第四章 犠牲者第一号

七月十五日。




秀明館高校。




放課後。




「しかし、昨日のMDは白熱したよな」


 


半藤君がそう昨日の熱戦を振り返った。




「そんな悠長な事行っている場合?REDPALさんが一週間以内にフクマデンに殺害されるのかもしれないし」




大谷さんがそう苦言を呈した。




「本当に、殺害されるのか決まった訳ではないし、心配し過ぎだよ」




「あんた、ゲーム開始前と後で考えが変わったわね」




「そうか、まぁ、でもあのMDというゲーム傍観するだけだったら面白いしな」




「あんた、何言っているの?」




「単純にゲームが面白いと思っただけだ」




「全く、あんたって言う人は。ねぇ、妙子」




「うっ、うん、そうだね」




何なんだ。




この途方もない会話は。




今、僕達がどういう状況に立たされているのか分かっているのか?




人が殺されるかもしれないんだぞ。




「そう言えば、結局何だったんだよ、御神。相手を油断させて全員を助ける作戦って?」




「それは、プレイヤー達は今、信頼とは無縁の状況にいる。そして、プレイヤー全員を助けるにはプレイヤー同士の信頼を得なければならない。そうしないと、ライフポイントの譲り合いが出来ないからな。しかし、皆、金に盲目でそれを出来ない心理状態にある。よって、相手を油断させておいて、信頼出来ないが実は仲間意識があったという事がそれを最終的にする為の良薬となると考えているんだ。最後の俺のLEOへのライフポイントのプレゼントはそれの第一段階という所だった。しかし、REDPALを助けられなかったのは、俺の想定外の出来事に対する力不足のせいだったが」




「それは違うと思うよ。誰もREDPALが自殺行為を執るとは思えなかったし」


 


大谷さんがそう宥めた。




「有り難う。・・・・・皆、盛り上がっていた所、水を指して悪いが少し俺の話を聞いてくれないかな?」




「どうしたんだ、御神」




「俺のここまでのMDに対する見解を話したいんだ。まず、半藤、三堂、妙子に言っておきたい事がある」




「どうしたんだ?」




「実は今から話す事はもう亜理紗と宮内には話した事だ。これは本来話すべきではない事だと考えた。しかし、今回のMDの真相を解き明かし、未然に殺人を防ぐ為に、君達の力の必要になって来る。それは今から話す事を知らなければそれに対し、障害を持ち、意思疎通が出来なくなり、後で知ったら、余計話がややこしくなると考えているから、敢えて今ここで話そうと思う」




「何だよ、改まって」




「ああ、すまない。結論から先に言おう。一ヶ月前に起こり、俺達もその事件の当事者だった名古屋のツインホテルの事件の真犯人である今川晋司は一見自殺したに見えたが、佳純の父親である山鍋興業社長山鍋清彦によって殺害されたんだ。そして、俺達が見ていた 山鍋社長が実際に殺害したのではなく、その道のプロである通称影の共犯者と呼ばれる殺人代行者に殺害を依頼し、その影の共犯者によって今川さんは殺害されたんだ。そして、影の共犯者は二人いて、その内の一人は皆も知っている人物である遠野岳だ」




急な告白に唖然とした。場が沈黙となった。何を言っているんだ、御神君は?




あの優しそうな佳純さんのお父さんがツインホテルの事件の黒幕?




そんな事がありえるのか?




そして、遠野さんが殺人代行者の影の共犯者?




もう、訳が解らない。




「あっ、亜理沙、これは本当なの?」


 


秋山さんがこの重苦しく、殺伐とした空気を裂いた。




「・・・・・うっ、うん、・・・・・御免、今まで黙っていて・・・・・」


 


大谷さんが申し訳なさそうにたじろぐ。




「そして、まだ話は終わらなく、全ての話を聞き終わると、さらに皆は驚愕する事だろう。一気に話すから心して聞いてくれ。実は先日、安藤警部から連絡があり、そのツインホテルの事件の黒幕である山鍋社長が死体となって発見された。まだ、捜査中だが、その死因は山鍋社長を殺害した人物がいたからであろう。そして、その経緯はあのツインホテルの事件とは直接は関係なく山鍋社長に対して、元々殺意を持っていた人物がツインホテルの影の共犯者に別件で山鍋社長の殺害依頼をしたからだ。そして、実際に山鍋社長を殺害したのは恐らく、もう一人の影の共犯者か遠野さんだろう。何故なら、わざわざ、依頼人が殺人を犯す理由がないからだ。そして、その山鍋社長を殺害の依頼を影の共犯者にした人物は俺の推測だが、俺の方である程度目星は付いている。・・・・・その人物の正体は佳純の婚約者である笹野誠だ」


 


一体何を言っているんだ、御神君は・・・・








場が再び、沈黙になった。




「ちょっと、いいか、御神!なんでそんな重大な事今まで俺達に黙っていたんだよ!」


 


半藤君が静寂を破り、御神の胸ぐらを力一杯掴んだ。




「ちょっと、貴新!」




「・・・・・ちっ」


 


大谷さんがか弱い手でそれ制し、半藤君が手を離した。




「すまなかった。半藤・・・・・いや、三堂も妙子もだ」




「貴新・・・・・ごめんね」




「今まで隠していた理由は君達に余計な心配を懸けたくなかったからだけではなく、まだ、その確証がなかったし、あの時は色々な理由があって、あまり多くの人に知られたくなかったんだ」




「・・・それは本当の事なんだろうな」




「ああ、それは間違いない。・・・・・そして、話は今起きているMDの事に戻そう。俺は今回の主催者Xとあのツインホテルの事件の影の共犯者は同一人物だと思っている。その理由は、今回のMDの記載されていたメール内容とあのツインホテルの影の共犯者の計画とでその共通点とは殺人自体をするのは他人に委ねる事という犯罪の手口が似ているからだ。つまり、このゲームの主催者を突き止め、警察に突き出せば、ツインホテルの事件も本当に意味で解決出来る事になる。だから、俺は南野さんの誘いに素直に乗り、このゲームに参加したんだ。そして、この話を俺に持って来たという事は南野さんは恐らく、影の共犯者と繋がっている。それは陰の共犯者は俺をこのMDに参加させる事を条件に南野さんの計画を遂行すると南野さんに要求したからだと考える。何故なら、ツインホテルの事件と今回のMD、こんな奇怪な事件が両方とも俺に関わっているというこんな都合の良い事はないからだ。つまり、俺をこのゲームに参加させる事も陰の共犯者の計画の一部だという事だ。もし、ツインホテルの事件を計画した影の共犯者が俺を自分で計画した事件に誘う事を目的としていたのならば、あの佳純から俺への山鍋興業のオープンパティーの誘いは山鍋社長か誠さんから指示したものであり、佳純は知らない内に参加させられたのであって、この事件自体に意図的に加担していなくなく、結果からしてみれば俺が山鍋社長の娘であった佳純と友人だったのは偶然の産物で、影の共犯者にとっては思わぬ幸運だったという事だ。また、今回のMDも南野さんをダシに使い、俺を南野さんに同情させ、強制的に参加させる事が、南野さんが俺を訪ねて来た目的であり、俺をこのMDに参加させるきっかけを作ったんだ。そして、一回目のMDを終了した現時点でのここまでのMDに対する俺の考えを話そうと思う」




「お前をMDに参加させる事が陰の共犯者の計画の一部?」




「ああ、しかしその理由自体は俺にもまだ分からないし、想像も出来ないから、その話を一先ず置いといて、今回のMDについての俺の見解を話そうと思う」


 


僕はあまりの急展開と驚きについていける自信をなくしている。




「まずは、MDの参加者達つまりプレイヤーの話から話そうと思う。まず、各プレイヤーがこの危険なゲームに参加した理由について俺の考えを聞いて貰おうと思う。死のリスクを負ってまで建前上、金目当てで参加したのならば考えられるのは次の二通り。


 一、普通のサラリーマン、学生等、一般人が一攫千金を狙って参加した場合。


 二、特別大金は必要ないが、庶民に金が渡る事を許さなく、尚且つ自分が絶対に助かる保証を持っている金持ちの余興の場合。


 一の場合は例えば、死のリスクを負ってまで、年収五百万円のサラリーマンが二十年分の働く価値があると判断し、参加したいという事だ。二の場合は例えば性悪の金持ちが、裏でこのゲームに必ず勝つ方法があり、優勝賞金よりも安い金でそれを買い、例え何らかの手違いやアクシデントが発生しても自分が殺害されない保証がされているという事だ。そして、昨日のMDで出た質問 「現在自分自身が抱えている不満は?」の各プレイヤーの回答の正誤から、金持ちである事やそういった性格をした者であるプレイヤーの回答はなかったから、二の場合は考えられない。よって、金目的のプレイヤーのこのゲームに参加している理由は一の場合が殆どという事だ」




「まぁ、当たり前の事だな」


 


半藤君が話に割り込んだ。




「ああ、そしてこれからする話は、昨日行われたMDでプレイヤーの中に金銭以外の目的で参加している理由の推測だ。まずは、実際に選ばれた質問や回答やダウト宣言について思い出して欲しいのだが、二回目の質問だった質問二十四、「世の中に対して一言」の、俺、つまりDAIの回答に対してダウト宣言したプレイヤーがいたが、それは誰だったか覚えているか?」




御神君がそう言って僕達を見渡した。




「確か、KYUMだったわ」


 


大谷さんがそう答えた。




「そう。つまり俺に対し、ダウト宣言をしてきたという事はDAIの正体が御神蓮司だと知っていて俺の回答に対し、嘘を付いている確信があったのか?それとも、何か別の目的を果たす為、ダウト宣言を消化する為にそうしたと考えられる。まず、第一の場合、それは俺の情報を事前に知っていた場合だ。それだったら、俺に対しプレイ中、集中攻撃をし、俺を負かす行為をする筈だ。しかし、実際にはダウト宣言したのは間違った選択だった。この事から考えられるパターンはKYUMは自分の正体を俺に少ないヒントを出し、そこからの論理展開で、その結論を導き出す事を望んでいるという事だ。よって、その人物は俺が知っている者や面識がある者となる。何故なら、俺が知らない人物や面識のない者がKYUMだったらその正体を突き止めようがないからだ。そしてここで思い出して欲しい。陰の共犯者は二人だ。一人は遠野さんでもう一人の正体は判らない。よって、KYUMの正体は遠野さんという事になる」








僕達は唖然となった。




遠野さんがこのMDに参加している?




あのツインホテルの事件から二カ月しか経っていないのにもう、次の犯罪に手を染めているのか?




「どういう事なの?」




「つまり、遠野さんがDAI=御神蓮司だと知っているなら、俺が嘘を付いた回答を書き込んだらすかさず、ダウト宣言すれば良いという事になる。だから、質問内容が本名や生年月日、現在の住所、性別、職業、出身地の時に堂々と自分が勝つ為にダウト宣言出来る筈だ。しかし、その情報を事前に知っていて、俺にその正体を気付かれたくないのならば、いや、最低でもその正体を俺に当て指すという試験を俺に課していたのならば、俺に対しダウト宣言が出来ない筈だ。何故なら、そうしてしまってはDAI=御神蓮司だと知っているのは、主催者Xつまり陰の共犯者と密接な関係である遠野さんだという意図も簡単に俺に断定されるからな。そうなったら元も子のない。そこは最低限のヒントだけを出せば良い話だ。実際、遠野さんは質問二の「生年月日は?」の回答で俺に対しダウト宣言して来なかった。これは、DAIの正体が俺だと知っているならば、事前に調べれば直ぐに判る事で、あの時、俺が嘘を付いた事を判っていたのにも関わらず、渋っているLEOさんよりも先にダウト宣言出来ない状況だったが、もし、本気で勝ちに行くなら、非難を浴びようとも俺に対しダウト宣言する筈だ。まぁ、勇気を持って俺にダウト宣言して来たLEOさんの手柄でもあるな。よって、遠野さんがこのMDに参加しているのは勝つ事が目的ではなく、俺に自分の正体、つまりKYUMの正体を解き明かす事が目的であれば、ヒントをあまり出さない方法、つまり、そうするに違いなかったという事だ。そして、質問二十一、「過去の自分の中で一番大きな罪は?」でのKYUMの回答は動物を殺してしまった事だった。一応、人間はホモサピエンスという動物だからこの回答は間違いではないという事になる」




「しかし、何でそもそもこんな大それた事をしているんだ?そんな事をして主催者側は一体何の得になるんだ?」




「それはまだ解らない。このゲームをやる事自体に何か大きな別の意味があるかもしれないし、今俺が言った目的だけかもしれない。そして、主催者側、つまり、影の共犯者側は自分で決めたルールに違反して、利己的な事をやっても面白くはない筈、いやMDを開催する意味がない筈だ。これは陰の共犯者側から二回目の俺への挑戦状として考えるべきだ。つまり、この自分に課したルールは絶対に遵守するに違いないという事になる。そして、このMDの開催した理由として人殺しが目的の一部だとしたら、REDPALが負けて、MDに参加しているフクマデンに殺害される事が最初から仕組まれていた事かもしれない」




「じゃあ、遠野さんがREDPALを殺害しようとしているフクマデンじゃねーの?」




 怒りの熱が収まったのか?




半藤君のいつもと同じく口調が軽い。




「それはまだ解らないし、案外、南野さんの方が何か関係しているのかもしれないと思っているんだ」




「何故、そう言えるんだ?」




「南野さんが無名の俺を訪ねて来たからだ。俺はツインホテルの事件を解決したとはいえ只の高校生だ。しかも、その情報は世の中には出ておらず、あの事件の関係者の人間だけしか知らない事だ。つまり、南野さんがもし陰の共犯者とは関係のない普通の大学生なら俺を訪ねて来た事自体、可笑しいという事になる」




「だったら、関係しているのではなく南野さんが別のプレイヤーとなって、参加しているフクマデンかもしれないじゃないの?」


 


大谷さんがそう推論した。




「確かにその可能性もあるな。しかし、まだ、REDPALが誰なのかすらも判らないし、その正体を突き止めようもない。影の共犯者からニュースや新聞を通じて、音沙汰がない事からまだ殺害されてもいないだろう。そして、南野さんがフクマデンだという証拠はないし、今は動くのを待つしかないだろうな」




「だったら、警察に南野さんの監視を頼めば、良いんじゃない?」


 


大谷さんがそう提案した。




「それをしたのならば、南野さんが遠野さんか陰の共犯者にそれを報告され、被害が大きく可能性もあるし、そもそも、警察に連絡してはならないというMDの規約に違反し、俺が殺害される可能性もあるしな。正直まだ死にたくないし」


 


御神君がそう笑いながら言った。




「そっ、そう言えばそうだったわね。ごめん、忘れていた」




「別に謝る必要はないよ」




「なぁ、御神、取り敢えず南野さんに連絡を取って、会ってみた方が良いと思うんだけど」




「そうね」




半藤君がそう提案し、大谷さんがその案に乗る。




「そうだな。そうしよう」




「なら、俺も会う事にしよう。言いたい事もあるしな」


 


半藤君が乗り気だ。南野さんに余程あの件で言いたい事があるのだろう。




早速、御神君が三日後に南野さんに会う約束を取り次いだ。半藤君の提案でまたあのファミレスで会う事になった。




僕達が会いに行くのは、殺人者なのか?




それとも只の大学生なのか?




どちらにしてもファミレスへ向かう足取りは重い筈だ。


 


私は怖かった。




この二カ月の自分の周りで起こる奇怪な事件の数に。




これから私達は何処へ向かうのだろうか?




そして、私達はどうなるのか?




不明確な未来に憂鬱だった。








ある街の路地裏。




ある男が酔っている男の肩を抱きながら、この路地裏にやって来た。




「なんだよー。こんな所に連れ出して」




「お前に見せたいものがあるんだよ」




「なんだよ、見せたいものって」




「知りたいか、なら顔を横に向けてみろ」




「うん?」




酔っている男が半信半疑で顔を横に向けてみた。




「おっ、お前、なんでここにいるんだよ」




「知りたいか、それは俺がフクマデンだからだ」




「おっ、お前がそうだったのか。頼む、許してくれ」




「死ね」










七月十八日十八時四十二分。




ファミレス。




「南野さん、四日前は何で来なかったんですか?」




少し遅刻した南野さんがファミレスに到着するや否や半藤君がいきなり呵責した。




腕を見ると今日は腕時計をしていない。




だから、時間を忘れていたのか。




「すみません。四日前はバイトがありまして、どうしても抜け出す事が出来なかったのです」




「バイトって、御神に嫌な事、全部押し付けて自分はそんな事している場合ですか!」




半藤君の語尾が強くなる。




「本当にすみませんでした」




「取り敢えず、南野さん、実は第一回目のMDを終えまして、早速、敗北者が出ました」




御神君が話題を変えた。




「そうですか。誰が負けたのですか?」




「その負けた人の名前は判りませんが、負けたのはREDPALというIDのプレイヤーです」




「そうですか・・・・・御神君はまだ、フクマデンの正体を突き止めてないですよね?」




「ええ、残念ながら、まだ主催者Xやフクマデンを突き詰める事には材料が足らな過ぎるので今は情報収集の段階です」




「・・・・・そうですか」




「所で、南野さん、バイトってそんなにお金が必要なんですか?」




業を煮やした半藤君が野暮な事を訊いた。




「ええ、まぁ」




「だったら、自分がMDに参加して、一億円を手に入れれば良いじゃないですか?」




「いえ、一億円も要りませんので。バイトはあくまでも学費と生活費の為です。それに自分の命と一億円を天秤には掛けられません」




「南野さんって物欲ってないんですか」




「そうですね。ない方かもしれませんね」




「海外旅行行ってみたいとか、家とか車が欲しいとかないんですね」




「海外旅行は何度か行った事がありますし、実家は一軒家で車二台持ちなので今は特に家とか車が欲しいというのはないですね」




「そうなんですね。御神の事、羨ましがっていた割には結構、裕福な家柄で育ったんですね」


 


半藤君がさらに深入りする。




「いえ、御神君の家には到底及びません」




「そんな事ないでしょう。ちょっと財布の中身を見せてくれませんか?」




「ちょっと、貴新、失礼でしょう」


 


確かに失礼だ。MDの時集まらなかった腹いせか?




「まぁ、良いですよ」


 


そう言って、南野さんは半藤君に財布を渡し、半藤君はテーブルの下でこっそりその中身を確認した。




「・・・・・やっぱり、沢山、お札が入っている」




 そう言って、半藤君は南野さんに財布を返した。




「まぁ、そんな事より話をMDの事に戻そう」




 御神君が話題を再びMDの事にしようと提案した。




「そうだな」




半藤君がそれに同意した。




「取り敢えず、フクマデンの事を置いていて、MDでは予想以上に他のプレイヤー達は優秀だと思いました。皆、攻撃的ながらも慎重で、他者の裏の考えを読んでいます。そして、他のプレイヤーからの攻撃で本質を突かれた事が解らない様に上手くかわす。そんな人達の集まりの闘いですから、こちらとしても生き残る事は大変だと思います。しかし、フクマデンの正体を突き止めるにはこちらとしても大きなリスクを取って挑まなければならないと考えています」




「南野さん、単刀直入に訊きます。・・・・・」




「亜理紗、その話はまだ・・・・・」




大谷さんが披瀝しようとするが半藤君がそれを制止した。




「どうされたのですか?」




南野さんが大谷さんを見つめた。




「いいえ、何でもないです」


 


半藤君が代わりに答えた。




「もう用件がないようでしたら、これから、バイトがあるので今日はこれで失礼します」




そう言い残して、南野さんは席を立ち上がり去って行った。








「バイトで忙しい人だな」




 南野さんが店から出て行くのを見届けると半藤君がそう皮肉った。




「貴新、さっきは何で止めたのよ」




「あれか?どうせ、お前、「南野さんは実はフクマデンですか?」って訊こうとした事だろ。あそこでそれを言ったら、全てが台無しになるからだろ」




「そっ、そうだけど。どういう事?」




「分からないかな。つまり、南野さんが仮に陰の共犯者と繋がりがあり、今回のMDのフクマデンだとしたら、それをまだ、俺達には気付かれていないと思っている。つまり、このまま静観していたら、フクマデンとしてのボロを出すかもしれないという事だ。しかし、さっき亜理紗がしようとした、「南野さんがフクマデンではないか」という指名を本人にしたら、南野さんがフクマデンだという証拠が何も出ないままで終わるんだぞ。そうなったら元の子もない」




「だけど、言わなかったら、REDPALさんが殺害されるかもしれないじゃない。あんたはそれで良いって言うの!」




「REDPALはこのゲームに敗北すると殺害されるという事を事前に分かっていてこのゲームに参加したんだ。基本的には自己責任だ。それに誰かと交代するという選択肢もあった筈だ」




「REDPALさんが本当は誰かに変わって欲しかったけど誰にも相談出来なかったのかもしれないじゃない」




大谷さんVS半藤君のバトルが勃発した。




「南野さんの反応を見ると、あくまでも自分はバイトがあったから、MDを静観していなかったという事になっているな」




「あくまでも?という事はお前の中では南野さんがフクマデンだという事は決定なのか、御神?」




「まだ判らないが、その可能性が高くなったとでも言っておこう」




「可能性?あの会話の中で一体何を発見したんだ?」




「南野さんがもう自分とはフクマデンの正体を突き止めた事を俺に訊いて来たからだ。そして、再びMDの話に戻した時、あまり話に興味がなさそうだったからだ」




「なるほど、つまり自分がフクマデンならば、それが気になって当たり前か。焦ってボロを出す前にそれ以外のMDの事には触れないか。・・・・・確かにフクマデンが取りたい行為だな」




「そうね。その考えには私も同意かも」




大谷さんもそれに賛成した。




私は皆が何処か違う世界に行ってしまった様な気がした。




早く、MD何か終われば良い。










七月十九日。




秀明館高校。




放課後。




「皆、これから何処かへ買い物に出掛けないか?」


 


御神君がそう僕達に提案してきた。




「明後日は第二回目のMDなのよ。そんな悠長な事していても良い訳?」


 


大谷さんが尤もな警告した。




「いや、最近、皆で出掛けていないし、気分転換でもどうかな?と思ってさ。夏休みも近い事だし」




「蓮司がそう言うのならば・・・・・」




「じゃ、行こう」


 


僕達五人は学校から一番近い大型ショッピングモールに向かう事にした。




このお出掛けは束の間の休息となるのか?




僕達は田町駅へ向かい、電車に乗った。




三十分後、お目当てのショッピングモールに着いた。




平日もあって、客はまばらだった。




この人達は今、裏の世界に存在する殺人者を知らないで毎日暮らしている。




僕は何か優越感みたいな言葉では言い表せない感情に浸っていた。




これは正義なのか?




それとも悪なのか?




僕達は、ファッション店街やフード街を適当にぶらついていた。




皆、気に入った物を買っていた。




久しぶりに服を買った。




皆が買い物を終えて、帰ろうとし、その途中家電量販店の前を通った。




大型テレビはNHKのニュース番組が流れていた。




ふと、全員が自然と立ち止まった。




「・・・・・続いてのニュースです。今朝未明、東京都江東区の自宅アパートで男性の変死体が発見されました。発見されたのは園都大学四年則島智さん二十二歳。第一発見者の話によると、・・・・・また、遺体にはカラスのマークが貼ってあったとの事です」




「ついに、動いたか・・・・・」




御神君が小さくそう呟いた。




僕は身震いした。




ついにフクマデンが動いた。




犯人は果して遠野さんなのか?




それとも南野さんなのか?




はたまた別の誰かなのか?




その謎の解明にはまだ遠いという事だけは僕でも解っていた。

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