38 剣術大会(1)

 アカデミーで春のイベントといえば、剣術大会だ。

 男女混合、学年混合で、中等科高等科に分かれて一対一で戦う。

 立候補者だけ出場できる学内のみの大会だけれど、アカデミー内でも自慢の競技場で行われる剣術大会は、応援席も沢山の生徒達で埋まり、毎年盛大に行われる。

 教員用の観覧席には、学園長や新聞記者も顔を見せる。

 競技場の外には、カフェが出店するワゴンも多数見られ、まるでお祭りのようだ。


 ドラーグも、タイリウ商会に関連する生徒達と、ドリンクのワゴンを出すと言っていた。


「まだ中にも入れていないのに、すごい人ね」

 みんな貴族だけあって、押し合いへし合いということにはなっていないけれど、まだ中等科の試合だというのに、人の列が出来ていた。

「早くに出てきたのに、すでに遅かったわね」

 日焼けを気にしながら、シシリーがあっけらかんと言う。


 アリアナはシシリーと二人、競技場の中へ入っていった。


 青空の下で、歓声が聞こえる。

 まだ試合は始まっていないというのに、すでにすごい熱気で溢れていた。


 円状に広がる観覧席を二人見回した。

 観覧席は、生徒全員が座れるほどの数がある。

 けれど、自由席なもので、どうしても前の方はすでに埋まってしまっていた。


「二人……二人……」

 シシリーがキョロキョロと見回す。

「あ、あそこ!」

 真ん中の方の席が、数席空いているのが見えた。

 ひょこひょこと人の前を通り席へ座ると、同時に隣の席に座る気配がした。


「あ」

「ん?」


 右側の人と目が合う。

「レイ、アルノー、こんにちは」

 隣に座ったのはレイノルドだった。

「ああ」

 レイノルドの簡素な挨拶と違い、レイノルドの隣のアルノーは手を振ってくれる。


 ……こうやって、レイと隣り合って座るなんて何年ぶりだろう。

 これほど、近いなんて。


「…………」

 少しだけ緊張したまま、時間が流れる。


 ドッとした歓声で、剣術大会が始まった。


 毎年のことだけれど、すごい声……!


「すごいな」

 今年アカデミーに入ったばかりのレイノルドとアルノーが圧倒された。


「すごいでしょう!貴族とは思えないわよね」

 すっかり興奮したアリアナが、レイノルドに反応した。


「ああ」

 返事を聞かず、アリアナは興奮したまま前を向いてしまう。

「…………」


 サウスフィールド家は騎士の家系。

 どうしても剣を見ると興奮してしまうのだろう。

 レイノルドは、呆れつつもちょっと寂しく思う。


「あれ……!」

 シシリーが見つけたのは、シャルル・バーガンディだ。

「3年生……!あの子3年生だったのね」

「あら……!」

 はしゃぐシシリーの隣で、アリアナは控えめな反応だったけれど、いつも以上にはしゃいではいた。

 剣の光を追う、キラキラとした瞳。


 シャルル・バーガンディは、中等科の中でも、優勝候補の一人だった。

 なるほど、確かに様になってはいるが。


 ……そんなに剣を使える奴がいいのか?


 ため息を吐きつつも、レイノルドも公爵家の人間として見ておかなければならないその大会を冷めた瞳で眺めた。

 ここから、国の主力ともいえる騎士が輩出されるのは、紛れもない事実なのだから。



◇◇◇◇◇



剣術大会エピソードです。5話程度のちょっと長めのエピソードになりますが、どうぞお付き合いくださいませ〜。

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