13 花祭りの日(4)
少し照れながら後ろを振り返ると、そこには当たり前のようにジェイリーとオニオン卿が居た。
「あら」
アリアナがにっこりと笑う。
ジェイリーも笑顔を見せ、
「お似合いですね」
と言ってくれた。
黒髪の少年を振り返る。
「ここまでみたいね」
「ああ」
アリアナより少し背の高い少年は、心残りがあることを隠すこともしない少し寂しそうな顔で、アリアナと顔を見合わせた。
「今日は、ありがとう」
アリアナが笑うと、少年もつられるように笑う。
「実は、付き合ってもらったのは僕のほうなんだ。こちらこそ、ありがとう」
そこで、ジェイリーとオニオン卿が、呆れたようなため息を吐いた。
「じゃあ、」
アリアナと少年が向かい合う。
春のそよ風に、花びらが舞い上がる。
「また、会えるといいわね」
黒髪の少年は優しく笑う。
「ああ。また」
くるりと家へ向かって歩き出す。
アリアナは、なぜだか不思議な気持ちになっていた。
どうしたんだろう。
ほんの少し一緒に居ただけなのに、離れる事を寂しく思うなんて。
ジュースを飲んで、少し遊んだだけ。
それだけの関係のはずだった。
けど、思ってしまう。
また、会えるだろうか。
衣服が上等なものだったから、貴族なんじゃないかとは思うけれど。
あんな男の子はパーティーでもアカデミーでも、見た覚えがない。
名前を聞きそびれてしまったから、名前で探す事もできない。
アリアナは普段はあまり中央通りの方までは来ないから、同じ場所でばったりなんて事もないだろう。
それでも、思ってしまう。
また会えたらいいと。
つい、後ろを振り返る。
黒髪の少年は、まだ、こちらを見ていた。
「…………っ」
なんでそんな風に私のことを見てるの。
まるで仲のいい友達と別れる時みたいに。
もしくは、愛しい人を見送る時みたいに。
私があの人を知らないように、あの人も私を知らないはずなのに。
黒髪の少年が、小さく手を振る。
その姿がなんだか寂しそうに見えて。
泣くんじゃないかと、思えてしまった。
そんなわけないのに。
そんな風に見えたのも、きっと光の加減だ。
夕陽がチカチカと辺りを照らすから、眩しくてそんな風に見えてしまっただけだ。
アリアナも、笑顔で手を振って、その場を離れた。
「…………」
夕陽のオレンジが、だんだんと強くなっていく。
祭りの中心地から離れたせいで、通りの人はまばらになる。
ブラスバンドの音楽も、だんだんと遠ざかっていく。
カツカツとした、いつもの石畳の感触がする。
現実に、引き戻されていく。
「……なんだか、変な子だったわね」
誰に言うともなく、声に出した。
また、会えるだろうか。
そうしたら、まず名前を聞こう。
今度はちゃんとした、友達になるために。
◇◇◇◇◇
護衛のお二人、呼び止められてうっかり手を離してしまいましたが、アリアナを見失ったわけではありません。離れた所からずっと見守っておりました。
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