11 花祭りの日(2)
そんな風に、3人は歩き回った。
華やかで、騒がしくて、楽しくて、みんなが笑っていた。
夕方に近付いた頃、中央通りに入ると、いつにない人混みだった。
「お嬢様、手を離さないでくださいね」
「ええ」
アリアナを先頭に、3人は人をかき分けながら歩く。
どうしよう。
あっちに行かないと、家に帰れないのに。
オロオロしながら、人混みの中を歩いて行くと、ふわっと、何かを感じた。
「…………」
今、すれ違った人……。
黒いスカーフをつけた少年だった。
黒い髪の……。
そんな人、知っている人には居ないような……。
なんでこんなに、気になってしまったんだろう。
すれ違った少年に、気を取られた直後。
くん、とジェイリーと繋いでいた手が引かれた。
どうやらジェイリーが立ち止まったようだった。
押し流される……!
「ジェイリ……」
呼びかけたのも束の間。
ジェイリーと繋いでいた手が、離れてしまった。
「えっ」
嘘、どうしよう。
「お嬢様……っ」
「ジェイリー!」
追いかけようにも、人混みに流されてしまう。
アリアナの目の前は、あっという間に人の波でいっぱいになった。
どうしよう……こういう時は……。
知識を総動員して考える。
迷子センター……?
いや、待って、この街に迷子センターなんて便利なものあったかしら!?
頭の中で、よくある迷子のお知らせがグルグルと巡る。
その時、アリアナの腕がぐいっと引かれた。
え?
見上げると、腕を引いたのは、さっきすれ違った少年だった。
え……?
「大丈夫?」
え…………?
少し高い背。
クシャクシャの黒髪。
深い闇色の瞳。
やっぱり、知らない人だ。
こんな状況、危ないに決まってる。
誘拐か、殺人か、脅迫か……。
けど。
その少年が、アリアナの無事を確かめて、あまりにもほっとした顔をしたから。
真っ直ぐに覗いてくるその瞳に、何故だか安心してしまったから。
何故だかうっかり、泣きそうになってしまったから。
「うん、大丈夫」
その知らない少年に、うっかり普通に返事をしてしまった。
「ひとまず、この人混みを抜けよう」
そのまま腕を引かれ、なんとか人の波をかき分けながら、中央通りからはずれることが出来た。
「困ったね……。はぐれてしまって。待ち合わせ場所は決めてる?」
ふ〜むと少年がアリアナを窺った。
「いいえ」
困ったように首を振る。
けれど、一番困っているのは、この少年について来てしまったことだ。
同じくらいの年齢……、もしかしたら年下な気もする。
アカデミーでも見た覚えのない顔だ。
けれど、キョロキョロっと周りを見渡した少年が、
「大丈夫だよ」
とふっと笑ったので、アリアナはそのまま黙り込んでしまった。
きゅっと少年がアリアナの手を握る。
「見つかるまで、一緒にいるよ。ここもすぐ人で溢れる。危ないから、もう少しあっちに行こう」
そう言って、少年が駆け出す。
「え、あ、うん」
アリアナは、それが当たり前のように、その少年についていく事にした。
◇◇◇◇◇
『迷子のお知らせです。サウスフィールド公爵家の、アリアナ・サウスフィールド様が、お連れ様をお待ちです』
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