容はフクマデンは誰なのか?その一点だ。俺がフクマデンを当てる為のヒントとして、あのダイイングメッセージが南野さんが殺害されたアパートの玄関で発見されたんだ。そして、それを書き、置いたのは南野さんでも君でもなく遠野さんだったんだ。遠野さんが君が南野さんを殺害した後に、玄関の隙間から置いたんだ。フクマデンの正体は身長170cm~175cm未満の者だ。それはMDの存在を知っていて、尚且つ俺が知っている者達、つまり、亜理紗、妙子、半藤、三堂の中に絞られるという事になる。何故なら、そうでなければ俺がフクマデンの正体を明かせないからだ。その中で170cm~175cm未満の者は君しかいない。そして、そこにはこうも記されていた。「MD FIN SYU PC R」と。これは君がフクマデンと解った時、どういう意味なのか直ぐに解った。陰の共犯者が伝えたかった事はMD(MD)が終了したら(FIN)秀明館高校(SYU)のパソコン室(PC R)に行けという意味だった。俺は直ぐに、MDが終了したら秀明館高校のパソコン室にフクマデンがいる事に勘づき、案の定、君がいた。そして、君は俺と直接対決の場を設ける為、陰の共犯者からその指示を受けていたんだ。だから、君は今ここにいるんだ」




「全くそんな事で、俺を犯人にして貰っては心外だな。前々からきつく当たっていた俺を嫌っていた南野さんが出来心で書いたかもしれないじゃないか」




「そうか、認めないか。なら、今から徹底的に君がフクマデンである事を追求するがそれでも良いか?」




「ああ、受けて立とう」




「分かった。まずは、この事件の全体像から話そう」




「オッケー」




唐突に半藤君がいつも刹那的な態度に戻った。




それは御神君との口論に勝つ自信があるからなのか?




それとも、御神君の推理が間違っているから余裕があるのか?




そして、僕の本心は半藤君が本当にフクマデンであって欲しくないのか?




「まず、南野さんは以前から則島に対し殺意を持っていた。そして、南野さんはその殺人計画を主催者Xに依頼した。則島を殺害する為に主催者Xが主催者となって考えられた方法がMDだ。MDにいろいろ条件を加えて、ゲームに負けた者は殺害されるというルールを参加者全員に課し、ゲーム開催期間中に敗北者である則島が殺害されても当たり前だと俺達が思うように建前上の正当な殺害動機を作ったんだ。そうする事で南野さんへの殺人の動機があったとしても有耶無耶に出来るし、最低でも俺達MDの参加者はその殺害された動機を疑わない事になるだろう。そして、一回目のゲームが終了した一週間の間に南野さんが則島さんを殺害した。そして、君も主催者Xに依頼し、その南野さんを直接殺害したフクマデンならば、あの時話せなかった南野さんが則島を殺害した方法が解明出来るんだ」








「だったら、まずは南野さんが則島を殺害した方法から教えてくれ」




「ああ、分かった。しかし、その前に大きな前提を話さなければならない。それには君も登場しなくてはならないがそれで良いか?」




「好きにして」




「分かった。その大前提の内容を何故、話さなくてはならないかというと君と南野さんのアリバイ作りの為なんだ。そして、そのそれぞれのアリバイを作る為には南野さんは君が必要で、君は南野さんが必要だったんだ。つまり、お互いが干渉し合う相互関係が必要なんだ」




「アリバイ作りね」




「ああ、そして、君と南野さんがアリバイを作る為にはMDのプレイヤーの他に、もう一人のプレイヤーが必要となってくる。そして、そのプレイヤーこそ遠野さんだったんだ」




「へぇー、あの遠野さんがね」




「ああ、俺より君の方が分かっている事なのに惚ける演技が上手いな。君は既にそのアリバイ作りの方法を知っていると思うが、ここにいる三堂に説明しなくてはならないから、詳しく話す事にしよう」




「いや、俺もそのアリバイ作りの方法、つまり、お前の頭の中の妄想は知らないから、ゆっくりと聞こう」




「そうだな。時間はたっぷりとあるしそうしよう。ネット上の事は当然顔が見えないから、誰がやっているのかが判らない。つまり、そのIDをその時、本当に使用していたのは誰だったのかは確証は持てない。しかし、俺が今から言う事はその事になる為の証拠がちゃんとある。それは後で話そう。まず、南野さんの代わりに俺がDAIを第一回目から今、第三回目のMDが終了するまでやっていた。そして、次にSAO。これは実は、第一回目のMDの時点では南野さんがやっていたんだ。そして、第二回目は君がやっていたんだ。そして、第三回目も君だ。だから、さっき慌ててパソコンの電源を切ったんだろ?そして、KYUM。これは第一回目のMDの時点では遠野さんがやっていて、実はやはり第二回目のMD終了した数日後、君が言った通り、第二回目のMDでのKYUMは南野さんがやっていたんだ。そして、君が代わりにSAOをやっているのだから、遠野さんは第二回目には何もしていなかったんだ。俺が感じた第一回目と第二回目のKYUMに対しての違和感はこれだったんだ。そして、KYUMは第二回目の時点で敗北し、当然、第三回目のKYUMはもうやる必要がない。つまり纏めると、




  DAI  第一回目 御神蓮司


       第二回目 御神蓮司


       第三回目 御神蓮司


  SAO  第一回目 南野浩平


       第二回目 半藤貴新


       第三回目 半藤貴新


  KYUM 第一回目 遠野岳


       第二回目 南野浩平


       第三回目 なし




君は第二回目、第三回目のSAOで第一回目のSAOの言葉遣いをそのまま演じていたが、南野さんの方は第二回目のKYUMで、第一回目のKYUMである遠野さんの言葉遣いを演じる筈が、慣れない言葉のせいで、第一回目のSAOがそのまま出て決まったんだ。つまり、三人二役、いや、DAIは元々南野さんでその代役を俺がやっていたのだから俺を含む四人三役でDAI、SAO、KYUMが行われていたんだ。一日目のMDの際、君は俺達と共に時間を過ごし、今回の事件とは関連性のない事を印象付けたんだ。そして、もう一つ重要な事を知る為にその場に居合わせた。その事についてはまた後で話そう。君は一回目のMDが始まる前にやらなくてはならない事があった。それは、俺と南野さんを会わせて、俺にDAIを代行させる依頼をする為のきっかけを作る事だ。その為に君は、テストが終わった七月十日、ファミレスに行こうと誘い、俺達を自分が指定したファミレスに誘導し、俺達と南野さんが出会う機会を作った。そして、南野さんは俺にDAIを任せ、自分は則島をMDで負かして、正当な殺害される理由を作る為に、SAOを使い、MDに参加していたんだ。そして、あるトリックからまんまと則島を負かした南野さんは第一回目と第二回目のMDが開催される期間に直接、則島を殺害したんだ。そして、第二回目のMD、君はSAOとしてMDに参加し、第一回目に南野さんがやった同じトリックを使い、KYUMだった南野さんをMDで負かして、正当に殺害される理由を作ったんだ。そして、そのトリックからまんまと南野さんを負かした君は第二回目と第三回目のMDが開催される期間に直接、南野さんを殺害し、君は第一回目のMDの時、俺と一緒にいる事でMDには参加していない只の高校生を印象付けたんだ。そして、先程まで行われた第三回目のMDで俺にSAOが半藤貴新だとはバレない様、最後の質問で全ての嘘を消化したのにも拘らず嘘の本名を回答として出したんだ」




「けど、一体どういった理由で主催者Xは南野さんに第二回目のKYUMをやらせたんだ?だって、仮に南野さんが則島を殺害した犯人だとしたら、第一回目のMD終了後に則島を殺害した後に、わざわざKYUMを交代しなくても、第二回目以降もSAOを自分がやれば良い事だと思うだろうし、そのまま遠野さんがKYUMをやれば良いと思った筈だろ。いや、南野さんが則島を殺害した後、もう目的を果たした南野さんはMDに参加自体しなくても良いだろう。・・・・・いや、待てよ。その場合、主催者Xは「遠野は貴方の代わりにSAOをやらなければならず、私は主催者をやらなければならないので人員がいない」で良いか。いや、でもそもそも、仮に俺が南野さんを殺害したフクマデンだとしたら、第二回目のMDで俺がそのまま遠野さんの代わりにKYUMを代行し、第二回目もSAOである南野さんを負かせれば済む事だろ。何故、俺や主催者Xや遠野さんはわざわざ四人三役という手間が掛かる事をしたんだ?」




「それは恐らく、後々の証言で有利になるからだ。つまり、第一回目と第二回目のSAOとKYUMの質問内容の回答から後で矛盾を生じらせる事が可能という事になる。例えば第一回目のMDで出た質問二の「生年月日は?」の際、SAOが「1996年8月12日生まれ」と答え、KYUMが「1986年9月29日生まれ」と答えていた。この正誤はSAOは正、KYUMは誤だった。そして、第二回目のMDで出た質問四の「出身地の都道府県は?」の際、SAOが「東京都」と答え、KYUMが「埼玉県」と答えていた。そして、この質問の正誤はどちらも正だった。果たして、これはどういうメリットがあったのか?それは、則島の死体が発見された後、則島と中学の同級生である南野さんに警察の捜査が入ったら、MDの事を警察に白状し、自分は「MDに参加していない」と言い逃れ出来るからだ。つまり「1996年8月12日生まれ」且つ「東京都出身」の人物がSAOの候補者であり、「1986年9月29日生まれではなく」、且つ「埼玉県出身」の人物がKYUMの候補者という事になる。つまり、東京都出身ではない南野さんはSAOではなく、今年22歳の南野さんが1986年生まれではない事からKYUMでもない事になる。南野さんは、埼玉県出身で生年月日は1996年8月12日生まれだった。よって、南野さんはこの事実を武器にして、言い逃れ出来る事になる。つまり、KYUMとSAOがMDの開催期間中にプレイヤーの入れ替えがなかった事になったら、南野さんはMDに参加していないからフクマデンではないと言う事になるんだ。南野さんはそういった理由で「貴方はIDの入れ替え、つまり、別のIDでMDに参加すると万が一の為の保険になるので、第二回目以降はSAOではなく、KYUMで参加して下さい。SAOは遠野がやります。その為に、遠野は第一回目の質問で生年月日の回答で正にしておきました。」と主催者Xから言われていたんだ。しかし、当然それは方便で、第三回目の時点ではもう君に殺害されているからやる必要がないがな。そして、主催者Xは特に南野さんと俺に四人三役をやらせた理由だがそれはある事が原因でそれがしたかったんだ。いや、このIDの人物入れ替えトリックはそれも兼ねていると言った方が正しいか」




「ある原因?」




「ああ、それは南野さんと俺を両方共MDに参加させる為だ。つまり、俺が南野さんをフクマデンの候補であるという推理に達する環境を作る為だ。主催者Xがいきなり、俺の所にMDの招待状を送ってしまっては俺は一生南野さんに会う機会がない。それだったら、俺は別のIDでMDに参加している事になる南野さんをこの広い世の中から探さなければならない。それは、主催者Xはフェアではないと考えたんだ。だから、まず初めに南野さんと俺を接触させる為に、南野さんのIDだったDAIを南野さんを介して俺に与え、南野さんは別のIDつまり、SAOを使ってMDに参加した。こうする事で俺は南野さんに疑いを持つ事を見越したんだ」




「しかし、警察の捜査に手が回った際に第二回目のMDを南野さんが誰かに代役を頼んで、MDに参加しなかったらどうなるんだ?」




「それは、主催者Xから固く禁止されていたんだ。何故なら、南野さんは殺人者だから、「もうこれ以上、様々な人間を介してボロを出したくない」という方便を主催者Xから南野さんに言えるからな。南野さん自身もそうしたかった筈だ」




「だけど、もし、南野さんがMDで負けたから殺害されて、島内がMDに全く関与していなく、南野さんの代役で殺害されたのであれば、あのカラスのマークが貼ってあったのは島内の死体であって、南野さんの死体にはカラスのマークが貼っていなかったじゃないか。これはMDの規約に違反するのではないのか?」




「いや、実はその状況はMDの規約に違反していないんだ」




「何故だ?」




「確かにMDの規約には「ゲームに敗北し、フクマデンによって殺害されたプレイヤーは殺害された死体だと判る様に現場に目印を示す」と記載してあった。しかし、それは実は主催者X側が今君が言った事を他の参加者達にもそう思わせたいが為、それを規約に課した一番の目的だったんだ」




「どういう事だ?」




「実は南野さんのアパートからMDに敗北したからという理由で殺害されたという証はカラスのマークではなく別のマークが貼ってあったんだ。それは三堂が部屋にあった本棚の裏の隙間から発見してくれた。そして、それは最初に殺害された則島の死体が発見された部屋にも実はあったんだ。その事は、宇崎刑事に確認して証言が取れた」




「一体、何があったんだ?それにもしそれが南野さんのアパートから発見されても、カラスのマークが貼っていないとMDの規約に違反するのではないか?」




「いや、実は違反はしないんだ。南野さんの部屋には例の主催者Xのサイトに貼っていた黒いRの文字で書かれていたマークが発見された。ここで思い出して欲しい。規約では「ゲームに敗北し、フクマデンによって殺害されたプレイヤーは殺害された死体だと判る様に現場に目印を示す」と記載されていた。これはどういう事か?「ゲームに敗北し、フクマデンによって殺害されたプレイヤーは殺害された死体だと判る様に現場に“カラスのマーク”を張る」とは何処にも書いていない。つまり、実際には南野さんはフクマデンに殺害されたと判る様に張られたマークはカラスのマークではなく黒いRの文字で書かれていたマークだったんだ。過去のMDで敗北し、殺害された者と同様のマークを張るとは規約には記載されていない。よって、MDで敗北し、フクマデンに殺害されれば「カラスのマークを張る」と俺達が先入観を持つ為に過去のMDの敗者と則島の死体にカラスのマークを張ったんだ。そして、俺達はまんまと陰の共犯者の思惑に嵌められてしまった。さらに言うと規約でMD参加者ではない殺害された死体に「カラスのマークを貼らない」とは何処にも書いていない。よって、MD参加者ではなく殺害された島内大輝の死体にカラスのマークを貼ってあっても違反ではないという事になる。つまり、カラスのマークが貼ってあった人物がMDで敗北したから殺害されたという根拠にもならない。島内大輝の死体にカラスのマークを貼った目的は今回のMDに参加しているプレイヤーだと印象付ける為だったんだ。そして、君は第二回目のMDが始まる前にSAOとして、「フクマデンに殺害された者は現場にカラスのマークが残されるのですね」と書き込んで、そう印象付けた。しかし、本当はフクマデンによって殺害された者の現場には黒いRのマークを残していたんだ」






「確かに、言葉のあやではあるが一応、筋は通るな。しかし、何故、MDとは全く関係のない人間がフクマデンによって殺害されたんだ?」




「島内大輝はフクマデンに殺害されたのではない。島内は今回のMDに全く参加していない所か、その存在自体も知らなかった筈だ。そして、当時、フクマデンではなかったつまり、SAOではなく、KYUMだった南野さんによって殺害されたんだ。つまり、島内はMDで敗北して死亡したのではない。何故、主催者Xがそうしたかったというと南野さんはずっとMDに参加していたフクマデンで、MDで敗北した則島と島内を殺害し、その罪を自殺する事によって償いたかった為だったんだ。つまり、南野さんがMDで敗北したという事実を隠蔽する死体の代役として島内は遠野さんによって殺害されたんだ。恐らく、主催者Xにこの条件を飲まされたのだろう。主催者Xが島内の死体を利用したのは南野さんがMDに参加していないと見せかけダミーにする為だ。そして、南野さんは第二回目のMDでKYUMとして、意図せず、結果的に島内を演じる形になった。島内が南野さんの代役に選ばれた理由は南野さんとの共通点が多いからだ。つまり、第二回目のKYUMと同じ情報である出身地が埼玉県、南野さんと同じ年齢、同じ大学、同じ職業等、その死体の代役に選ばれたのが島内大輝いう男なんだ。そうする事で死体が発見されてからその者の情報を調べられても第二回目のMDでの質問の回答の正誤の情報が一致する事になり、その者が第二回目のMDでKYUMをしていた者だと俺達は盲信してしまう。だから、南野さん個人情報と実際に近い者がKYUMの代役の死体に選ばれたんだ。これは俺の推測だが南野さんは個人的には島内に対して殺意はなかったと思う。そして、恐らく、南野さんは主催者Xが島内を殺害したい理由を主催者Xから聞かされていなかったんだ」




「しかし、そもそも何故、陰の共犯者は南野さん、お前、俺、遠野さんで四人三役をやらせたんだ?」




「南野さんは第二、第三回目の時点では君ではなく遠野さんがSAOをやると盲信してしまい、MDに参加してしまった。つまり、君がSAOをやる事で南野さんをMDで敗北させフクマデンとして殺害出来るんだ。フクマデンは全MDを通して、終始一貫SAOであるから、MDの参加者の中に殺意を持っている者がいれば絶対にSAOは敗北してはならない。南野さんにそのままSAO、君がKYUMとして参加してはフクマデンである南野さんを敗北させても、殺害出来ない。つまり、第二回目のMDで南野さんを殺害する為にはSAO以外のプレイヤーをやらせなければならない。それがKYUMだったんだ。第二回目のMDでKYUMをやらせ、SAOによって敗北させる為、主催者Xは四人三役にしたかったんだ。そして、KYUMを南野さんにやらせる事で、俺達に大学、生年月日、性別が同じという比較的、人物像が似ている島内が第二回目のMDでKYUMをやっていたと思い込ませる事が出来るんだ。そして無論、南野さん、則島以外の者がMDで仮に敗れていたら、俺も含めその時、MDに参加していたフクマデンに殺害されていただろう。つまり、俺はお前に殺害されていたかもしれないという事だ」




「ふんっ」




「そして、南野さんと島内の生年月日を同じだったのは主催者Xが意図的に選んだからだ。南野さんは主催者Xに第二回目のKYUMを島内がやっている事にし、もし、第二回目のMDでKYUMが負けてしまった場合、自分が殺害される代わりに自分と遠野さんが協力して島内を殺害すると主催者Xに言われていたんだ。しかし、それは主催者Xの嘘で、島内と南野さんは殺害されてしまった。さっきも言った通り、南野さんは第二回目のMDでSAOを交代して、フクマデン候補を外れたかったんだ。今考えれば、南野さんの第二回のMDで敗北後の雑談でのあの余裕はこの保険があったからだ」




ジャッジの針は御神君の方に傾いていた。




ふと、御神君が手に持っているタブレットPCを見てみた。






ANEX    おーい。推理の続きは?






JIM     DAI、一体何時まで待たせるつもりだ?






MUE     今、DAI以外で書き込みしていないプレイヤーがフクマデンじゃないの?だって、もう直接対決しているかもしれないからね。






LEO     じゃぁ、SAOがフクマデンという事かしら?






JIM     まぁ、そうなるな。






外野がうるさい。




今、書き込みなどしている余裕なんかない。






「しかし、そもそも何故、俺はMDに参加してから、南野さんを殺害しなければならないという回りくどいやり方をしなくてはならないのだ?」




「それは、MDの参加者の中に殺人者フクマデンがいる事が絶対条件だからだ。もし、俺が君のMDの参加を証明しなければ、君はフクマデンの候補にもならない事になる。勿論、南野さんとしても同じ事だ。則島殺害の容疑者がMDの参加者のみという事なら、自分は容疑者から外れる事となる。つまり、君と南野さんはフクマデンに該当しないという事になり、これはアリバイ以上に有力な防御策となる。自分がMDの参加者ではないと証明された時点で、フクマデンの容疑者から外れる事になるんだ。その為に君と南野さんはIDの入れ替わりという手で、質問に対する回答の正誤から矛盾を生じさせ、MDの参加者ではない事を証明しようとし、フクマデンの容疑者から外れるつもりだったんだ。そもそもMD自体が何故、質問を参加者に事前に答えさせ、ゲーム中回答の答え合わせといった形式のゲームにしたというと、君と南野さんがフクマデンではないと証明する為の手法として考えられたゲームだったと言えるんだ。つまり、第三者である遠野さんを介して、俺を含めて四人三役をする事で第一回目のMDには参加していない人物を作る、つまり、君のアリバイを手に入れようとしたんだ。後々、質問内容の正誤に誤りを生じさせる事で、ずっとMDに参加していないという事になるからな。質問の回答が第一回、第二回、第三回目のSAOと個人情報が一致する者なんて大勢といる。つまり、MDの参加者の候補者が君に向けられるのではなく、その大勢の人達に向けられる様にしたかったんだ」




「なるほど、その理由なら納得だわ」




彼にはまだ余裕があるのか?




「そして、改めて言うが、主催者Xは何故そんな犯人のヒントを与えるという事をしたというと、俺に対して以前から興味があり、俺に殺人事件という挑戦状を叩き付けている行為を前回のツインホテルの殺害事件と今回のMDの殺害事件と称してしているからだ。何故そう言えるのかというと、二つの事件はどちらも俺に関わりがある人物が事件に巻き込まれた事から、俺に殺人事件の探偵役をやらせたいという根拠となる。前回の事件は偶偶、依頼者が山鍋社長でその娘の佳純が俺と知り合いだった。そして、今回の事件の解明の場として主催者Xは君の自宅ではなくこのパソコン室を選び、君は契約の内容通り、SAOをしていたんだ。日本全国民の中から南野さんと則島を殺害した者を現場に残った手掛かりを元にし、探し出す事なんてほぼ不可能に近い。それだったら、俺に対し勝負している意味がない。よって犯人は俺の身近な人間か俺と一度でも会った事がある人物という事となる。そして、主催者X改め陰の共犯者は恐らく俺のある過去を知っている人間だ。そして、今、俺を試している。君と南野さんは俺をMDに参加させる事の条件を始め、その他様々な条件を飲む事を条件として法外な報酬の支払いを免除されたのではないのか?日本全国民の中からMDの参加者をまずは絞り込み、その中で南野さんと則島を殺害した犯人を探し当てる事の方が論理立てて出来るし、何よりもフェアだ。そうする事で俺にフクマデンの正体を論理的に当てるチャンスが生まれるという事なる。つまり、フクマデンの正体は俺と前々から面識があるか、今回のMDが始める直前や最中に面識を意図的に作り、MDの参加者だと判る範囲の人物で、且つ個別に殺意があった者、或いは南野さんと則島にそれぞれ別に殺意があった者までに絞り込められるという事だ」




御神君の熱弁によって、半藤君の表情が曇った。




「なるほどね。・・・・・もしそれが本当なら、一つの行為に幾つもの意味を持つ凄い手だな。それを考えた主催者Xは頭良いな」




「ああ、そうだな。ツインホテルでの事件もかなり、複雑な事件だったしな。主催者Xは複数の依頼者の要求を満たし、建前上一つの事件に合理的に統一し、俺達にその真意を気づかせない、この道のプロだな」




「でも今はそんな事より、容疑の疑いが掛かっている俺をお前の推理の綻びによって、俺を安心させる為に早く推理を続けてくれ」




「ああ、そうするよ。しかし、君は俺の推理を全て聞き終わると、俺の推理を認める事になるがな」




「猪口才な」








「さて、次はいよいよMDで正式にSAOがREDPALとKYUMを負かす方法、つまり、南野さんが則島を、君が南野さんのライフポイントを0にし、正当な殺害動機を作る方法の話、殺害したい相手のライフポイントを確実に削る方法だ。その方法は大きく別けて二つある。まず一つ目、君と南野さんが質問者である時、または質問者ではない時、つまり、どちらの立場でも良い時に、その負かす相手の質問に対しての本当の回答を知っていて、負かす相手がその本当とは違う回答をした時にすかさずダウト宣言し、相手のライフポイントを削る方法。二つ目、殺害される側の人間が事前に君と南野さんの建前上、本物の回答を知っていたが、それが実は間違いの回答で、そんな事露知らずそれを盲信し、その事前に知っていた回答とは違う回答を君と南野さんが出した時、すかさずダウト宣言し、その代償として自分のライフポイントが失われる方法だ」




「へえー、そうなんだ」




「そして、則島は南野さんつまり、KYUMの情報を主催者Xから直接、則島に渡し、入手したんだ」




「それはMDの規約上出来ないんじゃないのか?」




「いや、それは出来るんだ」




「何故だ?」




「MDの規約八は「主催者Xは如何なる場合、例えばプレイヤーが直接、主催者Xに訊いてきた場合でも、各プレイヤーが事前に回答した情報を教授しない。」だ。一見、主催者Xが則島に直接プレイヤーの情報を教えるのはMDの規約に違反する様に思える。しかし、この規約はあくまでも“各プレイヤーが事前に回答した情報”だ。KYUMを指名したのは主催者Xが自身だ。よって、主催者XはKYUMが事前に回答した情報を則島に教えたのではなく、MDでKYUMとして参加しているのが女という嘘を教えたんだ。そして、則島はKYUMは女だというデマ情報を流されたんだ。だから、性別の質問でKYUMの男という回答にダウト宣言したんだ。その前の雑談の時にはKYUMが男の振りをしていると思った筈だ。この手は南野さんと則島の残りのライフポイント1の時にだけ使える一回きりの手だ。何故なら、それまでにその方法でライフポイントを減らさせると、その事前に聞かされていた情報が始めのダウト失敗で虚偽の情報だと悟られ、もう二度とその情報を信じないからだ。だから、KYUMである遠野さんは則島のライフポイントが1になった時点で性別に関わる質問である「初恋相手の名前は?」をしたんだ」




「へえー、そうなんだ」




「ああ、また敢えて、君と南野さんの回答の際、則島と南野さんが事前に教えられた質問に対する回答と同じ回答をしたとしても、主催者Xの回答の発表で、その回答は実は嘘だという事になり、その時点で南野さんと則島にその事前の情報は虚偽だったと思われる事になる。よって、これは知らない内に騙されて、気づいた時にはもう負けていた時にしか使えない手だ。つまり、この手は南野さんと則島の残りのライフポイント1の時に使える手でしかない。残りのライフポイント1になるまでには前者の方法である君と南野さんが質問者である時、或いは質問者ではない時、つまり、どちらの立場でも良い時に、その負かす相手のその質問に対しての本当の回答を知っていて、その負かす相手がその本当とは違う回答をした時にすかさずダウト宣言し、相手のライフポイントを削る方法でライフポイントを減らさなければならない。よって、その方法を遂行する為、則島と南野さんの個人情報をMDの規約に違反せずに知る方法が存在するのならば、さっきまで言った後者の殺害される側の人間が君と南野さんの事前に建前上、本物の回答を知っていたが、それが実は間違いの回答で、そんな事露知らずそれを盲信して、その事前に知っていた回答とは違う回答を君と南野さんが出した時にすかさずダウト宣言し、それが失敗に終わり、その代償として自分のライフポイントが失われる方法はさっき言ったリスクがある為、実際には使用されなかったかもしれない。前者の方法の方がリスクが最小限で済み、無理してたった一回の為に事前に手間暇かけて仕込む理由もない。よって、前者の方法で則島と南野さんのライフポイントが減らされ、君は南野さんの、南野さんは則島の個人情報をそれぞれ直接仕入れたんだ。そして、君はその情報を他のプレイヤーに流失させ、賞金の山わけを条件に手を組んでいたんだ。何故なら、仲間である筈のSAOが南野さんに対してダウト宣言をしたら、自分への背信と南野さんに認識されるからな。だから、君は南野さんに対してダウト宣言出来ない。よって、実際には手を組んだプレイヤーが南野さんつまり、KYUMのライフポイントを減らしていたんだ。そして、これは俺の予想だが君が手を組んだ相手は恐らく、LEOだ。恐らく、第一回目のMD終了後、その時まだ、プレイヤーではなかった君は主催者Xから、LEOの連絡を聞かされ接触し、交渉したんだろう。これなら、MDの規約の主催者Xはプレイヤーに肩入れしないに違反しないからな。そして、LEOはさっきまで行われていた第三回目のMDの際、俺、君、MUE、ANEXの四人が優勝候補になった為、仕方なく二人で優勝を山分けから、俺を抜いた五人で山分けの選択肢を取るしかなかったんだ」




「だったら、南野さんとLEOが使用したそれぞれ最低、殺害したい相手のライフポイントを1までにする方法とは一体なんだ?まさか偶偶、則島と南野さんがライフポイント1になったという戯言や奇跡を言うんじゃなかろうな」


「いいや、奇跡何か起こっていない。君は、いや、南野さんとLEOは堂々と狙った獲物のライフポイントを1にしたんだ。しかし、その為には事前に殺害したい相手のMDの質問の回答に関する情報を知らなければならない。つまり、言い換えれば、事前に君が南野さんの、南野さんが則島のMDに関する情報を入手出来さえすれば、殺害したい相手のライフポイントを1までに出来るんだ。今から、取り敢えず、考えられる方法を全て言う事にしよう。しかし、これはあくまでもMDの許容範囲内の方法であって、MDの規約に違反する方法を挙げたら即却下するがな」




「主催者Xは実に誠実な人だね。しかし何故そう言い切れるんだ?」




「何故ならば、MDのそれに関する規約をわざわざ作ったという事は純粋にルールに則って、俺と勝負したいからという事と解釈出来るからだ。それを破ってまで勝ちたいというそんなアンフェアな事をして一体何が面白いんだ?」




「あくまで、勝負は公平にか」




「そうだな。では、余談が過ぎたが、全ての方法を挙げるぞ。一、南野さんと則島が事前に主催者側に提出した各質問に対する回答の内容を主催者Xや遠野さんから直接教えて貰う。これはMDの「主催者Xは如何なる場合、例えばプレイヤーが直接、主催者Xに訊いてきた場合でも、各プレイヤーが事前に回答した情報を教授しない。」というルールに背くから遠野さんも主催者Xに訊けないから有り得ない」




「へぇー、そうなんだ。MDに参加していないプレイヤーでも駄目なんだ」




「そうだ。二、南野さんが第一回目のMD時点では、REDPALを使用しているのは則島だという事、君が第二回目のMDの時点でKYUMを使用しているのは南野さんだという事を知っている。つまり、殺害したい相手の使っているIDは知っているので、それぞれゲームが始まる前に徹底的にその人物について事前に調べ上げる。若しくはそれぞれの主催者Xに事前に提出した回答用紙を主催者Xから建前上、盗んだ事にする。これは、後者は駄目そうだが、前者の方はまだ大丈夫そうだ。主催者Xがプレイヤーに加担しているかどうかは微妙な線だが取り敢えず、候補として残しておこう。もっと良い方法があるからな」




「もったいぶるね」




「続けるぞ。三、事前に回答を主催者Xにメールで添付して送信した際に、君と南野さんがその回答用紙の電子ファイルを手に入れた。つまり、これは回答用紙の電子ファイルを添付する先のメールアドレスが則島は南野さんに、南野さんは君のアドレスに送信される様にしたという事だ。則島も南野さんもいちいち、メールアドレスが送信元と違ったとしてもそもそもそれが本当かどうかも解らないし、ただ、指示されたメールアドレスに送っただけだから、気にも留めないだろうからな。しかし、これもMDの規約に違反しそうだ」




「正解はまだか?」




「すまない、出し惜しみをして。そして、次が恐らく正解だ。四、南野さんは事前に則島と親しいある人間を金で雇って、その人間に仲介させ、ある機会に則島からそれに必要な情報を聞き出した。そして君は、ある時、ある場所で南野さんから直接、南野さんの個人情報を聞いた」




「馬鹿か。そんな、南野さんが自分のライフラインとも言える個人情報を俺に喋る訳ないだろ」




「いや、そんな事はない。何故ならばこの時点で自分がフクマデンだと思っている南野さんが、君の事を「自分を殺そうとしているもう一人のフクマデン」だとは全く思わないからだ」




「言われてみればそうか」




「まずは南野さんが則島から情報を訊き出した方法の詳細について話そう。南野さんは、則島からMDに関する情報を訊き出す為に仲介役としてある人間を金で雇ったんだ。その人間こそ、南野さんと則島の中学の同級生で、あの中学の同窓会の幹事だった竹飛敏彦だったんだ。そして、竹飛には南野さんは「仲介人として則島を殺害する為、協力して欲しい」と正直に言ったんだ。その為に同級生の中から利己的で、他人の死に対して何とも思わなそうな人物が仲介役として人選され、それが竹飛だったんだ。流れとしてはこうだ。まず、竹飛が中学の同窓会を企画した。その打ち合わせも兼ねて、同窓会の一ヵ月前に竹飛が則島と個別に居酒屋で会った。その際、則島のMDに関する情報を訊き出した。竹飛が則島と個別に居酒屋で打ち合わせした事はその同窓会に参加していた事実は竹飛に直接確認した。酒の席では話も弾むし、則島の警戒心も緩む事になるだろう。実はこの時はMD以外では絶対に油断してはならない時間だとは知らずに、久しぶりの再会でMDの質問に関する事を竹飛に喋ってしまったんだ。勿論、本名、出身地、性別、職業等は訊かなくとも解るがな。そして、後日、南野さんは竹飛から、恐らくメールで則島から訊き出した個人情報を聞いたんだ」




「メールだと、伝え漏れなく訊き出せるな。確かにそれだったら南野さんは則島の個人情報を手に出来る」




「そして、次に君が直接、南野さんからMDの回答に関する個人情報を訊き出した方法だが、これしかないだろう。しかも、聞き出す数は南野さんより圧倒的に数が少なくて済む。南野さんの本名、性別、職業、最終学歴は初めて、南野さんと会ったファミレスで自ら話している事で別に聞かなくても知っている事だし、生年月日、出身地はその後、俺の家でMDのルールを見る前、君は南野さんから何気なく、訊き出していた。その時、既にMDの質問内容を知っていた君とは違い、俺達はその質問内容を知らなかったし、そんな事、気にも留めなかった。つまり、君は第一回目のMD終了時点で、その第一回目のMDで出た質問とさっきの六個以外の回答を一週間内に南野さんから最低でも三個、聞き出せば良い事になる。何故なら、プレイヤーが途中で交代してもそのプレイヤーのライフポイントは引き継がれるからだ。遠野さんの第一回目のMDでの仕事は南野さんが疑いの持たぬ程度にKYUMのライフポイントを増やさず、出来る限り維持する事だったんだ。実際に第一回目のMD終了時点でのKYUMのライフポイントは3だった。そして、君は第二回目のMDが始まる前に俺達の目の前で堂々と南野さんに直接、回答を訊いていたんだ」




「で一体いつ、どこで俺が南野さんに個人情報を訊いたって言うんだよ」




「第一回目のMDが終了し、俺が南野さんを呼び出ししファミレスで会った時だ。そして、その前に君はさりげなく、俺に南野さんを呼び出す様に促した。俺も南野さんに言いたい事があるから付いて行くと言った。それは、南野さんに言いたい事があったから付いて来たのではなく、南野さんからMDの質問に対する回答の情報を訊く機会が出来る為に付いて来たんだったんだ」




「で俺がその時一体、何を訊いたんだよ」




「あの時、君はバイトを理由に一回目のMDの際、俺の家に来なかった南野さんに怒りを露わにしていた。そして、君は「所で、南野さんバイトってそんなにお金が必要なんですか?」、「だったら、自分がMDに参加して、一億円を手に入れれば良いじゃないですか?」、「南野さんって物欲ってないんですか」、「海外旅行行ってみたいとか、家とか車が欲しいとかないんですね」とさりげなくMDの質問二十三、「もし、一億円が手に入ったらその使い道は?」、質問十六、「行った事のある外国数は?」の南野さんの回答を手に入れようとしたんだ。そして、南野さんはそれに答えてしまった。その時、まさか主催者Xが用意した自分を殺す人物だとは露知らずに」




「でも、南野さんが第二回目のMDで最初の方に嘘を付くとは限らないじゃないか?それだったら全てが台無しになるじゃないか」




「南野さんは陰の共犯者から第二回目のMDではなるべく最初の方に嘘を消化した方が良いと言われていたんだ。何故なら、そうしなければ、プレイヤーの入れ替えがあった事が他のプレイヤーに解りやすくなるからだ。後の方が個人情報の質問が出やすいから、なるべく早く嘘を消化した方が良いからな。そして、実際にライフポイントを減らしたのは君と組んでいたLEOだった。そして、LEOの正体はその時まだMDに参加していなかった君は陰の共犯者から直接、LEOの正体を聞けるんだ。この情報はそもそも事前に回答した内容ではなく、主催者Xが指名した人物の情報だから、教えても問題はない。そして、君はLEOに個別に連絡を取り、KYUM潰しに掛かったんだ」




「しかし、最後、南野さんは自滅で敗北したじゃないか。俺が南野さんを洗脳し、ダウト宣言させたとでも言うのか?それともその最後の手も、俺が仕組んだ事なのか?」




「ああ、君は、いや、主催者X側は南野さんを洗脳し、最後、SAOに対しダウト宣言をさせたんだ。そして、それは別の方法で君は南野さんの唯一あった残りのライフポイント1を奪い取ったんだ」




「何なんだ?その方法とは?」




「まずその為には、事前に遠野さんが南野さんにある魔法の言葉を掛ける必要があったんだ」




「何なんだ、その魔法の言葉とは?」




「第二回目のMDが始まる前に一言、こう言うんだ。「もし貴方がMDで敗北のピンチになった時、職業や年収の質問で私が明らかな嘘を付きますから、それに対しダウト宣言して下さい」と。つまり、南野さんの残りのライフポイント1で2に増やしたい時、MDの敗北のピンチであるから、その時に君が本当の事を書けば、南野さんのライフポイントを確実に0に出来るんだ。君の職業は高校生だ。そして、遠野さんの職業はツインホテルの時はフリーライターだったが、本当は殺人代行者だ。よって、この時、嘘を付かなければならないという事を南野さんは解っていたんだ。だから、ここぞというばかりに、君の「高校生」という回答に対し、ダウト宣言をしたんだ。それは南野さんの中ではSAOは嘘を付いている事は決定だからな。つまり、職業や年収といったSAOが嘘を付かなければならない尚且つ、南野さんと君が共通していない回答尚且つ、君が本当の事を書ける質問の回答を君は南野さんを死に送る道具に使ったんだ。そういった質問はプレイヤー全員の認識が、他の質問をして他のプレイヤーの情報を手に入れられる可能性があるから、後の方に選ぶという流れだった。よって、主催者側と君はその時まだそういった質問が残っていると考えたんだ。そして、君が職業の質問をして、本当の回答を出し、南野さんが君にダウト宣言をし、それが失敗に終わり、ライフポイントが0になるというシナリオ通りの結果になったんだ。しかし、君はこの高校生という回答で俺にフクマデンの正体の大きなヒントを与える事になってしまった」




「しかし、もし俺にダウト宣言する前に他のプレイヤーが俺に対しダウト宣言したり、俺がその質問をするタイミングの前に俺の質問の順番が来てしまったり、第一回目や第二回目のMDで俺が質問を選ぶ前にその質問を他のプレイヤーがその手の質問を選んでしてしまったら、どうするつもりなんだ?」


「いや、南野さんは真っ先に君に対し、ダウト宣言する筈だ。何故なら、もう後がない状態で確実にライフポイントを増やせるのをみすみす逃す筈がないという心理が働いて、一目散に君に対してダウト宣言するからだ。実際にプレイヤーの回答が全員出た直後に、南野さんはダウト宣言をした。そして、もし第一回目や第二回目のMDで俺が質問を選ぶ前に職業や年収といった質問を他のプレイヤーが選んでしてしまったら、君はファミレスの時、南野さんから三つの情報を訊けば良い。君がファミレスで南野さんから質問の回答内容を訊いたのは第一回目のMD後だった。だから、第一回目のMDでの質問の動向を見て、訊く回数を自由に調整出来るんだ。この最後に言った南野さんのライフポイントを0にする方法はあくまで、君がフクマデンだと気付かれにくくする為の二重策に過ぎない。もし、何らかの事情で駄目なら、その手を使わなければ良いだけの話だからな。そして、君が職業や年収の質問をするタイミングの前に質問の順番が来てしまったり、第一回目や第二回目のMDで俺が質問を選ぶ前にその質問を他のプレイヤーがそれらの質問を選んでしてしまったらという話だが、一番手っとり早いのは主催者Xと協力して、質問の順番を君がそうなりたいように細工する事だ。しかし、それはMDの規約に違反するから、主催者Xの方でクジ引きの順番は都合が良い様に調節出来ない。しかし、そんな事しなくても君は自然に君に取って都合が良く、MDを進められる事が出来たんだ」




「はぁ、何でだ?」




「何故ならば、第二回目のMDでの参加プレイヤーはREDPALがいなくなり、七人だったからだ。つまり、第二回目のMDが始まる時点では残りの質問十八個の内、全体で七つ選ばれるという事になる。それを考えると、君の相棒のLEOは第二回目のMDが始まる時点でライフポイントが3だった南野さんに対して、最低二回の質問機会で君の質問が回って来る前に南野さんのライフポイントを1にする作業をしなければならない。つまり、君が質問の順番が三番目以降になりさえすれば、何時でも南野さんのライフポイントを0にする事が出来るという事だ。そして、例え君の質問をする順番が一番目、二番目になったつまり、南野さんのライフポイントを1にする前に順番が来てしまっても、事前にそういう事態になったら遠野さんが南野さんに「貴方が年収や職業の質問をして下さい」と言えば、南野さんがその質問を自らしてくれるから、そういう事態になっても、その時には南野さんのライフポイントが1になった時点であるから、君は南野さんのライフポイントを0に出来るんだ。そして、君がその質問を選ぶ前に誰かが選んでしまっても、第二回目のMDで質問が三番目の以降ならば、君が南野さんのライフポイントを0にする事が出来る。何故なら、その時には既に南野さんのライフポイントは1だから、別に誰がその質問を選んでも良いからな。そして、さっきも言ったがプレイヤー全員の認識が年収や職業といった質問はその前に色々出た質問の正誤の情報から後で予想しやすいから、後の方に回すという事だったから、第一回目のMDの質問で選ばれにくい。実際に選ばれなかったしな。一番目と二番目の質問で職業と年収がセットで選ばれる確率は14C5/16C7=2002/11440つまり、17.5%でしか選ばれない。これは相当低い確率だ。しかも、その場合は君が一番目と二番目の質問者になった場合は含まれない。その中でさらにその二つの質問の内、君の順番が回って来る前にそれがなくなるとは考えにくい。そして、南野さんと君が一番目と二番目の質問者になる確率は2!×5!/7!つまり2×1×5×4×3×2×1/7×6×5×4×3×2×1=1/21=4・76%という事になり、さらに低い確率になる。つまり、君が第二回目のMDで南野さんのライフポイントを0に出来ないのは君と南野さんが質問する順番が一番目と二番目になり、尚且つ、十四個の質問で残り五つのチャンスで誰も職業と年収の質問を選ばなかった場合だけだ。前者の確率はさっきも言った通り4.76%。後者の確率は12C5/14C5=36/91=39.56%=39.56%。つまり、君が二回目のMDで南野さんのライフポイントを0に出来ない確率は4.76%×39・56%=1・88%という事になる。それでも、運悪くその確率に当たってしまったら、第三回目のMDで南野さんを負かせば良いだけの話だ。そうすれば、確実に南野さんの残りのライフポイントを0に出来る。何故なら、その時にはプレイヤーの参加者が7人のままであろうから、第三回目のMDで最後まで選ばれない質問は二つとなり、君と南野さんは絶対に一つの質問が出来るから、残り物の二つの質問を職業と年収にならない様に出来るんだ。つまり、君は確実にMDで南野さんを敗北させる事が出来るんだ」




「・・・・・でも、SAOがもし南野さんを負かす前に敗北してしまったら、例えば、第一回目のSAOで敗北してしまったらどうするつもりだったんだ?」




「その可能性は低い。何故なら、君と違い他のプレイヤー達の目的はあくまで優勝する事であって、他のプレイヤーを殺害する事ではない。その優勝する為にライフポイントを増やす手段として、他のプレイヤーのライフポイントを奪うんだ。他のプレイヤーにとっては敗北のピンチにいるプレイヤーからライフポイントを奪うという行為は相当精神的に辛い事で、一生のトラウマになる可能性があり、普通あまりやりたくない事だ。何故なら、幾らゲームのルールに則っていると言っても、自分の意思で他人を殺害するという事になるからな。そして、自分がライフポイント1の時につまり自分が死の淵に立たされている時にダウト宣言する勇気は相当なもので、大きな自信がなければ出来ない事だ。それならば、いっそ優勝を諦めて、生き延びるという選択肢をした方が賢明だともとれる。だから、MDで敗北者が出るというのは本来、非常に低い確率で成り立っている。つまり、南野さんが君に敗北させられる前に、第一回目のMDで敗北するというのは余程の事がない限りないと言っても良いという事になる。そして、第二回目のMDの敗北直後、南野さんはまさか、仲間である筈のSAOに負かされるなんて思いもよらなかっただろう。しかし、これも主催者Xが自分には伝えていない何かの作戦やトラブルだと思ってあの時、冷静だったんだ」










「しかし、どうやって南野さんと俺はそれぞれ、則島と南野さんの住所を特定出来たんだ?」




「この方法については俺も凄く悩んだ。しかし、君のある行為を思い出してそれが可能だと解ったんだ」




「一体、俺のどの行為がそれを可能にしたんだい?」




「それは第二回目が始まる前に俺達と南野さんがファミレスに会った時の君の南野さんの財布の中身を確認した行為だ」




「財布の中身?」




「ああ、君はあの時、財布のお金を見ていたのではなく、免許証等、住所が特定出来るものを実は見ていたんだ。つまり、あのMDの為に南野さんは裕福だという事を訊き出し、君は「財布の中身を見せて下さい」という一見、滅茶苦茶な要望で南野さんの現住所を知る事が出来たんだ」




「そっか、その手があったか」




「また、南野さんの方は簡単だ。竹飛が同窓会の打ち合わせの時に「今、お前何処に住んでいるの?」と訊き、それを後で竹飛が南野さんに教えれば良い事だからな。MDの「現住所?」の質問は全員、嘘を付く可能性が高い。いや、限りなく高い可能性で質問自体が出ないかもしれない。実際に出なかったしな。だから、MDでは住所を知られない事を想定し、それを実行したんだ。そして、この際言うが、南野さんは陰の共犯者の予定では君に殺害されるつもりだったから、俺が南野さんを疑っている事を悟られぬように君は、南野さんに会う際に君も付いて来て、俺が南野さんを疑っている類の話が出るたび露骨に話題を変えていたんだ。亜理紗がファミレスで南野さんに「貴方はフクマデンですか?」と訊こうとした時も君はそれを制止した」




「だけど、そもそも何故、南野さんはMDに敗北してはならないと思ったんだ?自分と主催者側は仲間だと南野さんは思っていただろうから、それに対し普通は疑問を感じる筈じゃないか」




「それは適当に、「他のプレイヤーに一億円あげる」のが嫌だとか、敗北すると「本当に殺害しなければならないから絶対に負けないで下さい」とでも言ったのだろう。そうすれば、南野さんも納得するだろうし、話す内容も南野さんの死体の代役まで話さなければ良い話だからな」




「・・・・・まぁ、そうなるな」




御神君が圧倒的に押している。




「そして、次がお待ちかねのその死亡推定時刻にアリバイがあった南野さんがどうやって則島を殺害した方法だが、それは実に単純明快なものだったんだ。今からそのトリックを明かそうと思う」




「別に待っていないけどな。しかし、今自分でも言ったけど、則島が殺害された時刻には南野さんにはアリバイがあったじゃないか」




「いいや、南野さんには則島の死亡推定時刻にはアリバイがあったが、死亡時刻にはアリバイがなかったんだ」




「どういう意味だ?」




「つまり、実は則島が殺害された時刻は七月十八日八時から九時頃ではなく、その前日の同窓会が行われた七月十七日二十一時から二十二時の間だったんだ。今、警察が則島が殺害されたと認識している時刻はあくまで死亡推定時間だからな。つまり、死亡推定時刻を十二時間誤魔化して、自分にアリバイがない時間帯に堂々と則島を殺害したんだ。だから、死亡推定時間にアリバイがあったかどうかは南野さんには則島を殺害出来る出来ないに関係の事だ。そして、南野さんは参加していない出身中学の同窓会が行われた時刻にはアリバイがなかったのだから、則島を殺害出来ても、何ら不思議でなないだろ」




「しかし、どうやって死亡推定時刻を十二時間誤魔化したのだ?」




「いいか、半藤。そもそも死亡推定時刻というものは、死後硬直の具合、死体の温度、腐食具合によって推定出来るものなんだ。そして、ここで重要なのは死体の温度だ。通常、人間の死体の温度は死亡直後から室温と同じ状態に推移し、室温状態では一時間で平均0.8度下がる。そして、実際の鑑識では死体を発見した際の体温を測り、さらに一時間後に同じ室温状態でもう一度体温を測り、人間の平均体温、36.5度と仮定し、その体温の降下速度は室温との温度差と比例するという前提で死亡推定時刻を割り出しているんだ。そして、室温が高ければ高い程、死体の降下速度は遅くなる。つまり、南野さんは則島を自宅で殺害したのではなく、殺害してから室温が高い場所に長時間放置し、死体を温めて、死亡推定時間を十二時間誤魔化し、バイトに行く直前に、則島の死体を則島の部屋に移動したんだ。つまり、則島は実際にはもっと前日の同窓会直後に殺害されていたんだ」




「則島の死体を温めた証拠はあるのか?」




「ああ、ある。則島の部屋から灰が見付った。この灰は恐らくは室温を上げる為に、木で焚いた炎を使い、則島の服に付着してしまった灰だったんだ。そして、その灰が則島の死体を則島の部屋に運ぶ際に落ちてしまったんだ」




「・・・・・しかし、そもそもずっと同窓会に参加していた則島をどうやって南野さんが極秘に殺害出来たんだ?だって、則島はずっと同窓会の行事には全て参加していたんだろ?それは一緒に参加していた同級生もそう証言していたじゃないか。もし仮に、同窓会の二次会が終了してから、つまり、二十三時頃に南野さんが則島を殺害出来たとしてもその時にはもう南野さんはバイトに出ていてアリバイがあったではないか。それはバイト先のレンタルビデオ店の店長が証言している。しかも、それはお前の口から訊き出した事だろ?」




「慌てるなよ、半藤。則島が南野さんに殺害されたのは紛れもなく七月十七日で二次会終りの二十三時ではなく、二次会中の二十一時から二十二時頃だ。そして、誰にも気付かれずに、南野さんが殺害出来る方法はあるんだ。その為には第三者が必要となってくる」




「第三者?もしかしてまた別の登場人物が出てくるのか?」




「いや、その登場人物は既に出ている」




「何だって、一体誰なんだ?」




「もう知っているくせにまだ惚ける演技をするのか?良いだろ、教えてやるよ。則島と共に中学校の同窓会に参加し、今回の同窓会を企画した竹飛敏彦だ」




「また、そいつか」




「だんだん、演技が大根役者みたいになってきたぞ。半藤」




「うるせーな」




「いいか、半藤。そもそも誰にも見られていない所で殺人事件が発生するという事は殺害する側と殺害される側とで双方でアリバイがない事が必要だ。つまり、南野さんが同窓会に参加していなくて、則島がその時間帯に同窓会に参加しているという事はその時間帯に南野さんにはアリバイがなく、則島にはアリバイがあるという事になり、一件誰にも見られていない所で殺人事件が起こるのは不可能に思える。しかし、そこに他の同窓会参加者に言った竹飛のある言葉という匙を加える事でそれを不可能から可能に変える事が出来たんだ」




「で竹飛は一体どういう魔法の言葉を言ったんだ?」




「その魔法の言葉を発表する為には、同窓会についての流れとその時の竹飛と南野さんの行動を一度説明する必要があるのだが良いか?」




「相変わらず回りくどいな」




「そもそも、同窓会を開いた最大の理由は則島が大勢の人間と一緒にいるという状況下で南野さんが則島を殺害する機会を作る為だったんだ。同窓会の一次会は某居酒屋で行われた。そして、宴もたけなわという事でそれが終了し、店を出た所で今回の同窓会の主催者である竹飛がこう言った。「二次会はカラオケ。参加する人は付いて来て下さい」と。そして、同窓会の主催者であった則島は、二次会に参加した。・・・・・」




「話が良く分からなくなってきたな」




「では、改めてこの時、竹飛と南野さんがした事を一から全て説明し直そう。まず、竹飛は中学の同窓会を企画した。この同窓会は、実は則島が大勢の人間と一緒にいるという状況下で南野さんが則島を殺害する為に企画された会だったんだ。そして、竹飛は同じ中学の参加者を大勢募った。その後、竹飛から連絡が来た則島とその則島と南野さんの中学時代の同級生であの同窓会の幹事であった竹飛が同窓会の前に一度打ち合わせという名目で個人的に則島と一度居酒屋で会った。この会はさっきも言った通り、決して同窓会の打ち合わせではなく、則島からMDに関する情報を訊き出す為に行われたものだ。つまり、この時点では南野さんが個人的にその竹飛と則島の現時点での個人情報を訊き出す事は同窓会を企画するという契約を結んで、その対価として金銭を渡したんだ。酒の席では気が緩みやすくなる。だから、その時、則島はMDの事を忘れ、則島は竹飛に洗いざらい訊かれた事を喋った筈だ。そして、まんまと則島からMDの質問内容に関する情報を訊いた竹飛は南野さんにそれを伝えた。そして、第一回目のMDが開催され、則島はMDで敗北した。その後、則島は殺害される恐怖を抱えながら十七日まで過ごしていた筈だから、なるべく大勢の人達と一緒にいたかった筈だ。そして、則島は大勢の人間と一緒に過ごすという安心を求め同窓会に参加した。しかし、南野さんは則島殺害の為、同窓会には参加しなかった。その後、一次会の居酒屋では久しぶりの再会を懐古し、話が弾みながら何事もなく終わった。いや、強いて言うのならば則島がそこにいた事を他の参加者達に印象付ける事がここでの仕事だったんだ。そして、話は二次会に移る」










「話が長くなりそうだな」




「ああ、そうだな。話を戻そう。まず、竹飛が二次会の参加者を募った。そして、少しでも大勢の人間と一緒にいたかった則島も二次会に参加した。木元さんの話によると二次会いは殆ど参加していたらしく三十人程だったらしい。ここで、竹飛がさりげなく、「則島二次会にも来るんだ」と言ったんだ。そして、二次会会場であるカラオケ店に全員が向かった。しかし、その道中、他の同窓会参加者の列から少し距離を取り、則島と二人っきりで談笑しながら歩いていた竹飛がこっそり、「用があるから一緒に来てくれ」と則島を路地裏に連れ出した。そこに待ち伏せしていた南野さんが、竹飛の左胸をナイフで刺し、殺害した。木元さんは何となく、竹飛がカラオケ店に向かう道中いなかった様な気がしたと言っていたが、参加者達は皆アルコールが入っているし、二次会の参加者は三十人と大人数だった事から二人抜け出した事に気付く事は容易ではない。そして、直ぐ様、竹飛が他の同級生達の列に戻り、参加者をカラオケ店へ誘導した。竹飛は四部屋のカラオケボックスを用意し、それぞれの部屋に参加者達を案内させた。竹飛の近くにさっきまで二人で話していた則島の姿が見えない事に気付いた参加者にもし「則島は?」と訊かれたら、ここで魔法の一言「則島は別の部屋にいる」と言ったんだ。その一言で竹飛以外の二次会の参加者達は則島はこの近くの空間にいると錯覚してしまうんだ。カラオケボックスという大勢の人数が収容出来ない空間を利用したトリックだ。そして、全員が帰る時にそこに則島の姿が見えない事に気付いた参加者がもしいて、再び竹飛に「則島は?」と尋ねてきたら、竹飛が「則島は何か用が出来たから先に帰った」と言って、実際は則島が二次会に参加していなくても、参加している様に仕立てたんだ。これはその場にいない者があたかもずっとそこにいた風に見せる錯覚トリックだ」




「・・・・・でも則島が「用事があるから一次会で帰るわ」と言い出したらどうするつもりだったんだ?」




「その場合は、その帰り道で南野さんが待ち伏せし、殺害すれば良い事だ。つまり、主催者Xが南野さんに用意した殺害方法は二重策だったんだ。第一、死亡推定時刻を誤魔化し、南野さんのアリバイを作る。第二、竹飛を手伝わせ、則島のアリバイを作る。これが最高であったが、それが出来なかったら場合、第一の策だけで済ますつもりだったんだ。しかし、もし則島が二次会に参加しないと言い出したら、竹飛が強引に則島を誘っていた筈だ。則島は同窓会の前に一度、竹飛と建前上打ち合わせをしている立場から二次会も参加しなくてはならない義務みたいなものもあった筈だし、則島の方もフクマデンに殺害される恐怖から、出来るだけ大勢の人間達と長く一緒にいた方が安全という心理が働き、参加した方が身の安全が確保出来る。実際、木元さんの話によれば、一次会の参加者ほぼ全員が二次会に参加した事から、現場は参加しない方が不自然な流れだったと思うから、一次会で帰る事はまずあり得ないだろう。そして、これは俺の推測だが、同窓会の主催者である竹飛は同窓会の日時を第一回目のMD終了後から第二回目のMD開始までの間で則島が用事のない日を選択し、同窓会の日時を決めたんじゃないかな。そうする事で則島は確実に二次会に参加させる様に仕組んだ。それに真夜中に用事がある人なんてそうそういないだろうしな」




「・・・・・なるほどね。しかし、実際にそれが行われたという証拠はあるのか?」




「ああ、ある。昨日、それを三堂と一緒に一生懸命探したんだ」




昨日の記憶が蘇った。




「君もいた七月十八日の夜にファミレスに南野さんと会った時、南野さんは銀色の腕時計を着けていなかった。そして、南野さんが死んだ後、南野さんの自宅で探したが腕時計は無かった。腕時計は例え、電池切れになったとしても修理に出せば三十分も掛からず電池交換出来るし、簡単に壊れる物ではないから、常に自宅か自分の腕にある筈のものだ。そして、それは三堂が川口の路地裏のビール瓶の箱から発見してくれたよ。南野さんの壊れた腕時計をね。直ぐに鑑識に回して貰ったら、腕時計には則島の指紋が付着していた。恐らく、則島を殺害する際に、揉み合って腕時計が外れてしまったんだろ。腕時計がビール瓶の箱の中に入ってしまったんだ。これが則島が川口の路地裏で殺害された証拠だ。一秒でも早くそこから立ち去ってバイトに向かいたい南野さんは腕時計を探すのを諦めて、則島の死体を人間が入る程の大きなトランクケースの中へ入れ、近くに止めてあった車の中へ乗せ移動したんだ。そして、そこから近くの恐らく主催者Xが用意した異常に暖かいある部屋に死体を放置した。その後、急いでバイト先のレンタルビデオ店に向かって、昼までバイトをし、アリバイを作った。川口から西日暮里までなら電車で十五分もあれば着く。そして、十八日のバイト終了後に放置してあった部屋に向かい、その部屋から則島の死体を運び出し、車へ乗せ、則島の自宅へ向かい、則島の服の中から則島の自宅の鍵を探し出し、部屋へ死体を放置したんだ。そして、その日の夜、俺にファミレスに呼び出されていた南野さんは、川口の則島殺害の現場で腕時計を探す余裕もなく、腕時計をしないまま俺達の目の前に現れたんだ」




「あの時、そんな状況だったのに南野さんは約束通り、ファミレスに来たんだ」




「ああ、そして次はいよいよ君が第二回目のMD終了後から三回目のMD開始までの期間に南野さんを殺害する方法の話だが、心の準備はもういいかい?」




「・・・・・ああ、俺はやっていないのだから、何故、心の準備をする必要があるんだ?それに南野さんは自殺したという事は確定だし、仮に殺害されていても俺には南野さんの死亡推定時刻の八時から九時にはお前達といたという鉄壁のアリバイがあるからな」




「いや、南野さんは自殺したのではなく君に殺害されたんだ。でも心の準備はいいのか。そうか、なら早速話すぞ。南野さんの死亡推定時刻である七月二十四日の八時から九時頃、俺達と行動し、アリバイがあった君が南野さんを殺害するのは一見不可能に思える。しかし、これも則島殺害の時、同様、死亡推定時刻を誤魔化す事で君はアリバイを手に入れ、アリバイがなかった日時に堂々と南野さんを殺害したんだ」




「どういったアリバイトリックで俺は南野さんを殺害出来たんだい?」




「それは主催者Xが新たに用意した巧妙な時間錯覚トリックだ」




「則島殺害に使った時とは違う手という事ね」




「そうだ。しかし、本質は同じだ。則島の死亡推定時刻を遅らせた様に君も南野さんを殺害した後、死亡推定時刻を遅らせる為に南野さんの死体を室温が高い場所に放置して、南野さんの自宅に運んだんだ。そして、その甲斐あって南野さんが殺害されたのは七月二十四日の七時から八時と警察は推定したが、実は実際に殺害されたのは七月二十四日の八時から九時ではなく、その前日の七月二十三日の夕方頃だったんだ。つまり、君は南野さんの死体を七月二十四日の早朝に南野さんの自宅に恐らく、遠野さんが運転する車に乗せて、運んだ」




「しかし、どういう手を使って俺は南野さんの死亡推定時間を誤魔化したんだ?」




「そもそも、何故俺達が南野さんの死亡した日が七月二十三日の八時から九時と決めつけてというと、警察が死体の発見が遅れ、死亡した時間が割りにくい状況にあったのも勿論ある。しかし、その日のその時間帯に俺が南野さんに出したメールの返信が直ぐにあったから、その後、南野さんは殺害されたと断定したんだ。死んでいる人間がメールを出せる筈ないからな。つまり、俺達は南野さんは七月二十三日の二十時頃の時点ではまだ生きていたと思い込んだ。しかし、その判断は実は間違いだった。メールの返信があった時、南野さんは既に君の手で殺害されていた」




「だったら、その時、誰がお前にメールの返信をしたんだ?」




「当然、君はあの時、俺達と一緒にいたからメールの返信は出来ない。だから、それをしたのは遠野さんか主催者Xだ。彼らのどちらか俺の問いに答えたんだ。つまり、その返信ボタンを押したのは南野さんではなく、遠野さん若しくは主催者Xだ。そうする事で今俺に対し、メールの返信をした人物が南野さんだと錯覚する事になる。しかしその時、南野さんは既に殺害されていた。俺に対して返信をした後、携帯電話を郵便受けの中から入れた。だから、携帯電話が玄関に転がっていたんだ」




「・・・・・」




「こちらから誰かに連絡したい時にはメールか電話の選択肢があるが、返信する場合は相手が使った連絡の手段と同じ手段を使って、返信する事は人間の惰性だ。だから、君はあの時、「メールで連絡を取れ」と俺にさりげなく催促したんだ。これはその時まだ南野さんが生きている事を俺自身の手で確認させたかった為だ。当然、相手からの返信は電話ではなくメールが来て、それに対して俺達は何も不思議に思わない。文字なら、誰が打ってもその打った相手は本人かどうかは判らない。つまり、声ではなく文字を利用する事により、俺達にその正体を気付かせないという工夫をしたんだ。そして、君は南野さんの死体を部屋に運び終え、南野さんの死亡推定日時である七月二十四日の八時からに俺達と行動を共にして、鉄壁のアリバイを作り、実際の殺人は俺の家に集まる直前の七月二十三日の夕方頃に行ったんだ」








「しかし、どうやって、南野さんの部屋の中から俺は姿を晦ましたのだ?南野さんが発見された部屋には鍵が掛かっていて、その鍵は南野さんの服の中から出てきたではないか。それに南野さんの合鍵も机の引き出しの中から出てきたし、窓も割れた形跡がなく、鍵は閉まっていたしな。この状況だったら、南野さんは自殺したで良いじゃないか」




「いや、それでは短絡的な考えに過ぎない。あの密室のトリックは実に単純明快なものだ。今からそれを説明するが、もし君がまだそれを実行したフクマデンではないと言い張るのならば、君がその部屋にいる事を仮定とし、想像力を働かせて聞いてくれ」




「そうだな。じゃ、たまには想像力を働かせて聞いてみるか」




「それじゃあ、話すぞ。まず、君は、南野さんは自殺した事にしたかった。それは部屋から見つかった遺書から、則島、島内の二人を殺害した償いと就職活動が上手くいかずにという事を動機に自殺した事にしたかったんだ。つまり、君は遠野さんと共に南野さんの首を絞めて殺害し、南野さんの死体を室温が高い部屋に移動させ、放置し、翌日の早朝、遠野さんと共に南野さんの自宅に死体を運んだんだ。そして、南野さんの死体を天井に釣り下がっている物干し竿首吊り状態にし、部屋を密室にする事で、南野さんが自殺した事に見せかけたんだ。そして、その為に使ったトリックを今から図を使って説明しよう」




そう言い放つと御神君は鞄からペンと白い紙を二枚取り出し、机の上に二枚共置き、ペンを右手に持った。




「君は七月二十三日の夕方頃に恐らく遠野さんと共に南野さんの自宅まで行き、君達はどちら開きドアに隠れ、もう一人がチャイムを鳴らした。そして、ドアの覗き穴から見た君達どちらかが南野さんと対応し、南野さんを廊下に出させ、背後を向かせ、隠れていたもう一人背後から手に持っていたロープを南野さんの首に巻き、二人で力一杯締め付けて、抵抗する南野さんを殺害した。恐らく、南野さんが油断しやすい様に、チャイムを鳴らして対応したのが遠野さんで、ドアに隠れて南野さんの首をロープに巻いたのが君だ。君が対応したら、南野さんも不審がり、部屋から出てこないかもしれないしな。そして、その後、南野さんの携帯電話を奪い、南野さんの死体を車に乗せ、室温が高い部屋に運び、暫く放置した。そして、二十一時から俺達と一緒にいる事でアリバイを作り、俺に南野さんにメールをするよう指示し、その返信を恐らく携帯電話を奪った遠野さんがして、もう既に死んでいる南野さんがその時まだ生きていると俺達に思わせた。そして、翌日、七月二十四日の早朝に南野さんの死体を温めていた部屋から出して車に乗せ、南野さんの自宅に向かい、死体を車から運んで部屋に入れ、パソコンで作成した遺書を机の上に置き、ある密室トリックを仕掛ける事を開始したんだ」




「・・・・・」




「そして、それには南野さんの部屋の構造、位置がそのトリックを使用する上で都合良かった・・・・・・いや、そのトリックを実行する為の必要条件だったんだ」




「一体、それはどんな条件なんなんだ?」




「まずは、玄関から部屋までが一直線に繋がっている事。次に最後に部屋の玄関に郵便受けがある事。そして、その郵便受けの穴が大きく、部屋側に突起物がない事だ。そして、君が用意しなければならない物がある。それは高さだ」




「高さ?」




「そうだ。今からトリックの流れを図で説明し、その際にその高さが必要な理由を話すから、聞き洩らさないようにしてくれ。まず、南野さんが着ていた服が部屋の鍵が入る程の穴かポケットがある服ではなければならない。もし、穴のない服を着ていたのならば、南野さんに持ち合わせていた服の中で穴かポケットのある服に着替えさせる。実際、殺害された時南野さんが着ていた服は首元に大きな穴があったカットソーだ。もし、カットソーを持っていなかったら、胸にポケットがあったYシャツでも構わない。南野さんの就職活動中だったから、Yシャツの一枚や二枚持っていた筈だ。しかし、Yシャツではなく、カットソーが選ばれた理由はより穴が大きかったからだ。まず、物差し竿にロープを結び、南野さんの死体を台の上に立たせる。そして、そのロープを南野さんの首に括りつけて、台を自ら苦しみながら倒した様に倒し、自殺に見せかける。次に、摩擦係数を少なくする為に、油を塗った糸を用意し、その糸の端を南野さんの首当たりにガムテープで貼り、その糸のもう一方の端を予め、郵便受けを通し、Uの字になる様に糸を部屋の外まで持ってくる。次に、郵便受けの入り口を開き、ガムテープで開いたまま固定し、君が外に出て、部屋を施錠し、用意した高さのある脚立等に乗り、そこから鍵の輪を糸に通し、糸をつたって部屋に流す。そして、鍵が南野さんの首に貼ってある終端の糸まで行ったら、今自分が持っている始端の糸を引っ張る。すると、部屋の中の鍵はガムテープが剥がれ、重力によって南野さんが着ていたカットソーの穴に落ちる。そして最後に、糸を手繰り寄せ、郵便受けを通して、糸と二枚のガムテープを回収する」




御神君はそう解説しながら、紙に絵を描いた。




「これは力学的エネルギーと位置エネルギーが保存するという物理現象を利用した物理的トリックだ。具体的に言うと部屋の外の地面を原点にすると、そこから南野さんの首の高さまでは1.9m程だった。身長170cmの君が腕を上に伸ばした時の最大高さは2・1m、そして、例えば、2m以上の高さのある脚立の上に乗ると、鍵が持つ位置エネルギーはU=mghより、2倍以上になる。例え、摩擦等でエネルギーが失われても、十分に南野さんの首の高さまで達する事が出来る計算となる。これは首を吊っている南野さんよりも高い位置にいる筈もないという、盲点を利用したトリックでもあるな。・・・・・これは南野さんの部屋で発見された糸の切れ端だ」




御神君が掌を開く。




半藤君が眉間に皺が寄る。








「そして、最後の仕上げとして、南野さんの携帯電話を郵便受けの中から入れた。その後、何気ない顔をして、俺達と行動を共にしたんだ」




半藤君は黙ったままだ。




「また、その前日の夜に遠野さんが全くMDとは関係のない島内のアパートに行き、首を絞め殺害した」




半藤君は依然黙り込んでいる。




「主催者Xが南野さんの依頼を受けるに南野さんに提示した条件は恐らく、一、俺をDAIとしてMDに参加させる事、二、第一回目のMDでSAOをやる事、三、第一回目のMDで生年月日の質問をSAOがし、正を書く事、四、第二回目のMDでKYUMをやる事、五、第二回目のMDで島内を演じる事の五つだったろう。南野さんに第一回目のMDで生年月日の質問をし、正を書く事を指示したのは、君をSAOの候補から外したかったからだろう。南野さんは自分の生年月日を明らかにするが、南野さんは主催者Xの指示に仕方なく従ったのだろう」




まだ、喋らない。




これはもう自分の犯した罪を認めたという事なのか?




「そして、次からはそれぞれの事象に対する証拠の話に移りたいのだが良いかい?」




「・・・・・ああ、いいぜ。いや、そうしないと俺がフクマデンという事にはならないからな。じゃあ、まずは俺が第二回目と第三回目のSAOだった、その証拠から頼むわ」




「ああ、分かった。つまり、君がMDに参加していた事を証明すれば良いんだな?SAOのIDを使用した関係なくまず、君は俺達に何かと都合が悪いと言って第二回目のMDと第三回目のMDの時、俺の家には来なかった。それは当然、MDに参加する為だったから、来られる筈がない。勿論、それだけではMDに参加していたという証拠にはならない。しかし、それは今、君がSAOだという事は証明出来る。何故なら俺が今からDAIの名を使って、SAOに呼び掛けてみるからだ。そして、返信がなければSAOは君と言う事になる。何故なら、今君は俺達を目の前にして書き込みが出来ない状況にある。そして、俺は第三回目のMD終了後、他のプレイヤー達に「皆さん、ゲームも全て終わった事ですし、少し、皆さん全員で話しませんか?」と書き込んだ。そして、皆それを了承し、さっきまで全員がそれに参加していたが、SAOとDAIだけが今参加していない。俺がフクマデンの正体をまだ証すのを焦らしてSAOが途中で雑談を抜けるのは可笑しい。今雑談に戻ろう」




御神君が手に持っていたタブレットPCに書き込んだ。






DAI    SAOさん、今何でも良いので書き込んで下さい。






ANEX   やっとDAIの書き込みか。






MUE    という事はやっぱりSAOがフクマデンだったという事ね。






JIM    しかし、本名の質問の時、SAOは嘘を書き込んだからな。実名は判らずしまいか。






LEO    DAIさん、SAOさんの実名が判っているなら、教えて下さい。






「五分経ったな」




「・・・・・次に南野さんが第二回目のKYUMだった証拠を教えてくれ」




「それはつまり、南野さんがMDに参加していた事を証明すれば良い事だな。それは簡単な事だ。南野さん自らそれを白状したからだ」




「はぁ?何時、南野さんはそんな事言ったんだ?」




「いや、直接言った訳ではない。只、MDの雑談の時、そう自分で白状したんだ。つまり、第二回目のKYUMだった根拠があの雑談の中にあったら、南野さんが第二回目のKYUMだったという事になる。第二回目のMDでKYUMは敗北した。つまり、KYUMは第二回目のMDから第三回目のMDの間に死体となって発見された島内か南野さんに自ずと限られて来る。しかし、島内は今回のMDには全く関与していない。KYUMは南野さんだ。何故なら、南野さんしか知りえない事が第二回目のMD開始前の雑談の時に書き込まれていた。




「KYUM    死んだ則島の初恋相手の前川恵美も今頃、驚いていますね。」




 REDPALとして参加していた則島は第一回目のMDで確かに初恋の質問は出たが、その則島の回答は前川恵美でそれは誤だった。だから当然、俺達は則島の初恋相手の名前は知らないままだった。しかし、KYUMはそれでもそう書き込んだ。では、一体何故か?それは前川恵美という人物は南野さん達の中学の同級生で本当に実在していたからだ。そして、この事実は中学の時同級生だった木元さんに訊き、前川恵美という人物は実在していて、則島が中学時代に付き合っていた女性だったが、初恋相手は小学校の時で別の女性だったらしい。木元さんは則島と同じ小学校で、良く知っていたらしけど、南野さんは則島と同じ小学校ではなく、前川恵美が則島の初恋相手だと勘違いしてしまったらしい。この情報は勿論、淡いプライベートの事だから報道等では流れていなく、南野さん達と同じ中学の人達しか知りえない事だ。よって、第二回目のKYUMは南野さんという事になり、それを間違えて書いてしまったんだ」




「じゃあ、殺害された島内がMDに参加していなかった証拠は何だ?」




「その証拠は必要ない。MDで敗北した島内がMDに参加していたとしたら、IDがKYUMの場合しかあり得ないからだ。第二回目のKYUMが南野さんだという事が証明されたから、必然的に島内はMDに参加していなかったという事になる」




半藤君の歯切れが悪い。




「・・・・・次に南野さんが則島を殺害したフクマデンである決定的な証拠は何だ?」




「その証拠も必要ない。何故なら遺書で南野さんが則島殺害を自供しているからな。つまり、どの様に解釈しても南野さんが則島を殺害したという事は変わらない。それでも証拠が欲しいと言うのならば南野さんの壊れた腕時計を調べれば、則島の指紋やDNA等の証拠は出てくる筈だ」




「・・・・・では、最後に俺が南野さんを殺害したフクマデンだという決定的証拠はあるのか?」




「・・・・・ああ、ある。実は南南野さんの死体発見現場である南野さんの部屋に行った際に、床にあった髪の毛を一本拾い、宇崎警部にDNA鑑定を依頼した。そして、俺の部屋で君の髪の毛だと思われる髪の毛も一本拾い、宇崎警部にDNA鑑定を依頼した。そして、その結果、二つの髪の毛のDNAが一致したと宇崎警部から連絡が来た。つまり、君は最近、南野さんの部屋に入った事があるという事だ」




「・・・・・しかし」




「君の好きなスポーツは野球で嫌いなスポーツはサッカーなんだろ?」




「・・・・・ああ、そうだが」




「・・・・・さっきまでやっていた第三回目のMDで俺が出した質問十一、「十一、好きなスポーツと嫌いなスポーツは?」でのSAOの回答は「好きなスポーツは野球で、嫌いなスポーツはサッカー」だった。そして、その質問の回答は正だった」




「・・・・・」




「いよいよ、君と暫くのお別れしなければならない時間がやって来そうだ。何故なら、後は君と南野さんの殺害動機を喋れば、全ての俺の推理が終わる事になるからだ」




「そうか。残念だな。じゃぁ、最後に南野さんの則島殺害動機と俺の南野さん殺害動機を訊かせて貰おうか?」




「ああ、分かった。・・・・・南野さんの方は恐らく、則島に対しての復讐だ。南野さんと則島と同級生だった木元さんの話によると、中学時代、則島は南野さんに対して、いじめをしていたらしい。だから恐らく、その過去の事をずっと引きずっていて、その恨みの復讐として、今回のMDを利用して殺害したんだ」




「そんな事で南野さんは殺人者になったのか?」




「南野さんにとってはそんな事ではない。何故なら、南野さんは則島の中学時代のいじめによって、コミュニケーション障害を招いてしまったんだ。南野さんと接していて、そういう場面が幾らかあったのは君も気付いていただろう。そして、それは就職活動に影響しているものと悩んでいたんだ。一度、その障害に陥ってしまったら、なかなかそれを治すのは容易ではない事だ。今自分が立たされていた就職活動が上手く行かない事をその中学時代のトラウマのせいにしてしまった。だから、自分をこんな目に遭わせた則島に対し、何年かして殺意が芽生えてしまった。そして、第一回目のMDでそれを決心するのに決定的な出来事が起こってしまったんだ」




「何があったんだっけ?」




「それはREDPALのつまり則島の「過去の罪は?」の質問で「特になし」と回答して回答が正だった事だ。つまり則島が中学にした自分への罪を覚えていなく、堪忍袋の緒が切れてしまったのだろう。そして、殺害を決心したんだ」




「ふっ、そういえばそうだったな」




「そして、君の方は・・・・・亜理紗の為だな」




「えっ、・・・・・大谷さんの為・・・・・」




「亜理紗の為?何だそりゃ」




「具体的に言うと、亜理紗のストーカー行為を防ぐ為だな」




「・・・・・」




「南野さんはファミレスで俺達と初めて会う前から亜理紗に対してストーカー行為があったんだ。あの時、何か嫌な視線を感じた。いや、その前の亜理紗との登校中にもそれと同じ視線を感じた。それも恐らく南野さんだ。一連の流れとしては恐らくこうだ。南野さんは主催者Xから則島、島内殺害計画を話す際に、例えば「事前に大谷亜理沙のストーカーをして来て下さい。貴方にはまだ言えないが半藤を脅す事も則島殺害計画の一部に入っている」等と言われていたのだろう。そして、南野さんは実際にストーカー行為を実行した。しかし、調子に乗って、いや本当に亜理紗に好意を寄せて、ストーカー行為がエスカレートしてしまったんだ」




「ほっ、本当にそんな事が起こりえるの?」




「ああ、三堂。人間は無意識の内に潜在的な欲を表面化してしまう生き物だ。しかも、南野さんは中学時代からいじめられ、他人より一層その欲を溜め込んでいたのだろう」




「そっ、そんな」




「南野さんは今は削除されているがネットで見付けた陰の共犯者が作った復讐サイトで、主催者Xに則島殺害を依頼した。その則島殺害と俺への挑戦の二つの目的を包括する計画として、俺の身近にいる人間、つまり君と亜理紗を巻き込んだ計画を考え付いたんだ。君と亜理紗が選ばれた理由は、君の性格とその君と最も親しい人間が亜理紗だったからだ。つまり、主催者Xは半藤貴新の率直で正義感の強い性格を考えると、親しい亜理紗の為なら必ず、南野さんに対して殺意が芽生える筈と考えたんだ。そして、南野さんのストーカー行為がエスカレートしたのを見届けると、主催者Xから君に接触した。主催者Xと君と初めて接触した時の会話は恐らくこんな感じだろう。「私はMDというゲームの主催者の者だ。そして、私の職業は犯罪計画を立てて、提供する殺人代行者だ。そして実は、君も経験したあのツインホテルの事件を計画した張本人だ。何故、君を訪ねて来たというと君も気付いているだろう、大谷亜理紗のストーカーをしている男について知っているからだ。その男の名は南野浩平だ。そして、南野は私の元へある男の殺害依頼をして来て、私はそれを承諾した。しかし、私は計画を考えるだけで、実行に移すのは南野だ。私は依頼者の罪を告発する事は契約上出来ない。そこで、君が代わりに南野を裁いて欲しい。君の本心も実はそれを望んでいる筈だ。計画を立てるのは私の役目だ。君はそれを実行すれば良い。君は人殺しの殺人鬼とストーカー野郎をほっとけるのか?いや、ほっとけない筈だ。何故なら、君は正義感の塊の人間だからだ。好意がある大谷亜理沙を自分の手で守ってくれ。報酬は勿論いらない」恐らく、この様なやり取りだったのではないか?勿論、主催者Xは亜理沙のストーカー行為を最初に南野さんに催促したのは自分だという事は伏せてな。そして、君は悩んだ挙句、主催者Xの案に最終的に乗った。しかし、君は迷った。幾ら、亜理紗の為だからと言って他人を殺害しても良いのか?しかし、君は殺人者になる事を決心した。その君がそれを決心した時とはあの南野さんと最初にあったファミレスだった。もう南野さんが直接、亜理紗と接触する段階まで来てしまった。こうなったら、実行するしかない。そして、南野さんが亜理紗への接触が終わった事を確認すると、主催者Xから君へ連絡を取り、第二回目のMDが始まる前までに君が陰の共犯者に南野の殺人計画を依頼したんだ。そして、君は、まんまと陰の共犯者に利用されたんだ」




「・・・・・」








「三堂、ここまでの話を聞いて君は俺と半藤どっちを信じる?」




「・・・・・ぼっ、僕は・・・・・」




「・・・・・分かったよ。認めるよ。俺が南野さんを殺害したフクマデンだ」


 


半藤君が僕の表情を見て、そう言葉を震わせながら答えた。




「亜理紗をここに呼ばなかったのは有難うな。いたら今から、長いお説教が始まりそうだ」




「そうだな。・・・・・半藤、陳腐だが出来る事ならば自首する事をお勧めする」




「しかし、御神、何時から俺が怪しいと睨んでいたんだ?」




「・・・・・あの第二回目のMDに俺の家に来なかった時点だ。俺以外にDAIの正体が御神蓮司だと知っているのは君、三堂、亜理沙、妙子、南野さん、遠野さん、主催者Xだ。そして、主催者Xがフクマデンを当てる事を目的とするのならば、俺がフクマデンだと当てられると人物はその中にいるとおのずと限られてくる。まず、遠野さんと陰の共犯者はないと思った。何故なら、俺が推理する意味すらないからな。陰の共犯者はあくまで論理的に俺にフクマデンの正体を当てて欲しい筈だった。そうすると、フクマデンの候補は五人となるが、この中で一番怪しいのは第二回目のMDに俺の家に来なかった君という事になる」




「全く、お前には敵わないな」




「亜理紗には落ち着いたら、この事を言おうと思うのだが」




「そうだな。そうしてくれ」




「今覚えば、あの復讐Rという陰の共犯者のサイトも俺が君達にそれを話した途端、削除されていた。そして、その理由は俺がそれに気付き、君がそれを俺からの報告を受け、主催者Xの南野さんがどうやって陰の共犯者に依頼出来たのかを俺に納得させる為という目的が済んだら、削除するという事を君は陰の共犯者から受けていたからだ。・・・・・関係のない君に殺害動機を作らせて、俺を試す為だけにこんな事をしでかした主催者Xは本当に冷酷非道な奴だ」




「だけど、俺は陰の共犯者に利用されたとは思っていない。亜理紗は本当にずっとストーカーされていたんだ。俺、亜理紗の家と近所だから、南野が夜家の周りをうろついていた事にずっと前から気付いていたんだ。亜理紗を助ける為なら、俺は殺人鬼にもなる」




「しかし、本当にそれだけの理由でお前は殺人鬼になったのか?」




「それだけではない。亜理紗のストーカーだけではなく、南野の野郎は亜理紗への性的暴行まで計画していたのさ」




「思い当たる節があったのか?」




「ああ、こんなものが南野の部屋から見つかった」




そう言って、半藤君は御神君に向かって紙を投げた。




御神君が拾い、読み始めた。僕も覗き見をした。そこには大谷さんの性的暴行の計画が書かれていた。




「・・・・・警察には南野さんの事を話したのか?」




「ああ、けど警察に話しても無駄だった。結局、日本の警察は事後処理で証拠や予告がなければ何もしてくれないのさ」




何とも不条理だ。




「・・・・・半藤、これから一緒に主催者Xを死刑台に送らせないか?もしその気があるのならば、奴の正体を教えてくれないか?」




「・・・・・俺も直接、素顔を見たのではないんだ。カラスのマークが入った艶やかな銀色のバッチを左胸に付け、全身黒スーツに身を包み、顔をサングラスとマスクで覆っている男だ。そして、コードネームは・・・・・」




バリン!




突然、ガラスの窓が割れた。




銃が発泡され、半藤君の胸に命中した。




僕はその場にしゃがみ込んだ。




「はっ、半藤!」




御神君は胸から血を流しながら倒れている半藤君を抱き寄せた。




「コッ・・・・・ード・・・・・ネ・・・・・ームは・・・・・レ・・・・・ン・・・・・ト・・・・・だ。みっ、・・・・・みか・・・・・み・・・・・短いあい・・・・・だ・・・・・だったが・・・・・お前と出会・・・・・えて・・・・・たっ・・・・・のしかった・・・・・ぜ・・・・・・」




「はっ、半藤!!!!!」




御神君がそう叫ぶと半籐君は息絶えた。




自然と涙が出た。




あまりの衝撃に立ち尽くしながら。




・・・・・ふと床に落ちていたタブレットPCを見てみた。




そこにはこう記されていた。






主催者X       ここで今まで伏せて来た ルールについて発表する。


追加ルール・・・・・ もし、第三回目のMD終了時点で、MDに参加していたプレイヤーによってフクマデンの本名を明らかにされたら、フクマデンは主催者Xの指定した者によって殺害される。






全くもって不憫だ。




後出しじゃんけんとはこの事を言う。




今、レントに対し憎悪感で満ちている。




「・・・・・必ずレントを探し出す」




則島さんと南野さんの関係が昔の半藤君と僕の関係と重なったような気がした。




御神君と出会わなかったら僕が南野さんの立場になっていただろうか?




でも、今は言葉に出ないが、半藤君の無念を晴らしたい気持ちで一杯だ。




「人間なんて何か歯車が少しでも狂えば、軋轢の関係になる可能性を常に秘めている。それほど、信頼という言葉は慎重に使うべきだ。しかし、それが信頼という定義そのものならばそれに代わる何か別の言葉を作った方が良い。人間というのは何時だって、誰でも、何かしらの個性的な欲や大きな野心を抱き、それは自分の為や他者の為に正義や道徳を失っても、自分自身が等価交換で満足するのならば、それを手に入れれば良い。何故なら、正義も道徳も全て欲なのだから。・・・・・半藤は人殺しという非人徳な手で、亜理紗の人権を自らの手を汚して守ろうとした。しかし、それは俺達にとっては少し大きすぎた愛情表現だったかもな」




ふと窓から外を見ると、雨が激しくなっていた。




雨が代わりに泣いてくれるのか。




・・・・・雨よ。もっと降ってくれ。


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