9 お久しぶりのティーパーティー(3)
「エリックったら、レイノルドをいじめるのはやめなさいな」
プリシラの困った笑顔で少しだけ空気が和んだ。
けど、いじめられているのは、私の方では!?
「そうよ、お兄様。今日はあたしがみんなの好きなケーキを自分で選んだの。アカデミーでも、頑張ってねって気持ちを込めて。ここは穏やかに楽しんで欲しいわ」
キアラがそう言うと、合図を送るまでもなく、メイド達は5種類のケーキを持ってきた。
目の前にホールケーキが5つ。
なかなかに豪華なお茶の時間だ。
「まず、あたしが好きな苺のショートケーキ!」
大皿に乗っているのは、苺がふんだんに使われた大きなショートケーキ。
「美味しそうね」
「でしょう!」
さすが王宮のパティシエだけある、ツヤツヤとした高貴さを纏うケーキだ。
「そして、お姉様が好きなナッツのケーキ」
お皿には、ナッツを使ったスポンジに真っ白にクリームが塗ってあるケーキが載っている。
「綺麗ね」
どれも美味しそうで、目がウルウルしてしまう。
「お兄様には、チョコレートケーキを」
エリックが嬉しそうにした。
「俺がチョコレートが好きなの、覚えてたんだな」
「子供の頃から好きだったよね」
アリアナが笑う。
「ああ、君に食べさせてもらえたら、より一層美味しいんだろうな」
…………ん?
一国の王子が何言ってるんだろう。
なんて思い、笑って流そうとしたのも一瞬だった。
いけないいけない。
私のハーレムに誘う予定の人だった。
応戦しなくては!
アリアナは、ふっと笑顔になった。
甘えっ子のような、極上の笑顔。
「じゃあ、今度、二人っきりの時にね」
一瞬で沈黙が降り、その場に居たアリアナ以外の全員が、若干頬を赤らめた。
どうだ!
ホストを学んだ公爵令嬢の威力は!!
謎の沈黙を割って入ったのは、キアラだ。
「あ、アリアナのケーキはね、マスカットのタルトなの」
「わぁ……!覚えててくれたのね!」
マスカットと真っ白なクリームのコントラストが最高だ。
「小さい頃、綺麗だって感動して食べてたね。君の好きな色だろ?」
エリックが笑う。
「そうなの。キラキラして綺麗よね」
そう……。けど、そこまで感動したのには理由があったような……。
「最後に、レイノルドには、さっぱりしたチーズケーキにスミレの砂糖漬けを乗せたものよ」
「これも綺麗ね」
「この間、レイノルドにこのケーキを出したら、このケーキを見てため息をついたのよ!」
キアラの話を聞きながらレイノルドの方を振り向くと、レイノルドの機嫌はより一層悪くなったようで。
なんだか怖い顔で固まっていた。
…………?????
ケーキの話しかしてないのに、どうしてこうなったの!?
そんな風に、局地的に真っ黒な空気を渦巻かせながら、ティーパーティーは和やかに進んだ。
気付けば、空気はだんだんと、夕方の冷たさを帯びるようになっていた。
「もうこんな時間ね。お茶会も終わりにしなきゃ。みんな、……アカデミー楽しんで」
キアラが少し寂しそうに笑う。
「大丈夫よ。私達は家から通うんですもの。いつでも一緒よ」
プリシラがキアラを慰める。
「ええ、今日はありがとう」
口々に挨拶を交わしながら、ティーパーティーは終わりの時間を迎えた。
「では、お嬢様。お暇しましょう」
「ええ」
エスコートしてくれるジェイリーの手を取った。
「……なんで、護衛がエスコートなんて」
突っかかってきたのは、やはりレイノルドだ。
「ん?仲良しだから……?」
「大事なお嬢様なので」
「…………」
最初から最後まで、レイノルドとはなんだか上手くいかなかった。
まあ、……世の中、気が合わない人が居るのも、しょうがないわね。
◇◇◇◇◇
基本的に規律が厳しいということはない国ですが、サウスフィールド家は特に緩いのかもしれません……。
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