71 夏旅行!(2)

 サウスフィールド公爵領……といっても、それほど大きなものではない。

 サウスフィールド公爵家は、ほぼ騎士団の運営と、騎士育成で賄っている。

 公爵領というものもあるにはあるけれど、基本的には合宿用に使う程度のものだ。

 とはいえ、その合宿を年間通してやっているおかげで、それ目当てに作られた商業施設を中心としたなかなか大きな町を備えている。


 馬車は長閑な田舎の風景の中を走る。

 次第に、大きな建物が立ち並ぶ町が見えてくる。


 王都ほどではないが、大きな商店街もある。

 カフェや宿も多くある。

 9万人ほどが暮らす、なかなか大きな都市だ。


「綺麗なところですね〜」

 アイリが嬉しそうに声をあげる。

「落ち着いた綺麗なところよね」

 アリアナも久しぶりのその町を眺めた。


 陽の光を浴び、王都より少し明るい光の中、王都より少し古い建物が列をなしている。

 のんびりとした人々の営みが見える。

 中には、アカデミーの馬車に気付き、手を振ってくれる人もいた。三人で手を振り返す。


 賑やかな町を通り過ぎ、馬車がたどり着いたのは、町外れにある大きな屋敷だった。

 公爵家の別荘ではあるが、騎士達の合宿所が併設してあり、ここはここで賑やかだ。

 王都にある公爵邸にも養成学校が併設してあるので賑やかには違いないが、こちらの方が騎士達の訓練の声が響き、泥臭さを感じる賑やかさだった。

 三人は、ここでの使用人全員に挨拶させてもらったが、それにしても王都の屋敷のように気取ってばかりではなく、おおらかそうな使用人も散見された。


 コック長である“おヒゲのミートパイ”も、かなりガサツな人だ。

「お嬢さん方、苦手なモノはありやすかい?」

「ありがとう、ないわ」

 という決まり文句のような会話を交わす。

 貴族令嬢として、アレルギーでもなければ嫌いな食べ物を作るわけにはいかないし、他人に弱点を教えるわけにもいかなかった。

「じゃあ、晩餐にはワシが得意のミートパイをご馳走しやしょう!」

「楽しみにしてるわね」

 もちろん、“おヒゲのミートパイ”は本名ではない。その得意料理がミートパイなのだ。

 パイ料理はこの辺りの名産で、パイに関してはこのおヒゲのミートパイの右に出る者はいない。


 三人は夕食を楽しみにしながら、早速、ジェイリーを連れて挨拶がてら合宿所の方へ向かう。

 素振りの掛け声の中、訓練場に顔を出すと、そこには、大勢の訓練生が居た。

 どうやら貴族の子息中心らしい。

 中には、ロドリアスの姿も見える。


 鷹のような視線で訓練生を教えているプラタナス卿を見つけ、挨拶をしようと近づいて行くと、

「アリアナ様」

 と後ろから声がかけられた。



◇◇◇◇◇



しばらくはお嬢様三人の旅行エピソードになると思います。

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